状況は、おおよそ分かった
戻ってきたスノーさんに連れられて、僕はブルド大国の近衛兵が野営している場所へ着いた。
短かったけど逃亡生活は大変で、寝不足が続いて体は疲れている。今なら歩きながら寝られそうだ。
左右にフラフラしているとスノーさんが体を支えてくれた。
「休める場所を用意しています。今後の話をする前に、ゆっくり寝てください」
「ありがとう」
何も考えられないため、案内されるまま天幕に入った。
簡易だけどベッドがある。すぐ横になると、ルアンナさんが僕に話しかけてきた。
「天幕の護衛は我々が担当します。何人たりとも中に入れないのでご安心を」
「頼りにしています」
ルアンナさんの後ろにいる、リテートさん、エリンさんにも微笑みを向けると、スノーさんを引き連れて、みんな出て行ってしまった。
天幕の天井にはランタンがぶら下がっている。
じんわりと光っていて目に優しい。
ブルド大国に着いたら大変な日々になるんだろうなと思っていたけど、その前に大きなトラブルに巻き込まれるとは思わなかったな。
武力による反乱が起こりかけているって、大きな問題だよね。
平和的に解決してくれればいいんだけど難しそうだ。
どうすればいいのか分からず、嫌な未来だけがグルグルと脳内を駆け巡り、疲れた僕はそのまま寝てしまった。
* * *
目が覚めたときは昼過ぎだった。
寝過ぎてしまったみたい。
体を起こして状態を確認してみるけど違和感はない。顔がよだれでベトベトするなんてこともないので、誰も侵入してこなかったのだろう。
体をほぐしてから天幕の外へ出る。
入り口にはルアンナさんが立っていた。
「おはようございます」
「おはよう。少しは元気になりましたか?」
「はい。ぐっすり寝て体力は回復しました」
疲れているだろうに、そんな素振りは見せず頭を撫でてくれた。
周囲には見慣れない女性が多い。ブルド大国の近衛兵なんだろう。
彼女たちは僕を見ると集まってきて、取り囲んできた。
「話に聞いていたより可愛いね」
「ユーリテスが狙うのも納得だ」
「つまみ食いしてもいいかな?」
「セレプティア隊長に殺される覚悟があるならいいんじゃない」
「下半身を触るぐらいならバレないって」
ジワジワと僕に近づいてきた。ルアンナさんが前に立って守ろうとしているけど、人数差があって難しそうだ。
ブルド大国も他の国と分からない。
肉食系女子ばかりだ。
「何をしている!」
襲われる覚悟をしていたら、凜とした声が聞こえた。
人がさーっと左右に割れて道ができると、短髪の女性が目に入った。隣にはスノーさんがいる。
「君は……イオディプス君か。なるほど、状況はおおよそ分かった」
腰にぶら下げている剣を抜くと、短髪の女性が大声を出す。
「周辺にユーリテス派閥のクソが居るかもしれないんだぞ! 仕事はどうした!!」
空気がビリビリするほどの振動だ。殺気もすごい。口答えをしたら剣で斬り殺されるだろうイメージが即座に沸いた。
僕とを取り囲んでいたブルド大国の騎士たちは、逃げるようにして去って行く。
持ち場に戻ったのかな。
剣を鞘に収めると、短髪の女性が僕の前に立った。
「部下が失礼した。私は近衛兵の隊長をしているセレプティアだ。私の命に替えても君の安全を守ろう」
「イオディプスです。何かあれば僕のスキルを使ってサポートするので、全員生きて戻りましょう」
「噂に聞くスキルブースターがあれば、それも可能だろうな。よろしく頼む」
セレプティアさんが手を出しだしたので握手をした。
初対面の感触は悪くないようで、にっこりと笑ってくれている。
ブルド大国は傲慢な人が多いと思っていたので、ちょっと意外だった。
「これからの予定を聞いてもいいでしょうか?」
「天幕の撤去作業が終わり次第、我が国へ向かう。馬に乗ってもらうことになるが、よろしいか?」
馬車はないみたいだ。目立つからかな?
体力も劣るため馬があるのはありがたいけど、一人じゃ乗れないんだよね。
「ルアンナさんと一緒なら大丈夫です」
「イオディプス君……っ!」
指名されて感動しているのを無視しつつ、セレプティアさんを見る。
貴方の部下を信用してないですよ、と宣言したようなものだけど、不快感は抱いてないみたい。少なくとも表面上は友好的な雰囲気のままだ。
「わかった。いいだろう。他二人の騎士も側に置くことを許可する」
「ありがとうございます」
「裏切り者を出してしまったこちら側の落ち度だ。礼はいらん」
手を離すとセレプティアさんは、颯爽と行ってしまった。
スノーさんも小さく頭を下げてから付いていく。
「イオディプス君~~~!」
リテートさんとエリンさんが抱きついてきた。
レベッタさんが二人に増えたみたいだ。彼女ほどじゃないけど、気安く接触してくるところは似ている。
「二人とも! 今は油断せず警戒を続けなさい!」
部下の暴走に、ルアンナさんは怒ったみたいだ。頭を叩いて教育的指導をしている。
「痛いですって!」
「やめて! 改心しますから!」
ブルド大国の人たちは、きっちりした性格に思えたけど、ナイテア王国の人たちは自由奔放だ。
これが国民性なんだろうか。
どちらも嫌いじゃないけど、親しみやすいのはナイテア王国だ。
僕との相性もよく、転生した場所は正解だったなと、今さら実感してしまった。