7.当然の如くYES
7.当然の如くYES
「おう。こっちだ。こっち」
大勢が一気に腰掛けられる背もたれのない木製ベンチと長テーブルの末端に陣取ったアデルが手を上げているのを確認し、いそいそとその向かいに腰を下ろす。
初・同僚 (しかもチームメイト)との食事だ!
向かいに座っても拒否されないし何でお前そこ座るんだよって視線も向けられない!
はあ。幸せだ。なんと言っても手招かれたし!
「…………」
「? あの?」
「何でもねぇ。……いや、やっぱちょっと気になったんだが、お前、そんな嬉しいのか?」
「? はい!」
だって今まで誰からも食事に誘われた事、無かったし。貴族として過ごしてきた時の食事は何か違う。
ここに処罰で放り込まれてから初めて、声を掛けて貰っての食事だし!
当然の如くYESを返したのだが、何故アデルの顔が微妙そうなのだろうか?
「お待たせー……ってアデル? どうしたのその何とも言えない顔。しょっぱいの? 苦いの?」
「――……何でもねえ。俺も取ってくるわ」
「いってらっしゃ~い」
ルイスがアデルの隣に座ったのと入れ替えに、アデルは自分の分を取りに席を立つ。
直ぐに戻ってきた手には【今日の魚定食】が。ルイスは【今日の肉定食】のようだ。
「じゃ、食べよう」
「おう」
僕の目の前にある日替わり定食。メニューはアオサ入り炒飯、ワカメスープ、空芯菜とキノコの炒めもの、餃子とデザートは杏仁豆腐だ。
ホカホカと湯気が立つほど温かく、匂いを嗅ぐだけで口の中に唾液が溢れる。絶対美味い。
幸せだ。ありがたい。素材は元より安く美味く作ってくれた料理人にも感謝しかない。自然と拝むように手を合わせる。
「…………」
「あー。これかぁ。アデルの顔のわけ」
何故か向かいの二人がしみじみというか、生温い目でこちらを見てくる。何でだ。
わからないが、とにかく美味い。
噛み締めて食べる。
「ねえ、今日顔色が良いのって、ご飯食べたから? もしかしてそれまで食べてなかったとか?」
「そんな事してっと倒れるぞ」
「あ。昨日倒れました」
「おい⁉」
ゴクッと口の中のものを飲み込んで、親切な人に救護室へ連れて行ってもらった話をした。
「そうだ。二人は紫の髪の凛々しく爽やかな女性団員に心当たりはあるだろうか?」
あの時はうっかり見送ってしまったが、きちんとお礼をしたい。
「お前……」
「…………うん。うん。いや、うん」
どうしてだろう。アデルは頭痛を耐えるように目を瞑って口許をひくつかせ、ルイスは笑顔で遠い所を見て繰り返し頷いている。知ってるのか知らないのかどっちか判別がつかないので勘弁してほしい。
いや待て。情報が足りない?
「髪の色は美しい薫衣草で、肌は日に焼けて健康的」
「「…………」」
「顔立ちは凛々しく、瞳は月のような白金。背はアデルと同じくらいか……」
僕は自分の頭の上に手を翳して身長を説明する。
そういえば食堂を勧めてくれたぐらいだ。よく来ているのかも知れない。異母弟にも聞いておけば良かった。
「肩幅もあって全体的に鍛え抜かれたしっかりめの体格で安定感があり、服は正規団員の制服だった」
「……心当たりは、ない、かな」
「なあその前に、それ本当に女か? 俺と同じくらいタッパあってガチムチ……」
「ガチムチではなく、引き締まった無駄のない……」
「それどう聞いても女のスタイルじゃない」
「いやいや爽やかで優しい淑女だ」
「普通の女はどう想像しても逆三角形の体型してねぇんだよ」
「うーん。アデルのコメントはちょっと偏ってるけど概ねそうかな。でもとにかくそういう女性を探しているのはわかったよ。見かけたら教えるね」
アデルもルイスも彼女を淑女と言うと目を逸らす。何でだ。
確かに世間一般で言う淑女のイメージよりはしっかりとした体格ではあるが、倒れた見ず知らずの男を運んで心配して目を覚ますまで付き添ってくれた上に食料を提供して帰り道も送ってくれた優しさの塊だぞ。
しかし情報は欲しいので、よろしく頼むと返すしかない。
「よろしく頼む。えっと……」
どう呼び掛ければ良いのか一瞬迷う。馴れ馴れしくしてまた距離を置かれるのは避けたい。
「アデル殿、ルイス殿」
考え抜いた末の呼び掛けにまずアデルが声を上げる。
「固った!」
「あはは。ルイスで良いよ。ボクらも『ガラルド』って呼んで良いかな?」
「是非!」
親族以外で初めてそう呼ばれた! 何かいい。
距離が近い感じがいい!
「アデル、ルイス」
「おう」
「うん」
「アデル! ルイス!」
「お、う?」
「うーん。ガラルド……」
「アデ」
「いい加減にしろや」
頭に衝撃が来た。アデルにバシンと叩かれたからだ。でも何か口許がニマニマしてしまう。
「こいつ……」
「あー……。何か、近所のい……子供思い出すなぁ」




