11.事故物件男
11.事故物件男
結婚などを考えた際、相手を物件に例える事がある。
確かに以降の人生で多くの時間とお財布を共にする生活の基盤は、家に似ているかも知れない。
ところで。条件の良い相手は優良物件と呼ばれるわけだが。
「僕、多分事故物件て言うのが妥当なんだろうな……」
「ぶふっ!」
「うわ、アデル大丈夫!?」
変な所に入ったのか、アデルが咳き込んでルイスに背をさすられる。
「はぁっ、はぁ、いきなり何言ってんだ?」
「そうだね。どうしたのガラルド」
昼休憩、食堂で食後の珈琲紅茶ハーブティーを嗜んでいた時だったので、僕は自分の紅茶のカップをソーサーに戻す。
「いや、ふと、さ。女性は交際や結婚相手を優良物件とか物件に例えるだろう? その表現で言うと、今の僕って……と思って」
一応これでも元貴族(正確にはまだ籍自体は貴族)の令息。当然のように婚約もしていた。
しかし。やらかして処遇が決まった瞬間、最速で破棄された。元から準備されていたんじゃないかというくらいの速さだった所に、元婚約者の抱いていた感情が伝わってくる。
「あー……いや、確かに鈍臭いけどそこまで卑下にしなくて良いんじゃないか」
「そうだよ。それに、後ろより前を向かなきゃ」
ありがたいけど、これは二人が知らないからだ。
そう。僕は言えていない。僕が何をして罰を受けているのか。
「……そう、だな」
言ったら、もう口なんてきいてくれないだろう。
あれだけやってきて、結局そんな風に自分の保身を考えてしまう僕がいる。
だから事故物件なのだ。
「て言うか、女性からのあれこれを気にするって、やっぱりこの間の?」
「あ。まあ、関係なくは無い、かな」
薫衣草の君はどうやらリセナ嬢と言うらしい。ルイスの知り合いが同じ部署にいるらしく教えてくれた。
御礼には手土産も必要だろうとあれこれ考えていた所で、ふと自分というものを考えて今に至った。事故物件男から御礼とは言え、物を受け取ってもらえるだろうか?
そう思った所でこの状態に。
「事故物件からの手土産を受け取ってもらえる可能性はどれくらいだろうか……」
「事故物件言うな」
「ガラルドはまずその事故物件思考から離れようか」
だって事実だし……。
顔に出ていたらしく、ルイスがニッコリと言う。
「考えると余計事故物件感が漂うよ?」
酷い。事実だけど。
「それによぉ、言っちゃなんだが」
「アデル?」
アデルがこちらを見て、目をそらす。
あ。何か嫌な予感。
「そもそも事故物件とか嫌がられるほど、お前、相手に認知されてないと思うぞ?」
ぐっ……。何だろう、別に、物理的にも何もされてないのに、事実なのに、ボディブローをもらった感じが……。
「あー。確かに。ある程度、親交がないと嫌うも何も無いよね。興味が無いというか」
ぐはっ!?
「…………」
「お、おい、大丈夫か?」
「ガラルド、顔真っ青だよ!?」
これも罰の一環だろうか……。
「うん……。大丈夫」
思わず虚ろな笑いが口から溢れたが、大丈夫。
「ま、まあ、そんなわけだし、気にする事、ねぇんじゃないかって事だよ!」
「そうそう。気楽に。ただ御礼するだけなんだし」
「ソウダナ……」
嗚呼、無情。
フォローしてくれている(多分)二人の言葉に若干ダメージを受けつつ、僕は再び紅茶をすする。何かちょっと苦くて渋くなってた。
※※※
「どうするよ」
「どうしようね?」
どんよりとした雰囲気そのままの顔で茶をすする同僚に、アデルとルイスはひそひそと囁き合った。
鈍臭いドジばかり連発して、いつも何か言いたげなのに声の一つも掛けて来なかった同僚。
それが変わった。
鈍臭いのは相変わらずだが、見ててわかるくらい何とかしようと奮闘している。まあ、ちょい空回りもあるが。
一度物凄く思い詰めた顔で話し掛けて来てからは、普通に話をするようになった。
話してわかったのは、二人の共通総評として「変なヤツだけど悪いヤツではない」だ。
今目の前にいるのはさらにおかしくなっているので、最新の評は「アホの子」これに尽きる。次点の「残念な子」も濃厚なのだが。
食堂を出て、仕事終わりにアデルとルイスは顔を再び見合わせた。
「どうしようね?」
「……まあ、明日いっぱいまで期限あるしな」
二人の視線の先はそれぞれの携帯端末の画面。
チーム継続を問うアンケートだった。
次の更新は来月です。
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