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フィジカル・ロジカル  作者: 琳谷 陸
事故物件はリノベーションしたい
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13.読めるレベル

13.読めるレベル



 不誠実を重ねて、心は離れていったんだろう。

 ちょっと考えれば。自分がされる立場だったらどうかと、少しでも思っていれば、きっとまた違う形だっただろうけど。

 それが出来なかったから、今に至る。

 誰かの立場になる。立って考える。やろうと欠片でも、思った事があったなら。もしかしたら、誰かは側に残ってくれたかも知れないのに、そうしなかったのは、僕。

「……アデルの贈りたい相手って、どんな人?」

「どんな……まあ、跳ねっ返りでガサツで」

「意志が強くて行動的で?」

「なっ……そんなんじゃ、そんな事いってねえだろ!」

「良いから、続けて続けて」

「お前……後で覚えてろよ……。あとは、最近、ちょっと働き過ぎっつーか、その、精神的に? 疲労してんじゃねーかなって知らんけど」

「なるほど」

 アデルの頬が赤くなったのを見つつ、続きを聞いて、店内を見渡す。

 印象だけど、きっと責任感が強くて弱音を吐かない人なんだろう。頑張って頑張って、あんまりにも頑張り過ぎて、疲れてしまうような。

「そいつ、俺の幼馴染なんだよ。隣の領地に住んでる」

「ということは、アデルも出身は隣なの?」

「ああ」

 わざわざこの領地の騎士団に入ってきたのは驚きだけど、それは置いておこう。

「隣の領地……なら、直接じゃなく、配送するの?」

「そのつもりだ。デカい休みには帰るけど、まだ先だしな」

 輸送システムや環境も隣の領地と関係良好なおかげで万全に組み上げられていて、基本どんなものでも問題ない。

 昔は迷い人が境界地帯と呼ばれる領地と領地の境で集まって山賊とかになる問題があったらしいが、今では少なくとも集団規模では出現していないと聞いている。そもそも陣があるから一瞬だし。

 ただ、物流はともかく人の移動は陣の使用料金が違う。流石に距離のある横移動を結ぶ陣使用はそれなりに使用料(コレ)が掛かる。

「じゃあ、品物と一緒に一言メッセージを添えた方が良いかな。せっかくだから、可愛いカードで」

「うぇぇ? なんで」

「喜んで欲しいんじゃないの?」

「そりゃ……まあ、そうだな?」

「さらに言うなら、一言メッセージカードより、便箋レターの方がより喜ばれるけど……」

「…………カードで勘弁してくれ」

 嫌そうの裏側は照れ。

 アデルは何だかんだと口にしつつ、真剣な表情でカードを物色し始める。

 あ。これ可愛いな。

 目についたのは小鳥とカスミソウの描かれたカード。

 文字を書ける空白を中央に。その周りにイラストが入っている。

 薫衣草の君へはこのカードを書いて添えよう。

 視線を投げるとアデルはまだカードを吟味していたので、その間に贈り物に良さそうな候補を出しておこうかな。

 疲労かぁ……。

 しかも精神的な。

 定番はアロマかなと思うのだが、どうだろう?

 まあ、幼馴染なのだから相手の好みを知っているだろう前提で、合いそうなものを選んでもらえば良いかな。

 とりあえずバスソルトとか、アロマキャンドルやオイル、サッシェとかどうだろうか。

 香水は際どいからやめとこう。

 あ。これ良さそう。

「アデル」

「ん?」

「ここら辺どうかな」

 中でもオススメとして、白蓮光花ローティアスのヘアオイルをアデルへ差し出す。

「何に使うんだ?」

「髪を乾かす時とかに髪になじませてからドライヤーかけると、髪を保護してサラサラな指通りになるよ。ドライヤーの熱で髪が傷むのを防いでくれるし、熱に反応して良い香りが広がるんだ」

「へー……」

「短くても長くても、やっぱり髪は綺麗にしたい女性は多いからね」

 母様もそれは気合いを入れていつも整えてたな。貴族のご令嬢も大体は艶々な髪だったし。

「香りも、このテスターを嗅いで大丈夫そうならオススメだよ」

 白蓮光花は普通の蓮花より小さめで、花芯が透明な球体状。それは蜜が固まったものと言われており、昼に陽光を溜めて夜になると爽やかな甘い香りと共に発光する。香りには鎮静効果と過敏になった神経を解きほぐしてくれる効果があるので疲れに良さそうだし。

 ちなみに魔力が濃過ぎる土地では育たないので、主な生息地は第一階層ここかその下の第二階層だ。

 まあ、諸事情で下はあまり期待できない。実質この階層のみの生息と思ったほうが良い。

「水に咲く花だけど、ほぼ泥みたいな所に咲くから隣の領地でも珍しいかと思ったんだけど」

「確かにな。あっちは結構澄んでる湖系が多いし」

 テスターを嗅いで、問題無かったようでアデルが頷く。

「あんがとな。これにしてみるわ」

「良かった」

 容れ物も花の形で可愛いから見栄えもする。

 自身の婚約者には全然だったが、兄様に関わりそうな、もっと言うと兄様の利益になりそうな相手への贈り物選びは、僕がしてたんだよね……。笑える。

「おい、大丈夫か?」

「え? あ、うん」

「そうか? いきなりすっげー沈んでるから何かと」

「……アデルもルイスも、よく僕の考えとかわかるね? 顔に出てるって言うけど……」

 ちらりと店内にある鏡を見た。そこには顔の上半分、目の下辺りまで前髪の伸びて隠れた顔がある。

「あー。まあ、わりと口許でわかるし、そもそもお前は雰囲気が何より読めるレベル」

「そ、そうなのか?」

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