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初めてのお仕事

「あ、あのう。公爵家嫡男の浮気調査って、一体どうすれば良いのですか? 私は魔法なら一通り使えますが、そういった経験がないんですけど」


 結界を張る、治癒魔法を使う、あらゆる属性魔法で魔物たちを蹂躙する。

 聖女に求められているこのあたりの仕事ならある程度はこなせる自信があった。

 でも、浮気調査って……。ちょっと予想外すぎるわよ。これだったら、まだ猫探しのほうが手順とかが見える分、やりやすかったかもしれない。


「主には尾行と報告書の作成ですね~。報告書の書き方はフレメアさんに教えてもらってください。尾行は“絶対に”見つからないようにしてくれれば、僕ァ何も言いません。ルシリアさんの自主性を尊重します」


「それって、マニュアルが特にないだけなんじゃ……」


「そうとも言えますね~。極秘依頼はそんなのが多いんですよ。臨機応変に柔軟な対応を求められるとも言います。そのために新人のルシリアさんには先輩としてフレメアさんが付いているので、いざとなったら彼女に頼れば大丈夫です」


 う、うーん。不安すぎる。でも、やらなきゃ。

 せっかく、アークハルト殿下が私の力を欲しいと期待してくれたんだから。

 こんなこと一度もなかったし、きっといままでの努力だって無駄にならないはず。


「フレメアさん、あのう。私、足を引っ張らないように努力します。もしものときはお願いしますね」


「分かった。あたしも浮気調査初めてだけど。任せてくれていい」


「えっ?」


 ふ、不安すぎる。浮気調査が頻繁にあるわけではないということは朗報なんだけど。

 二人の初心者で何とかなるのだろうか。でも、やるしかないか……。


「それでは、ルシリアさんとフレメアさん。明日からよろしくお願いします。僕ァ資料とか必要な書類を用意しているので。お二人は宿舎で休んでくださいねぇ。お疲れ様」


 明日からか。今日はこっちに移動だけだったけど疲れたわ。

 やっぱり、慣れない環境だといつもよりも数倍気を遣う分、知らないうちに体力が奪われるわね。

 私とフレメアさんはそのまま退室した。


「ルシリアさん、夕食は?」

「いえ、まだですが」

「なら、一緒にどう? 食堂に案内するけど」

「は、はい。ご一緒させて頂きます」


 ずっと眠たそうな顔をされていて、槍の達人ってことを忘れそうになるフレシアさんだけど、親切な方みたいで新人の私を気遣って食事に誘ってくれる。

 アークハルト殿下の仰るとおり、本当に良い人たちばかりだわ。これなら、上手くやれそうかも。


「こっち。ついてきて……」


 フレメアさんに案内されて私は宮廷ギルドの宿舎へと向かった。

 どうやら一階にギルド員専用の食事があるらしい。

 

「お、美味しい……! 柔らかくて、舌に触れた瞬間、溶けるような食感。こ、こんなに食事が美味しいなんて!」


「宮廷料理人が作っているから」


「あー、そういうことですか。てっきり、食べられるのは王族の方だけかと思っていました」


 美しいピアノの音色を聞きながら、今まで食べたことがないほど美味しい食事を頂いている私。

 どうやら、宮廷料理人と宮廷音楽家は練習代わりに調理や音楽をギルド員に振る舞うことになっているらしい。

 昨日に引き続き、まるで王女にでもなったかのような空間ね。一気に疲れも吹き飛んだわ……。


「じゃあ、また明日」


 宿舎の三階の一番奥の部屋に案内された私はフレメアさんから鍵を渡されて別れた。

 思ったよりもずっと広くてきれい。さすがは宮廷ギルドの宿舎だ。

 カールシュバイツ邸ほどとはいかないけれど、ベッドにデスク、ソファにテーブル。そして、必要最低限の家具はみんな揃っている。

 もう夜だから外の景色は見えないけれど、きっとベランダからの風景もきれいだろう。


「ミュー、ミュ、ミュー!」

「そうね。もう休みましょう。明日から尾行とかそういう仕事になるからちょっとお留守番していてね」

「ミュ、ミュー」

 

 相変わらず我先にとベッドに飛び乗るマルルに明日からお留守番を頼むと告げ、私は休む準備をする。

 ああ、今日もまた濃い一日だったわ。そして、明日もきっと……。

 私はまどろむ中、明日からの初仕事をきちんとやり遂げようと心に誓った。


 ◆


「ロイドさん、フレメアさん、おはようございます」


 頑固な寝癖に悪戦苦闘しながらも、何とか支度を終えた私は昨日の夕方に訪れたロイドさんの執務室へと向かう。

 フレメアさんは既に来ており、ロイドさんから渡された書類に目を通していた。


「ルシリアさんも、これ読んでおいて」

「あ、はい」


 手渡された資料は公爵家の嫡男であるレイナード・フォン・ルミリオンの個人情報と、なぜ彼に浮気疑惑が浮上したのかという理由である。

 レイナードは十八歳、私やアークハルト殿下と同い年。十五歳のときに十四歳のアリシア殿下と正式に婚約してるわ。


 浮気疑惑の発端は、ええーっと、密書が届いたみたいね。レイナードがルミリオン家を夜な夜な抜け出しては、女性に会っていると。

 誰とどこで会っているのかは不明。つまり真偽は分からないとのこと。

 アリシア殿下も最近、レイナードの態度が変だと不信感があり、今回の調査を依頼している。

 

「事の発端が噂話レベルなんで、ガセネタの可能性は十分にあります。ただ、宮廷ギルドの信頼を買われて依頼されていますから。ガセだと判断するにしても絶対に間違いがないと確信してからにしてください」


 浮気はなかったということの証明。これは中々難しいわね。

 実際にしていたのなら、現場を押さえれば済むだけだけど。悪魔の証明のごとく、潔白であることを証明することは難しいわ。


 でも、それが宮廷ギルドの信頼に関わるなら、私もいい加減なことをするわけにはいかない。

 持てる力を駆使して頑張るわ……。


「さっそく、ルミリオン家に向かう。ついてきて」

「えっ?」


 窓を開けて、フレメアさんはそのままそこから飛び降りる。

 そ、そんなところから出るの? 嘘でしょう? ここ四階よ……! 


 で、でも追いかけなきゃ。私も窓から外に飛び出した……。


風翼(ウィング)!」


 魔法陣を素早く形成して、私は風の翼で宙を舞う。

 自分の体重を支えることが出来るのは十秒ほどだけど、空を飛べる便利な魔法だ。


「見つけたわ……!」

「こっち。上から向かうから」


 王宮の時計台の上に立っていたフレメアさんは顔色一つ変えずにルミリオン邸のある方角を指差して、音もなく高速で移動する。

 ま、魔法も使っていないのに速すぎ……! 私も風の翼で何とかついていく。

 

「フレメアさん、これって目立ってませんか? 気付かれたらまずい気がしますが」


「大丈夫。特務隊が急いで移動しているなんて日常茶飯事だから。誰も気にしない」


「こ、この風景が日常なんですね」


 建物から建物へと飛び移りながら猛スピードで移動する。

 こんなのが当たり前だなんて、信じられないわ。

 こうして、馬車で移動するよりも遥かに早く、ルミリオン邸付近にたどり着いた私たち。

 まずはどうやってレイナードを見張るか、ね……。

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