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フィジカル・ロジカル  作者: 琳谷 陸
事故物件の成り立ち
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9.なんてこった

9.なんてこった



 当然ながら、侵略してくるなら返り討ちにする。

 当たり前だ。迷い込むならいざ知らず、明確に敵意があるなら優しくしてやる義理はない。

 それでも父様いわく甘いと。

 何故なら現在のシアンレード領では『返り討ちにした後』にも一段階、意思確認が挟まるからだ。

 返り討ちにされ、実力差を思い知った上で、まだ害する気があるかどうか? の確認がある。

 ここで悔い改めれば、事情を聞きつつ、送り返せるなら送り返す手伝いをし、帰れない事情があるなら領民として受け入れるのだ。

 もちろん、悔い改めないなら、敗者の行く末など想像にかたくないだろう。

 この仕組みは異母弟が領地を開発し始めた頃に作ったらしい。

 そんなこんなで話を戻すと、様々な理由からこの領地には人間が多い。むしろ魔族にとって特に目を引く何かがあるわけでも無いので、住人の割合としては人間の方が多いのだ。

 …………と、それが数百年前までの事情。

「人間の文化って、魔族にとってそんなに面白いのかな? ボクは人間だけどこの領地育ちで、産まれたときには既にこういう環境だったからよくわからないんだけど」

「そうだな……多分、面白い。なんと言うか、大概の魔族は退屈を嫌うし、刺激を求めてる。寿命が人間と比べて長いからだろうか」

 退屈では死ねないが、死ねないから始末が悪い。

 そこに来て、人間は寿命が短いのに様々な工夫や娯楽開発に余念が無いと見える。開発しても自分達がその恩恵に預かれる保証はなく、後世でやっと、な事もあるというのに。

 自分以外の誰か、の為に事を起こそうと思える、行動するのは人間ならではの言動だ。

 だからこそ、創り出す過程も含めて、人間の文化は面白いと感じる。

 そんな人間文化を積極的に発展させた結果、今では魔族の移住も増えて、特に中心地である領都では魔族の移住が順番待ちの状態だ。

 別荘とか領都以外ならまだ入りやすいのだが。

「魔族、特に貴族ならなおのこと、こんな不特定多数の者と同じ風呂に入ろうとは思わないだろうし、発想しないな」

 淫魔族とか一部の種族は除く。

「ガラルドは貴族だよね? いまさらだけどイヤじゃないの?」

「まったく。……と言っても、今は、か」

 そう。数年前までなら今とは真逆。ルイスの言うように人間となんて、同じ貴族以外と話すのも視界に入れるのすら不快に感じただろう。どこまでも馬鹿で、記憶全て消したい。

「それにそもそも、僕はもう貴族じゃない。やらかして、でも温情をもらって、生かしてもらってるんだ」

「…………そっか」

 ルイスがポツリと呟いて、立ち上がる。

「そろそろ上がろうか。のぼせるよ」

「そうだな」

 タオルは返却用バスケットに入れ、着替えて脱衣所を出た。

「ガラルド、風呂上がりはコレだよ」

「?」

 手招かれ、ルイスから白い液体の小瓶を渡される。

「風呂上がりのミルク。フルーツミルクとか色々あるけど、今日は基本のノーマルから」

 自分の分をグビッと呷るルイスに、僕もつられて飲み干す。

 よく冷えたミルクが喉を駆け下り、思わず飲み干した後に「プハッ」と声が出た。貴族としての品なんてあったものではない。しかも何故かホッと一息な感覚になって、はふぅと溜め息もこぼれた。

「ミルクが苦手な人のために、お茶類もあるから、自分の一番を探すと良いかな。あ、でも酒はここ置いてないからね」

「なるほど。でも、僕はミルクで良いな」

 正直、別に酒は好きじゃない。嫌いではないが、何を優先しても酒! ってわけではない。貴族の食事会とかはワインが当然のごとく出てくるので飲むけど。

 そんな僕をルイスが気づくとじーっと見ていた。

 な、何かまずい言動をしてしまっただろうか?

「ガラルドって、本当にイメージと違うね」

「な、何が」

「最初、もっとツンケンして取っつきにくいのかと思ってたんだ」

「そ、そうなのか? それは……」

 そういう風に見えるものが僕にあったからだよな……。

「あ。違うよ。そんな風な態度してなかったから」

「……ルイスは心を読む特殊技能持ちか?」

「いや、ガラルドは顔に全部出るから」

 そんなに!?

「ボクらの前にもガラルドって何個かグループに組み込まれて、でも結局はその全部が成立してなかったし」

 ザクッと不意打ちで心を削らないで欲しい。

「あまり交流もしようとしないって話も出てて、実際ボクらと組んでから先日まではそうだったし」

「それは……」

「ただ、それでも無駄に何やかんや姿勢とか仕草とかが貴族っぽくて……ああ、綺麗って意味だよ。まあ、だから貴族がボクらみたいなのと一緒に居るのが嫌でそんな態度なのかなーって思ってたんだけど」

「そんなことは!」

「うん。無いよね。大丈夫。今はわかってるから」

 なんてこった。フラフラヘロヘロで凹んで怖がってた状態が、まさかそんな風に思われていたなんて!

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