15.まだ早い
15.まだ早い
気を取り直して。
少し歩くと色々な飲食店が軒を連ねるエリアになり、天気も良いのでテラス席が開放され、帆布のパラソルが咲いている。
「何か食う?」
「うん。あのラップサンドとか」
「あー。うまそ。いいじゃん」
まだ昼には少し早いからすぐ買えそうだし、席も選べるだろう。
路面側にも窓口のある店舗も多く、そちらは持ち帰りやテラス席の利用が主だ。
アデルは黄金色にサクサクカリッと上がったフィッシュ&チップスのラップサンド、僕はチキンサラダのやつにした。
鶏って偉大だ。どんな料理でも合う。
ソースは甘辛な赤いやつにした。飲み物も購入して、テラス席のパラソルの下に落ち着く。
「そんで、ガラルドはこのあとどこ見るんだ?」
「そうだね……凛々しい淑女に似合いそうなものって何かな」
「お前の恩人……警邏隊にいたっ、つー?」
「そう! 薫衣草の君!」
「ラベ……」
「どうしよう、何が良いかな? 迷ってるんだけど淑女への贈り物だし、やっぱりアクセサリー」
「いやいやいや。アクセサリーはやめとけ」
薫衣草の君を思い浮かべるだけで自然と鼓動とテンションが高まっていた所で、アデルから制止が入る。
「ガラルド。よーぉっく、考えろよ?」
「? うん」
「贈る相手は恩人で、女性……なんだよな?」
「うん」
「いいか。本当によく考えろ。ある程度のやり取り、そう日常的に今まで接してきて、御礼をしたいってならいざ知らず」
「…………」
「一回か二回会った、しかもあっちはお前の名前すら認識してない状態で」
「うぐ……」
「いきなりそんな奴から御礼としてアクセサリーを贈られる」
「…………」
「……キモくね?」
ナンダロウ、ムネガイタイ……。
うん。ちょっとテンションおかしくなってた。調子に乗ってた。
「そ、そうだな。僕みたいな事故物件からのとか、普通の物でもあれなのに、アクセサリーなんて……」
「そこまで卑屈にならんでも良いと思うが……まあ、なんだ。とりあえずアクセサリーはまだ早いと思うし、やめとけ?」
「はい……」
そうだ。そもそもアクセサリーなんてまだ贈るための情報も足りない。
好きな金属や貴石、誕生石とかも知らないし、好きな色も知らない。まだ早過ぎる。もっと情報を集めなければ。好む形状……指輪や髪飾りなども知らないしな!
物によっては付けてもらえない場合もある。危なかった。
「おーい。ガラルド。戻って来い」
「は‼」
「……何か何考えてたか怖い気がするから聞かねぇけど、ほどほどにな」
「あ、うん」
やはりここは消え物である食物が良いかも知れない。
花も良いが、やはり好きな花もわからないし、贈った後に活けたりお世話したりが必要だしな。
「女性になら、やっぱりスイーツか……」
うーん。王道だけど今は正直好みがわからないから微妙なんだよな。
スイーツと言っても甘さは個人の好みで程度に差があるし。
一応近いうちに訪ねようとしてるけど、ちゃんと会えるかわからないから賞味期限とかも気になる。
「あ。そう言えば……」
ポケットから携帯端末を取り出して操作。
テーブルの上に置いた端末の画面上に現在地付近が立体映像で表示される。
僕達のいる地点には赤くほんのり光る人型が。
「えーと、ここかな」
立体映像の少し離れた地点を素早く数回タップすると、タップした所に集まるショップリストがシュンという音と共にポップアップした。
アデルが向かいの席から場所を移動し、横に来て覗き込む。
「『ティーショップ 琥珀の空』ってなに?」
「茶葉や道具を扱ってるお店だよ」
第三階層に本店のあるブランドだ。茶葉も道具も質が良くて、兄様の婚約者や誰かに僕が選んで物を贈る際には良く利用していた。自分の婚約者には使用人任せで選定発送させて、兄様のは僕が選んで手配……そりゃ切られるよ。
「とりあえず、ここに行ってみようかな」
目的地を決めて、食べ終わったので席を立つ。
「どうせ帰っても暇だからな」
との事でアデルも同行を続行してくれた。
軽食をとった場所から西へ進む。幾つかの路地を曲がり、季節折々の植物が咲く庭園を有する自然公園の近くにその店はある。
黄色の屋根と蔦の這うチョコレート色の煉瓦で出来た壁。ビスケットのような木製のドアを開けると、中からはゆったりとした曲調のBGMと試飲で淹れている茶の香りがした。
どうやら今日の試飲は花香を再現した紅茶のようだ。
店内は骨董なデザインの照明や家具で揃えられており、広い店内にはそこそこ人がいて盛況である。




