6.何ひとつ
6.何ひとつ
やめろ。お前みたいなコミュ力お化けじゃないんだ!!
「それの原因……全部、兄上が使い物にならねぇ時が多すぎて、しかも打ち解ける気もゼロって聞いてんだけど」
あるんだよ。打ち解ける気は全然あるんだよ! あるけど実際打ち解けられるかは別物なんだ! 一歩踏み出そうとしたらタイムアップになるんだよ毎回!
「打ち解ける云々はまあ別として。使い物にならねぇってのは、餓死するくらいまで生活が毎度ギリギリなのが理由じゃねぇの?」
「そ、れは……」
「業務に支障ガッツリ出てんじゃん。業務に支障出んなら無関係じゃねえんだわ」
おわかり? なんて首を傾げられる。
何だこれ業務指導か。
「今回は……まだ」
「そうだな。餓死する前にやっと食堂利用したな」
美味くて懐に優しいなありがとう!
「何で今まで利用しなかったん?」
「…………」
こんなに安くて美味いと思わなかった。こんなに他と値段が違うと思わなかった。
けれど、それは足を踏み入れた事が無いからわからなかったのだ。
何故、足を踏み入れ無かったのか。
『あんな低俗な場所で食事などできるか!』
そう、兄様が言った。僕も、そう、思った。
兄様がそう言うから。
僕にとって、兄様の言うことは絶対で、兄様が正しかった。
僕は何ひとつ、自分で考えられなかった。
簡単だ。
そのツケが回ってきた。それだけの事なんだ。
異母弟が再び溜め息をつく。
「食堂は、騎士団員の福利厚生の一つだし、気軽にこれからは利用して、そんな理由で仕事に支障きたすのは無くしていくのが良いんじゃね?」
「……そうする」
目の前に、半透明のカードが一枚置かれる。
「やるよ。福利厚生の一環で家族がいる奴には支給されてる家族優待カード。家族一人につき2000Cまで使えるし、これ使うと団員と同じ価格で食えるから」
一食200Cの日替わり定食ならあと十回は食べられる。
「何故、こんな」
「だってガラルド兄上は俺の兄上じゃん」
呆れた顔で、異母弟が苦笑いを浮かべる。
「兄なら家族だろ? ついでに、業務に支障きたす要因取り除けるなら、上に立つ俺としては一石二鳥で良いことづくめじゃん」
それだけ。
そう言いながら異母弟はさっさと食堂の中に戻って行った。
「…………はは」
情けない。
何もかもが、情けない。
半ば溶けたアイスを口に運ぶ。それはあまりにも冷たくて、あまりにも、甘かった。
※※※
「お、おお、おはよう、ございます」
「えっ……あぁ」
「おはよう」
翌日。僕は初めて二人に自分から話し掛けた。
きちんと腹を満たし、昨日は寮の部屋に帰ったら倒れるように眠ったおかげで、今日は早めに目が覚め、二人よりも先に集合場所である小ホールに着く事が出来た。
必要な道具も揃えておく事が出来る時間の余裕もあったほどだ。
「今日、早かったんだね」
二人のうち少し年下に見える栗毛に青い瞳をした方、確か名前をルイスと言った方がそう返す。
「ああ。その、なんとか」
「…………」
「あの?」
「良かったぁ。今日は顔色、良いみたいだね」
「え?」
にこっとルイスが笑って言った言葉に僕はどう返して良いのかわからなかった。顔色?
「フン。確かに、死人よりはマシな色してんな」
「もう、アデル。素直に安心したって言えば良いのにー」
「誰が何で安心なんだよ。別に心配もしてねーわ!」
「男のツンデレって面倒くさいだけだと思うなー」
「お前ヒネるぞ」
何も言えず、僕は目の前の寸劇じみたやり取りに立ち尽くす。
「何にせよ、昨日より元気そうだし、良かった」
「だな。死人じゃ邪魔なだけだ」
「またそういうこと言うー」
「うっせぇ! ほら、とっとと行くぞ」
アデルと呼ばれた赤髪の青年が背を向けると道具を引っ掴んで歩き出す。
慌てて僕も自分の横にあった道具を手に取ると、ルイスがそっと耳打ちした。
「アイツ、結構キミのこと心配してたんだよ? ふっらふらで、青白い顔してたから」
「心配……?」
「あ。モチロン、ボクも。だから今日は元気そうで嬉しいよ」
「おい! おせーぞ!」
「あー、はいはい。今いくー。さ、ボクらも行こう?」
ルイスの声に僕は首を縦に忙しなく振って、その後に続いた。
今の僕のチームは清掃活動がメインの業務。
ここ数日と打って変わって、しっかり食事と睡眠をとったおかげで大きなヘマをすることもなく、昼になる。
「あー! 腹減ったー」
「そうだね。あ、キミもお昼一緒にどう? ボク達、食堂に行くんだけど」
「! あ、ああ」
初めて誘われた! この二人に、じゃなく、配属されてから初!
そのまま食堂へと続き、日替わり定食の食券を買って受付。
「アデルが席取っててくれてるから、食事受け取ったら探して先に行っててね」
「わかった」