12.僕には友人がいない
12.僕には友人がいない
今の僕には友人がいない。
正確に言うなら、いたことがない。
処罰の前に友人だと思っていた人達は、友人じゃなかったのだと、正気になって気づいた。
あれは曲がりなりにも貴族で、領主の本家の子供だから親しくしていれば何かしらの恩恵にあずかれると、利益があると判断したから側にいたに過ぎなかったのだ。
じゃあ、特に利益の無くなった、むしろ不利益を与えるかも知れない僕は、どうしたら友人を作れるのだろうか?
友人の作り方もわからない上に、それが異性となると未開の地を開拓しろと言われたに等しい。
「…………花、いや、ハンカチなどの服飾小物?」
薫衣草の君へ御礼の手土産を購入しようと思ったのは良いが、何を買うべきか。
悩んだら友人に相談するのが良いのかも知れないと思ったが、そこで気づいたのだ。
僕、友人いないな、と。
そしてサーッと何かが引いていく感覚。考えてはいけない。
遠くなりそうな気を無理矢理戻して、僕は騎士団の建物を出た。
今日は休日。
天気も良く、街路樹の緑が目に鮮やかだ。
底無しの絶望に暗くなりそうな心も、梢のざわめきや遊歩道の脇にある水路のせせらぎで救われる。そう思わないとやってられない。
「さて、とりあえず歩いてみよう」
騎士団は街の中心から見ると北に位置している。騎士団を背にして右に行けば西区、左に行けば東区だ。真っすぐ進めば南。
街の中心部には歌劇場や美術館など様々な施設で賑わっている。
今日は右に。半円の広場を通って右手に進む。
「ガラルドか?」
「アデル。君も外出か」
「ああ。少し買うものがあるんだよ」
「奇遇だな。僕もだ」
そう言ってアデルと出会った横の店を見た。
そこは大層可愛らしい店構えの雑貨屋だ。
「…………」
これは、どっちだろう?
誰かへの贈り物を選びに来たのか、それとも……アデルの趣味……。
「おい。その微妙な真顔やめろ。自分用のもん探しに来てんじゃねえよ!」
「そ、そうか。……そんなに僕は顔に出やすいのか?」
「めっちゃな」
そう言いながら、アデルは店と僕を見比べる。
「お前は――例の恩人への礼を買いに?」
「ああ。そのつもりだ」
頷くと少し考えてからアデルが提案してきた。
「なら、しばらく一緒に回らね? 正直、こういう店に俺だけで入るのきついんだよ」
「勿論! 是非!」
やった! ルイスに続いてアデルともプライベートで交流するチャンスが!
「…………お前」
「?」
「いや、何でもない」
何故かアデルの目に憐憫の色があるような……。気のせいかな? 気のせいだな!
とりあえずその店に入る。
小さなドアベルが鳴って、店内に踏み込むと薄っすらと花の様な香りがした。
店内の両壁際と中央にテーブルがあり、品物が並べられている。奥が会計になっているようだった。
まだ開店から間もなく、あと少しでランチタイムという時間帯だからか、雑貨屋は比較的どこも空いている。この店も僕達以外見当たらなかった。
程よく明るさが調節された店内。取り扱う品物の雰囲気も合わせて、ナチュラルでやや可愛らしい感じが多い。
確かに男一人で見るのは居心地がわるいかも知れない。気にしないものは気にしないだろうが。
「…………なあ」
「どうかしたのか? アデル」
「お前、貴族なんだよな?」
「まあ、一応」
微妙にもう過去形になるんじゃないかとは思ってる。父様からは処分されそうになって、それを異母弟の温情でこの処罰を受ける事で命つないでるわけで。母様からはそんな事を言われていないし、この処罰に対しても認めていないから少なくとも母様の家(当然貴族)の者とは言えるから、戸籍はまだ貴族だろうけど。
「貴族って、婚約者とかいるんだろ?」
「……いる事が多いね」
兄様と僕は破棄されたけど。まあ一般的に親が決めた相手がいる事がほとんどだ。
「そういう奴の誕生日とか、何、贈るんだ?」
「あー……」
そうか。アデルの贈る相手ってそういう。なるほど。
ごめん……。
「は、花とか? アクセサリーとか?」
「何で語尾が疑問形なんだよ」
だって……婚約者に自分で考えて物を贈ったこと、無いんだ。
うんわかってる最低だよね僕もそう思う。
だから非を見せた途端光の速さで破棄されるんだよ。
婚約者の誕生日とか、そりゃ礼儀として贈り物は欠かさなかった。でも、それ全部従僕に内容から丸投げしてた。
誕生日も正直覚えてない。何なら顔も名前すら薄っすら。
従僕は淡々とその日に合わせて毎回贈り物を発送する作業をしていたから品物が届いていただけで、それはあちらもきっと知ってた。そういう所も、きっと愛想を尽かされる一因だったんだ。




