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今のうちに伝えておきたいことがあります

 夕食は野菜をドロドロに溶かしたスープだった。肉は入っていない。予定より遅れることになったので、食料の節約をすると決めたみたいなんだ。


 食事を持ってきてくれた女性は申し訳なさそうにしていたけど、僕は特に気にしていない。みんなと同じで問題ないからね。むしろ特別扱いされる方が恐縮しちゃう。


 女性に襲われないよう、僕は馬車で一人食事を進めている。


 塩はたっぷりと入っていて、野菜の甘みとあいまって美味しい。旅先だと考えれば十分だ。すぐに食べ終わりそうだ。


 スプーンを動かす手を止めず食事を進めていると、外が騒がしいことに気づく。


「何かあったのかな」


 窓から外を見ると、騎士のみんなが武器を持って空を見ていた。


 ここからじゃよく分からない。


 ドアを開けて外へ飛び出す。


 上空に光の球が浮かんでいて、蜥蜴型の鳥、たぶんだけどワイバーンが空中に一匹いた。


 何本もの矢が放たれているけど硬い皮膚に弾かれている。攻撃は効いてない。スキルを使えばダメージは与えられそうだけど、弓系等を持っている人はいないようだ。


「イオディプス君! 危ないので中に入っていてください!」


 僕の姿を見つけたスノーさんが、慌てて駆け寄ってきた。


 馬車へ押し込もうとしてきたので抱きついて抵抗すると、顔が真っ赤になって動きが止まった。


「僕のスキルで援護したいんです。スノーさんは遠距離系のスキルを持っていますか?」

「え、ああ、一応、私は火法のスキルを持っていますが、ランクは低いので強くありません」


 呆けた顔をしていたけど、すぐに真顔になって返事をしてくれた。


「スキルがあるなら大丈夫です。僕が援護するので使って下さい」


 スノーさんの背後に回って抱きしめ、首筋にキスをする。スキルブースターが発動してスキルが進化したはずだ。


「あぁっ! 体の奥……下半身が熱い! これがSSランクスキルの力っ!」


 全身を震わせながら、スノーさんは興奮していた。


 女性特有の甘い匂いが強くなっている。フェロモンってやつなのかな。少しだけ興奮してしまった。


『ファイヤーランス!』


 ワイバーンを越えるほど巨大な炎の槍が頭上に発生した。


 周囲にいる騎士たちが、僕とスノーさんを凝視している。


 そのなかにルアンナさんもいて、駆けつけてくれた。


「スキルブースターを使ったのですか?」

「うん」

「ずるいっ! ……じゃなくて助かりました」


 本音をポロリとこぼしたけど、今はそれどころじゃないのでつっこまない。


 空を見上げる。


「イオディプス君との愛の結晶を受け取りなさいっ!」


 初対面の時は冷たく、男性相手に一歩も引かない女性だったけど、スノーさんもこの世界の住民なんだなと安心した。


 愛の結晶――炎の槍はワイバーンを飲み込んで、消し炭にすると夜空へ消えていった。


 他に魔物の姿はない。


 無事に撃退できたみたいだ。


「団長が隔意を抱く理由が分かった……これは禁断の麻薬だ……」


 スノーさんが興奮気味に何か言ってたけど、勝利の歓声でうるさくて聞こえなかった。


 呆然とした顔をしていて動いてない。大丈夫なのかなと思って近づこうとしたら、肩に誰かの手が置かれて止められてしまった。


 後ろを振り返るとルアンナさんだった。


「今のうちに伝えておきたいことがあります」


 普段とは違った真剣な顔だ。何があったんだろう。


「移動中にブルド大国の騎士と交流をして情報を集めたのですが……」


 途中で止めて、誰もいないか周囲を見渡している。


 リテートさん、エリンさんの二人が、僕に近づこうとしている人に話しかけて、足止めをしている姿が見えた。


「現在、女王と一部の騎士団が反発しているそうです」

「それって良くないことですよね」

「はい。最悪、滞在中にクーデターが起こる可能性があります」


 軍事勢力が政治、今回だと王族に対して反乱を起こすってことだよね!?


 大国と呼ばれるほどの国力があるなら、大きな争いに発展しそうだ。


「もし本当なら、僕を招待する余裕なんてないんじゃない?」

「いえ。逆にこのタイミングだからこそ、かもしれません。スキルブースターさえあれば敵が倍の人数だとしても勝てますからね」

「そういうことっ!?」


 だから急いでいたのかな。


 強引だったのも納得してしまった。


 スノーさんが僕の方にやってきたので、ルアンナさんは「また後で」と言って去ってしまう。


「何を話されていたんですか?」


 クーデターが発生するんですか、なんて聞けない。


 取り繕うようにして笑顔を作り、嘘を言う。


「怪我がないか心配してくれたみたいです」


 目を細めて、スノーさんは僕が本当のことを言っているのか考えているようだ。しばらくして小さなため息を吐いた。


 この場での追求しても、真実はわからないと諦めてくれたのだろう。


「今回は仕方ありませんが、私の許可無く接触しないようにしてください」

「わかりました」

「うん。素直な男性は大好きです。さ、馬車へ戻りましょう」


 ワイバーンとの戦いを経て、スノーさんの雰囲気は柔らかくなった気がする。


 僕はこれから向かうブルド大国に不安を覚えながらも、手を繋いで馬車に戻った。


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