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フィジカル・ロジカル  作者: 琳谷 陸
事故物件の成り立ち
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3.視線が痛い

3.視線が痛い



「寮にランドリールームあんだろうが! 制服以外はそこに突っ込め!」

「でも」

「もしかして、使い方がわからないですか?」

「はぁ? 書いてあんだろ。機械の所に」

 呆れた視線がグサグサ突き刺さる。そもそも自分で洗濯するなんて思わなかったから、足を踏み入れた事がない。当然そんな使い方など見ていないのだが、口に出せない。

「はー……。おめえ、それでよく生きて来れたな。どっかのボンボンだったのか?」

「……そう、です」

 嗚呼、視線が痛い。

「……制服の替えはありますか?」

「え? あ。はい。それは大丈夫です」

「良かった。でも、もし何かでそれも汚して、クリーニングから返ってくるのも間に合わない時は、騎士団の総務部受付に申請すればどうにかしてくれますよ」

 良かったら覚えておいて下さいね、と言われ、優しさが身に沁みると同時に、恥ずかしくなる。

「ありがとう、ございます」

「はぁ。おめえ、とりあえず二、三日、業務終わったらここに来い」

「え?」

「んな不健康なことやってる奴をそのままにするわけねぇだろ。病気予防の生活指導だ。いいな」

「は、い……」

 不健康。そうだろうなと納得してしまう。

 頷いた僕に、イケメンが話のキリがよくなったと見たのだろう。

「じゃあ、寮まで送ります。私も寮なので途中まで一緒に帰りましょう」

「そんな……悪いです」

「また倒れられる方が迷惑だっつーの。行きも帰りも運ばせる気か」

 救護医の言葉から、どうやら救護室まで運んでくれたのはこのイケメンらしい。

 大丈夫だと言っても実際倒れたから信用されないだろう。

「……お手数おかけしてスミマセン」

「良いんですよ。それより、立てますか?」

「あ、はい」

 差し伸べられた手を借りて立つ。一瞬ふらりとしたが、空腹が紛れてだいぶ気持ち悪さが無くなった。

「本当にだーいじょうぶか〜?」

 怪しむように救護医が目をすがめる。

「大丈夫、です」

 手を借りているおかげでふらついても安心感があった。

 ひとまず救護室を出て騎士団の建物を出る。

 表口ではなく、裏口から。出て真っ直ぐに伸びる道の両脇には生け垣と外灯が設置されていて、その先に寮があるのだ。

 救護室を出たあたりからもう手は借りていない。

 その代わり、自分で自分を抱きしめるようにして身体を支えて歩く。

 イケメンは時折気遣うように僕に視線を向けている。俯いて、長く伸びた前髪のせいもあってはっきり見えないが、そう感じた。

「あの……ありがとうございます」

「ああ。いえいえ。困った時はお互い様ですよ。同じ騎士団の仲間なんですから」

 声まで爽やかなこのイケメン。同じとは言ったが、実際の所、僕は仲間と呼んでもらえる資格がない。

(懲罰で働いてて、しかもそれが次期領主を長年いびってきた奴だなんて……言えない)

 騎士団で働いて、冷静になってからわかった事がある。

 それは、騎士団で働く全員、性別も魔族も人間も関係なく、次期領主にして我が異母弟を、好きだという事だ。

 程度の差こそあれ、騎士団員は自分達の最上位にある異母弟を好いている。そんな所で、僕の素性すじょうつまびらかにした瞬間、本当に終わる。

 そう。この隣りを歩く親切なイケメンも、これを知れば軽蔑するような視線になるだろう。

「それと」

「え! あ、はい」

「? ……差し出がましいのですが、お食事は騎士団の食堂を利用するのが一番だと思います。懐に優しく、栄養バランスもしっかりしている一人暮らしの強い味方ですよ」

「あー……。はい。行ってみます」

 そういえばそんな場所があった。ある理由から未だに一度も使用した事が無いが。

 やがて道がそこそこ大きな広場に突き当たる。

 広場には外灯は勿論、中央には時計のモニュメント、ベンチや生け垣の他、サークルを抱く四阿。

 この世界では階層などのいわゆる縦移動には転移石トラベルノーツ、同階層の別所など横移動には陣を用いる。

 他には自前の翼やら何やら、人間ならば街中には浮遊板フライングボードや自転車などを使った移動手段存在。

 階層移動もゲートと呼ばれる所から徒歩や荷馬車で移動する方法もあるにはある。ただしこれは時間も掛かるのでよほど資金が無いか、優雅な馬車旅を目的とする以外では使わない。

 縦移動にしても横移動にしても、転移石や陣が便利な為だ。

 なにかの際の緊急搬送なども各家庭には緊急搬送用の陣が発動できる印字紙スクロールが一つは必ず配布され、常備が義務付けられている。これは魔力の無い人間でも発動できるようになっているのだ。

「食堂は二十四時間開いてますから、着替えたら行く事をお勧めします」

「そう、ですね」

 夕飯から行けと遠回しに勧められた。カロリーソリッドを半分しまったのはバッチリ見られていたので仕方無い。

 広場から三方に道が分かれる。

 一つは直進して数百メートル林の中の道を行き、やがて領都の裏門へ至るもの。

 あとの二つはそれぞれ反対に伸び、女子寮と男子寮へ続く道だ。

「では私はこちらなので」

「あ。はい。ありがとうございました」

 軽く手を振ってイケメンがそう言った。

 僕も頭を下げ、男子寮への道を歩き出す。

(……名前)

 はたと思い至って立ち止まる。恩人の名前を聞いていない。

 後日でもきちんと礼をすべきだと思い、振り返る。

「あれ?」

 視線は裏門に続く方向を見たが、姿がない。

 おかしいなと首を傾げたその視界の端に、紫色が見えて思わずそちらを見た。

「え…………?」

 探し求めた姿を見つけたのは、女子寮に続く方向だった。

【蛇足解説】

シェルディナード「テキトーに解説するコーナーだぜ」

サラ「長さや時間の単位」

ミウ「これは他の世界でも同じ呼び方や単位を使っているみたいですが、一日は二十四時間で、メートルとかグラムとか使ってます」

シェルディナード「貨幣単位はCクラリティな」

ミウ「貨幣と小切手の紙幣があります」

サラ「銅、銀、金、魔晶」

ミウ「魔晶は魔石で、あとは金属です。こちらの世界では金より魔晶の方が高価で、金もそんなに珍しいものではないので価値はお安めですね」

サラ「形とかは、また今度」

シェルディナード「ちなみに俺達がわかんない場合は『レプリカ・ハート』参照で」

ミウ「よろしくおねがいします!」

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