19.出るんだよ
19.出るんだよ
「あの、一つ質問良いですか?」
「うん。どうぞ」
「何で警邏がつくんですか?」
アデルがそう訊ねると、先輩団員はニヤリと笑い、両手の手首をぶらんと揺らしながら持ち上げた。
「実は、出るんだよ。旧城に」
「…………」
「ひぇ……」
「へぇ!」
ちょっとルイス、何で少しワクワクしてるの!?
アデルは物凄く胡散臭いもの見る目になってるし。
「てのと、後は一応、泥棒とか出て鉢合わせとかした時の用心としてね」
「……出るとかって冗談じゃなく?」
「うん。本当に出るよ」
「はあ……」
「あ。信じてないなぁ? ま、仕方ないか。でも本当に出るもんは出るから。被害報告は特別無いから、多分見たらびっくりする程度だと思うけどね」
いやいやいや、何でそんなさらっと!
アデルはそんな先輩団員の言葉にも表情を変えず、ルイスに至っては「見られるのか」って楽しそうだし。
「昼間は何やかんやあそこ人気の観光スポットだからね。イベントも多いし、係員の邪魔になるから備品の点検は夜間にやるのが決まりなんだよ」
昼間にやると備品も出し入れしたりで変動があるからね、と。
「警邏も夜間の見回りがてら一緒に行くって感じ」
「なるほど」
「そんなわけで今夜は夜勤お願いするよ。一旦帰って良いから日付変わる頃に現地に集合してね。陣の行き先で旧城選べば転移してすぐだから」
「「「はい」」」
「うんうん。良いねー若者。新鮮で頼もしいな! 夜勤明けの明日はお休みにしとくから頑張ってね」
そしてやってきました日付の変わる頃。
りーりーと鳴く虫の声や梟らしき鳥の声を聞きながら、陣から出て目的地である城を見上げる。
「雰囲気あるね〜」
「そうかぁ? 別に変わんなくねえか」
変わるよ! めっっっっちゃ変わるよ! アデル!
風、生温い気がするし、何か無駄に威圧感ある佇まいだし!
月光が照らす城。そりゃ光の当たっている所は明るい当然。だけど、その影になる部分。そこは光が強ければ強いほど、黒く深い。
無駄にデカい城はその影が多く、はっきり言って不気味だ。
夜風は熱風というには冷え、さりとて冷風とは言えずに中途半端に生温い。それが肌を撫でていくのがたまらなく気持ち悪く、雰囲気と相まっておどろおどろしいと言うのがぴったりで。
ひっ! 何か音した!?
「……おい。ガラルド」
思わずアデルの背中のシャツを掴んでしまった。
「およ。ガラルドはこーいうのニガテ?」
「だ、だっ、て、ゆ、ゆゆ、幽霊だよ?」
「うんうん。幽霊楽しみだよね! ボク見たことないんだ」
僕も無いけどそもそも見たくないよ!
何でルイスはずっと楽しそうなの!
「ちょっと疑問なんだけど、ガラルド、魔族でしょ? なのに幽霊とか怖いの?」
「いや、幽霊と魔族違うからね!? 幽霊、亡霊ってのと、幽鬼じゃまったく別のものだから!」
後者は一種族として別にあるから怖くもないけど、亡霊とかって違うから!
「ふーん……」
「だからって腰にしがみつくな」
「ご、ごめん……」
「いや、そこで捨て犬みたいな雰囲気出すんじゃねーよ!」
「警邏の人は〜……」
ルイスがそう言って辺りを見回す。
その時、
「ひっ、ひぃ!?」
耳障りな金属音と共に、固く閉じられた城の大扉の横にある守衛用の通用口が開く。
油挿そうよ!
「だぁから、俺を盾にすんなって!」
「ごご、ごめん!」
「頑張れお兄ちゃん」
「誰がお兄ちゃんだ!」
通用口の向こう側にある暗闇から、何かが身を屈めるようにして姿を現した。
「お疲れ様です。総務部の後方支援課からいらした方ですか?」
ん? この声って!
「あら? あなたは……」
「! 先日はありがとうございました!」
「俺の後ろから顔だして言ってねーで前に出ろ。前に」
アデルに押されて転びそうになりながらも前に出た。
待って心の準備がっ。
紫紺を帯びた長い髪を一つに束ね結い上げ、エキゾチックな浅黒く引き締まった体躯に黒い軍服めいた制服がカッコいい。似合ってる。推したい。月色の瞳には変わらぬ相手を気遣う色。
「ああ、良かった。お元気そうですね」
「おかげさまで……。本当にその節はお世話になりました」
推しを目の前に次の言葉が出てこない僕の脇をルイスが小突く。
「えっと、あの、僕、ガラルドです」
「ご丁寧にありがとうございます。私はリセナと申します。今夜は皆さんを護衛する任を命ぜられて参りました」
「ボクはルイスです」
「アデルだ」
挨拶を交わし、空気が和む。
「では、中にご案内致します。こちらです」




