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自分らしく、素直に

「お疲れ様、今日もまた活躍したんだって?」


 朗らかな笑みを浮かべ、アークハルト殿下は私の頑張りを自分のことのように嬉しがる。

 それが私にとっては誇らしい。何よりも、それが私にとっての褒美だと思っている。


「魔物が減ったとはいえ脅威はなくなっていません。それに何かしらの事件も起こりますし」


「君らが楽をすることが出来る国家を作らねばならんのだが、つい君たちの優秀さに甘えてしまう。まったく、俺は自分の怠惰を呪いたいよ」


「そんな! 殿下は怠け者なんかではありません。こうして、私がここで過ごせるのは殿下のおかげなんですから」


 そう、私は故郷には帰らなかった。

 薄情者なのかもしれない。アーメルツの聖女になるために私は才能に抗って、努力し続けてきたのだから。

 妹のエキドナが投獄された今、アーメルツには聖女はいないのだから。


 ローエルシュタインの名を持ちながら、追放者という汚名を返上しても尚、この国にいることは故郷への裏切りになるのではと私は思い悩んだ。


 でも、私は私の無実を信じて再起する機会を与えてくれたこの国への恩義に嘘をつけなかったのだ。


「まさか君がここに残りたいと、そういう選択をするとは思っていなかった。いや、俺はそう望んでいたが……」


「殿下には感謝しています。私がここに残っても気に病むことがないように、と。まさか、アーメルツと同盟を結ぶなんて」


「いや、どちらにしろ。あの同盟はオーウェンと俺で進めていた改革の一つだからな。互いに国力を上げるために足りない部分を国境を越えて補い合うことで、両国の発展を促す。我が国の聖女が守る範囲が二倍になったが、豊富な資源が得られたので生産力も増加したし……」


 アークハルト殿下とオーウェン殿下が進めたという、両国の同盟。

 互いに足りない要素を補い、発展していこうという趣旨らしいが、それに聖女としての務めも入っていた。


 その同盟のおかげで私が戻らずともアーメルツはエルガイアの聖女による恩恵を受けることが可能となったのだ。

 まぁ、アナスタシアさんがあちらでの生活を気に入ってくれているというのもあるみたいだけど……。


「ローエルシュタイン侯爵は君の言い分も聞かずに追い出したという一件が取り上げられて、爵位を剥奪されそうだと聞いた。だからこそ、君には戻ってきてほしかったみたいだな」


「アネッサがオーウェン殿下の補佐としての仕事を得られていなかったら、戻るという選択をしたかもしれませんね。でも、父には私は……」


「無理しなくていいよ。肉親だから必ずしも情を持って接しなくてはならないという法はない。最初に君を裏切ったのは侯爵とエキドナなのだ」


 優しく肩を抱きながらアークハルト殿下は私のことを慰めてくれる。

 一番悔しい思いをしていたとき、私の味方はアネッサしかいなかった。そんな彼女が窮地なら私は彼女のために故郷に戻ったと思うわ。

 でも、父は違う。あのとき、私は父に信じて欲しかった。

 天才であるエキドナと違って落ちこぼれだった私だけど、それに抗って結果を出したことを褒めてもらいたかった。


 でも、父は私を信じるどころかエキドナの言葉しか飲み込んでくれなかったのだ。

 このとき、私は父に見捨てられたと思った。だから、悲しいけれど情とかそういう感情は一切湧かなかったのである。


「俺はルシリアのこと尊敬しているよ。弱音を吐かずに、その類稀なる努力で、よくここまで頑張ってくれた。正直に言って俺は君と離れたくなかった……!」


「アークハルト殿下……」


「ルシリア・フォン・ローエルシュタイン、俺と結婚してくれないか?」


 時が止まったような、そんな錯覚がした。

 今、アークハルト殿下は私にプロポーズされた? だって、殿下は亡くなった婚約者のことを……。


「あの、殿下はエリスさんのことを忘れられずにいて、今までずっと――」


「エリスのことは忘れられはしないだろうね。大切な人だったから。……だが、だからといって君に惹かれている自分の気持ちには嘘をつくつもりはない」


 いつも以上に強い輝きを孕んでいるその瞳は、まっすぐに私の目を見つめている。

 涼やかな風のように正直でストレートな告白に思わず私は息を呑んだ。


 どうすればいいの? こんなとき、私はどんな言葉を……。


 ――何を悩んでいるのかしら。


 アークハルト殿下が素直な気持ちを口にしてくれたんだから、私も思ったことをそのまま出せば良いだけじゃない。


「私などでよろしければ、喜んで殿下と共に未来を歩みたく存じます」


「ありがとう。この先、俺はこの国をもっと豊かにするために努力し続けると思う。君を見倣って、ね。だから、君は特等席で……、俺の隣でエルガイア王国の行く末を見守ってほしい」


 腕に力を込めて、この国の未来を共に見てほしいと希望を伝えるアークハルト殿下のぬくもりを感じながら、私は自分の信念を貫いたことが間違いではなかったと実感した。

 自分の才能のなさに絶望したことはあったけど、頑張り続ければいつかは報われる。

 それを知ることが出来ただけでも私の人生は有意義だったのかもしれないわ――。

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