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しょ、しょ、初夜だね

 夕食は静かに始まった。


 ナイフで肉を切って、フォークに刺してから口に入れる。


 肉汁が口の中に広がった。ほどよく塩と胡椒がかかっていて美味しい。宿場町で、こんなお肉を食べられるとは思わなかった。


 口の中が脂っこくなったので、サラダも食べる。シャキシャキとして瑞々しい。採れたてのように感じた。油もさらっと胃袋へ流し込まれる。


「今後の予定について、少し話をしていいか?」


 無言で食べている僕を微笑ましく見ていたスカーテ王女だったけど、今は少し真面目な顔になっている。


 王女モードだ。


「特使のことですか?」

「そうだ。話には聞いていると思うが、ブルド大国の特使がイオディプス君を迎えに来ている。お母様が王都で来訪の条件を詰めるつもりだが、希望があるなら先に聞いておきたい」


 国同士の話し合いだというのに、僕の意志を尊重しようとしてくれるスカーテ王女に好感を持った。前から好きだったけど、さらに大好きって感じだ。


 一緒にいてフワフワするというか、ドキドキするというか、気持ちが落ち着かない。


 いますぐ強く抱きしめたくなってしまった。


「一人では行きたくないです。今回みたいな、護衛や身の回りの世話をしてくれる人が数人欲しいです」

「当然だな。死んでも守ってくれる人材を見繕う」

「できれば、一緒に生き延びてくれる人がいいんですけど」

「善処する」


 死ぬ前提なのは困る。それが僕の代わりとなるなら、なおさらだ。


 泥水をすすってでも生き残ろうとする人の方が、僕の心情としては好ましかった。


「他には滞在期間を事前に決めておきたいですね。移動時間を抜いて2泊までというのは、どうでしょう?」

「短すぎる。ブルド大国は首を縦に振らないだろうな」

「それだったら3泊か4泊ぐらいなら……」

「最低でも一ヶ月、最悪半年は覚悟した方が良いぞ」

「そんなに!?」


 ちょっとした旅行をする気分だったので、最長で半年もかかるとは思わなかった。


「イオディプス君が来るとわかれば、国内の貴族は会いたがるだろう。彼女らは、領地運営で非常に忙しい。また国境付近の貴族は防衛の関係上、集まりに参加するのは難しく、かといって無視もできない。各種調整や移動時間を考慮したら、半年でも短いぐらいだ」


 ブルド大国の女王に会って終わりじゃないのか。


 各地にいる貴族への挨拶も重要なんだね。


 国土は非常に大きいと聞いているから、連絡のやり取りだけでも相当な時間がかかる。スカーテ王女が言うように、半年でも短いかもしれない。


 指摘されてようやく、僕の考えが甘かったとわかった。


「そうすると滞在期間はよくわかりません。なるべく早く帰れる方針で、ナイテア王国側で調整してもらえないでしょうか」

「一任してもらえるんだな? 全力で頑張ろう」

「ありがとうございます」


 よくわからないことはプロに任せるのが一番だ。スカーテ王女たちなら悪いようにはしないだろう。


「あとは特使や私たちのことは考えず、自分の心に従ってくれればいい」

「好条件を出されて移住して欲しいと言われても?」

「ああ、そうだ。私はイオディプス君が幸せになることだけを祈っている」


 そう言ってスカーテ王女は話すのをやめて、食事を再開した。


 先ほどの言葉がどれほど重いのか。男性が貴重であり、スキルが重要な世界だと知っている僕にはすごくわかる。


 もしブルド大国へ行ってしまえばスカーテ王女は非難されるだろうし、数年後には他国に滅ぼされて無くなってしまうかもしれない。


 そういったリスクを背負ってでも、僕の気持ちを優先していいと言ってくれたのだ。


 これほど人に寄り添った王族は、他にはいないんじゃないかな。


 自国の利益を追求しなければいけない貴族としては失格かもしれないけど、僕にとっては頼れるお姉さんという感じで、期待を裏切りたくないと思ってしまう。


 そんな僕の性格を知って、わざと言っているなら怖いけど、きっとスカーテ王女は天然だと思う。


「僕もスカーテ王女やナイテア王国にいる、みんなの幸せを祈っています。必ず戻ってきますよ」


 食事の手を止めるとスカーテ王女は、ニコッと微笑んでくれた。


 これにて会話は終了である。


 僕も食事に集中することにした。




 お風呂も終わって、そろそろ寝るタイミングだ。


 ベッドは一つ。


 スカーテ王女はほぼ裸。要望があって手は繋いでいる。体温どころか心音まで伝わってきそうだ。


「しょ、しょ、初夜だね」

「旅の、ですけど」


 食事をしていた時の威厳ある態度は消えている。顔は赤く、震えていた。


 いつも頼りにしているルアンナさんは、ドアを挟んだ外にいてこの場にいない。聞き耳ぐらいは立てていそうだ。


 ちなみに僕は、食事の時の会話でスカーテ王女に対する愛情は上限を突破している。比べるのは失礼だけど、この瞬間だけはレベッタさんを超えているほどだ。


 とはいえ、一線を越えることはしない。


 理性ある男としてベッドへ押し倒す。


「イオディプス君……?」


 か細く震えているスカーテ王女の唇にキスをした。


「あぁぁっっ!?」


 緊張の限界を超えたのか、そのまま気絶してしまった。


 本当はもっと気持ちいいこともしようと思ったんだけど、これじゃ手は出せない。仕方がないのに、スカーテ王女を抱き枕代わりにして寝ることにした。

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