14.読める雰囲気
14.読める雰囲気
雰囲気が読めるレベルってどういうこと? と思わなくも無いが、多分そのまま。
いよいよ貴族令息と呼べない域になってきたらしい。
以前でそんな状態だったら、容赦なく母様や家庭教師から叱責が飛んだ。貴族たるもの表情は読ませるもので読まれるものではない。
でも、正直、楽〜。
自分の感情を抑える事なく、嬉しければ嬉しそうにして良くて、落ち込んだらそれを表に出しても取り繕わなくて良い。
勿論、ちゃんとした場では駄目だろうが、日常生活までそれを抑え込んで気が抜けない生活をしてきた身からすれば、本当に楽だ。読める雰囲気ばっちこい。
本当に何で今まであんな常に臨戦態勢取らされてたんだろう? と思えるほど。
「おい。戻って来い」
「あ、ごめん」
他のお客が少ないとは言え、店員はいる。そんな所でトリップしてる僕もあれだが連れとわかるアデルにまで二次被害。あんまり緩み過ぎては駄目だよな。
「俺は会計してくる。お前は?」
「僕もこのメッセージカードだけ」
それぞれ会計をして、店の外へ。
初夏とあって日差しは少し強めになってきているが、湿度は低めなので茹だるような感覚ではない。
「驚くほど、過ごしやすいんだよね。この街……」
四季という季節を四つに分類したくくりの通り、気候の変化はちゃんとある。だが、街中では驚くほどどの季節も過ごしやすい。
雨風とかはあるのだ。あるのだが。
まず、台風。街の近くまでは来るし、街の『外』は大きいものだと被害も出る。が、街に被害は出ない。
何故なら台風の進路が街を避けるから。竜巻も。
次に雪。降れば最大で膝下くらいまで積もる事もある。街の『外』が背丈を超えて積もっても、街中は膝下までしか積もらない。
などなど、もれなく災害レベルを回避しているし、大雨なんかも雪同様。
「そりゃ、気候緩和の術式組まれてるからだろ?」
温度と湿度も一定値に達すると変動しなくなる。
季節を感じるし、暑い寒いは感じるが、俗に言うただ生活するだけでもヤバい暑さ寒さはない。
勿論、冬に屋外で寝たら凍死とかは普通に有り得るが、そんな真似をしなけりゃまず無い。
どうしてかと言えば答えはアデルの言った通り。
「順番待ち、するわけだよね……」
「だよなー。かくいう俺も、いずれは住みてぇから騎士団入ったわけだし」
「なるほど」
アデルは隣の領地の出身なのにわざわざうちの領の騎士団に入っている。
入団の際に他の領地の民だと有事の際はうちを優先する、うちの情報を流すなどの間諜はしないなどを契約で約束させられるのだが、その代わりに勤務年数で領都への転籍含む移住の優先があったりと、移住したい者には魅力的らしい。住居購入の割引も騎士団員だとあるし。
「…………はぁ」
見上げた夏の青が目に沁みる。
術式はどれだけ目を凝らしても見えないけれどそこにある。
隠蔽の記述も織り込まれているのだろう。
住みやすい街。皆が順番待ちしても空きを待つ街。
そのどこにも、僕の関わったものは、無い。
「ガラルド?」
「ううん。何でもない。ちょっと、陽射しに目が眩んで」
「大丈夫かよ。日影歩け」
「うん……」
街路樹の木陰に入りつつ、密かに一つ溜め息をつく。
今更ながら、本当にどうしようもない。
僕と兄様が異母弟に押し付け、関わらなかった領政。
関わらなかったのが幸いしたからこそ、今があると、目の前に突き付けられて、僕は自分の役立たずさを再度がっつり認識した。
だってここ、最初は草原だったのに。
僕と兄様が関わっていたら、こんな風には発展しなかった。
人間の事なんて、一切考えなかったし、人間じゃなくてもこの階層に住む、領地に住んでくれる民の事なんて、きっと欠片も考えなかったと思う。
そしてここまで完成したものを横から掻っ攫ったら(いや多分というかほぼ絶対出来ないけど)、確実に領民その他からフルボッコされて殺されてた。
同じレベルか今以上のレベルで手厚く領政を敷けば可能性はあるかも知れないが、破壊して蹂躙する可能性の塊みたいな政をしたらどうなるか。
そんなの、考えるまでもない。
貴族は、支えてくれる民がいなければ貴族でいられない。
圧倒的不支持で完膚無きまでに叩きのめされる未来しか見えない。破滅まっしぐら。
おまけに順番待ちしてる魔族にも追撃される。絶対だ。
ディストピアに入りたくて順番待ちしてるわけではないのだから。やれないけどやんなくて良かった。ギリ首の皮一枚つながった。
「おい、本当に大丈夫か? 顔色が紫、青、白の三色になってるぞ」
それ遠回しに死相出てるって言ってる?
「うん……。改めて生きてるって素晴らしいなって……」
「騎士団戻って救護室行くか?」
「いや、それは大丈夫」




