17.兄より妬ましかった
17.兄より妬ましかった
『貴方は兄を補佐する為に動くのよ。それが弟としての責務なの。理解出来るわね?』
『はい。母様』
僕は、兄を補佐する。それが生まれた時からの義務。
『常に一歩下がり、兄を立てなさい』
『はい』
兄様より秀でてはいけない。
兄様より目立つ何かを成してはいけない。
僕は、いつでも兄様の影としての立ち居振る舞いをしなくてはいけない。
学校では兄様より得意な科目はわざと試験で間違えて調整した。一度、兄様より良い点を取った時に褒めてもらえると思った予想とは裏腹に、母様の顔に浮かんだのは苦いものだったから。
その試験結果は、兄様の目に触れる前に暖炉の火で消えた。メラメラと踊る炎と、燃え尽きた白い灰を見て、何も言わずに部屋に戻った後の記憶ははっきりしない。
「ガラルド?」
「あ。ごめん。少し、ボーッとしてたよね」
兄弟というものは、そういうものだと思っていたのかも知れない。弟というのは、あくまで兄の補佐をする存在で、兄より優れる事は許されないものだと。
「兄様の弟としてはともかく、僕は……やっぱりどう思い出しても良い兄じゃなかったよ」
同じ事をやって許される。して良いんだと。
何で異母弟は、僕と同じにならないのかと。
同じにならない彼が、兄より妬ましかった。
何でお前は僕の持っていないものを全部持っているのか、と。妬ましくて妬ましくて、憎かった。
……その心のままにやった結果が現在なんだけどね。
馬鹿なことしたなぁ、と思うのは正気になった今だからこそ。言っても仕方ないのだが。
「僕もアデルみたいな兄になれていたら、良かったのにって、今さら思う。そしたら……」
たらればの話なんてしても仕方ないけど、そしたらきっと少しは異母兄として顔を上げて立っていられたんじゃないかと、そう思う。
そもそも、自分と同じように堕ちて来いなんて考えてる時点で終わってる。無意識に自分が何処にいるのかわかってたんだろう。
ふと気づくとアデルがどう声を掛けて良いのかわからない顔でこちらを見ていた。
「あー、その、なんだ」
「ごめん。反応に困るよね。ところでお会計終わったらアデルどうするの?」
「特に決めてねーけど……。あ、でも日用品も補充しようと思ってたんだよな。細々したもん買って帰る」
「日用品……その、アデル達はどういった所で購入しているのかな?」
「どこって……オンラインとか普通に店とか」
「オンライン……店…………」
やはり、人を呼びつけたり、家で契約した者から納品されるのとは違うんだろうな。
ちらりとアデルの格好を改めて確認する。
まず浮かぶ言葉は『似合っている』と『男らしくて格好良い』だ。
赤い無造作ヘアに精悍な顔つき。灰色の瞳は鋭いが、それも雰囲気と相まって硬派と言われる部類だろう。
ルイスとは対照的だ。彼はどちらかと言えば穏やか柔和という言葉がよく似合う。
アデルの纏う服はそんな高価なものではないと思うが、似合うものを身に着けているからか、安っぽく見えない。
振り返って僕。
シンプルなシャツとズボンに革靴。うん。
だって制服以外だとこれが一番まとも……いや、いわゆる貴族貴族してないのがこれしかない。
「…………」
「…………」
しばし互いに無言。やがて会計を終えて店を出ると、アデルが僕の首根っこをがしりと掴んで歩き出す。
お手数おかけします。
◆◆◆◇◆◆◆
「ガラルド。おはよう。早いね」
「ルイス、おはよう」
休日も終わり、次の出勤日。少し早く目が覚めて朝のミーティングを行う会議室に行った。そこにルイスが声を掛けてくれたのだが、何だかちょっと寂しいな。
だって、今日は再編成の日だ。
つまりルイスやアデルと一緒に行動するのは今日が最後……。
「何だ、早いな。二人とも」
「アデル。おはよ」
「おはよう。アデル」
アデルも揃っていよいよ別れが近い感。
ああ、何か、今までで一番胸にくる。
何だろう。何て言えば良いのかな。
こんなの、もういつもなのに。
選ばれないのは、いつもの事だ。
なのに何で、こんなに、辛くて――――悔しいんだろう?
あれ? 悔しい?
悔しいってなんで?
え? 何で?
「ガラルド?」
「お前、情緒大丈夫か? さっきから顔色と表情変わり過ぎて怖ぇんだけど」
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。
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