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思わぬ再会

 アークハルト・フォン・エルガイア――エルガイア王国の王太子殿下にして現在、十八歳。私と同い年である。

 シャンデリアに照らされてキラキラと光り輝くきれいな銀髪、アメジストのように澄んだ瞳。そして、その整った顔立ち。

 この屋敷のどのような芸術よりも美しいと思われる容姿を相手に、初対面だったあのときの私はまともに口を利けなかったのを思い出す。

 なんでよりによって、アークハルト殿下なのよ。前に会ったときも恥ずかしくて、上手くお喋り出来なかったのに。


「へぇ、聖女を目指しているんだ。だからあんなに魔法の修行を頑張っていたのかー。知っているよ、あの山に俺もいたんだ」


 山で修行している様子を、アークハルト殿下の友人である私の故国の第二王子、オーウェン殿下と鷹狩中に見ていたらしく、そのことについて話題を出してくれたのに、私はびっくりして変な反応しか出来なかった。


「大丈夫だよ。だって、君はあんなにひたむきに努力していただろ? きっと聖女になれる。俺が保証するよ」


 その言葉が嬉しかった。

 私が死にものぐるいで試験突破のために頑張れたのは殿下の言葉があったからかもしれない。


 ――でも、私は惨めに追放されてしまった。


 こんな情けない姿を殿下に見せたいわけがないじゃない。恥ずかしくて、顔が上げられないわ……。


「聞いたよ! カールシュバイツを助けてくれたらしいね。この男には俺の祖父の代から世話になっている。エルガイア王族を代表して礼を言わせてくれ」


「えっ?」


「どうしたんだ? 何を意外そうな顔をしている? 俺が頭を下げるのがそんなに変か?」


 唐突にアークハルト殿下に頭を下げられた私は変な声を出してしまった。

 だって、予想外だったんだもの。一国の王太子に頭を下げられるなんて。

 そりゃあ、カールシュバイツ辺境伯が国家の重鎮であることは承知していたけど。当たり前のことをして改まってお礼を言われると、ねぇ。


「アークハルト殿下、ご無沙汰しております。……あのう、変だと思わないのですか? わ、私がこの国にいることが」


「おおっ! そういえば、聖女になれたのだな! おめでとう! やはり俺の目に狂いはなかったな! はっはっはっ……!」


 いえ、そうじゃなくて。私がこっちにいることが変だと感じなかったのか尋ねているんですよ。

 どうも、話が噛み合わないような気がするわ。確かに、おおらかな方だという印象だったけど。


「この国にわざわざ優れた人材を送ってくれるとは、オーウェンの奴が知ったら卒倒するかもしれんな。そういえば、君の妹、なんて言ったかな? ええーっと、そうだ、エキドナだ。オーウェンの婚約者だったよな? だったら、すぐに知るところになるか」

 

 オーウェン殿下は婚約者であるエキドナの話を信じるだろうし、家宝を壊した愚か者だと認識するだけだと思うわ。

 聖女を人材として好意的に受け入れてくれたのはありがたいけど、だからこそ追放された理由が余程のものだと思わないのかしら。


「ところで君はなんでまた追放処分など受けたのだ? 不当なのは分かっているが……。カールシュバイツは聞いたのか?」


「いえ、野暮なことだと思いましたゆえ。敢えて何も聞きませんでした。言いたくないこともあろうと」


「ふむ。差し支えなければ聞かせてほしい。俺なら、何とか君を助けることが出来るかもしれないし。カールシュバイツを助けてくれた恩返しがしたいんだ」


 追放された理由を話す? アークハルト殿下に?

 どうしたらいいのかしら……。話してどうにかなるものだとは思えないけど。

 でも、一国の王太子を相手に嘘もつけないし……。 


「信じてもらえるか分かりませんが、濡れ衣を着せられました。家宝の“神託の杖”を壊した、と――」


 私は結局、全部話してしまった。

 どこかで吐き出したかった、という気持ちもあったのだろう。

 自分が聖女となって、すぐに実家で家宝を壊した愚か者だと糾弾されて、追放されたという顛末を包み隠さず話したのだ。

 もちろん、全て信じてもらえるなんて思ってはいない。

 それに信じてもらえたところで、妹のエキドナにはオーウェン殿下がついている。下手に糾弾して国際問題に発展しても困る。

 だから、話しながら私は軽率なことをしたと若干の後悔もしていた……。


「なるほど、ね。いや、オーウェンもとんだ女狐と婚約したものだ。エキドナだっけ? 彼女はえらく人気があるらしいじゃないか。君の国で、英雄みたいな扱いなんだろう?」


「そのとおりです。殿下……」


 まず、話を聞き終えたアークハルト殿下の最初の一声に私はホッとする。

 もちろん、私のことを信じてくれたからだけど、それだけじゃないわ。

 エキドナという人間が国ではどう扱われているのか認識していてくれたから安心したの。

 仮に殿下が私のために怒ってくれたとしても、あの神童と呼ばれた天才エキドナが落ちこぼれの私を嵌めたなんて荒唐無稽を故国の誰も信じてくれない。

 最後の殿下の問いかけはその確認だった……。

 

「これは君の名誉を回復させるのは一筋縄じゃいかなそうだ。オーウェンはエキドナのことを買っていたし、俺の話を聞いてどう出るのか予想は出来ない。安直な男ではないと、信じてはいるが。証拠は必要だろうな」


「アーメルツ王国の国家的な英雄にして、神童と呼ばれたほどの聖女ですからな。エルガイア側が如何に糾弾しても聞き入れるとは限りますまい」

 

 アークハルト殿下と辺境伯は口々にエキドナを訴えることの難しさを語った。

 でも、どうして私が嘘をついていない前提でここまで真剣に話をしてくれるのかしら?

 だって、やっぱり変よ。普通なら英雄であるエキドナが落ちこぼれの私を貶める理由がないと考えるもの。


「アークハルト殿下もカールシュバイツ様と同様に私のことを信じてくださるのですね」


「えっ? なんだ、嘘なのか? 今の話」


「い、いえ、とんでもございません。ただ、あまりにも簡単に、なんの証拠もなしに追放者である私のことを信じてくださったので」


 つい、私は本音を言ってしまった。アークハルト殿下が純粋すぎるくらい私のことを信じてくれたから。

 辺境伯と違って、殿下にとっては友人の婚約者だし。もっと、疑っても不思議じゃないのに……。


「証拠ならあるさ」


「証拠ですか? あの、ありますかね? あれば、良いとは思いましたが……」


「努力して、努力して、やっと掴んだんだぞ。君は自分自身の未来を! そんな強い女が嫉妬とかくだらん感情に支配されるはずがない。君の歩んだ道は俺を信じさせるに足りている。卑屈になる必要はないんだ! ルシリア!」


 今度は涙が溢れてしまった。気付いたら私は大粒の涙で食卓を濡らしてしまっていた。

 なんで、こんなにも胸を打たれたんだろう。アークハルト殿下は一度しか私が修行している風景を見ていないのに。

 毎日やっているという言葉も信じてくれていたのだろうか。


 アメジストのような瞳が私をジッと見つめている。その表情は真剣そのものだ……。

 殿下、ありがとうございます。私のことを信じてくれて。

 名誉は守れずとも、私にはそれで十分。何よりも嬉しい勲章だから――。


「まぁ、すぐには無理でもいずれ晴らそう。俺が君の尊厳を絶対に守る。……とりあえず、我が王宮に住むが良い。エルガイア王宮には宮廷ギルドというものがあってな。そこで君の力を是非とも振るってほしいと思っている」


 宮廷ギルド? それって、宮仕えってことよね。

 追放者である私が王宮に仕えるなんてこと……。

 あまりにも突然の提案に私は再び、固まってしまった。

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