汚名返上
超巨大瘴気孔が塞がった結果、世界中の魔物の出現率も徐々に低下したという報告が届くようになった。
宮廷付特務隊の活躍はそれに伴い世界中に知れ渡ったとのこと。
ロイドさんは次期ギルド長選挙で勝てると得意満面であったが、リッケルさんも出馬するみたいで、彼の研究成果を考えると激戦が予測される。
そして、私はアークハルト殿下に呼び出された。
大事な用事があるということだけど。何だろう……。
「やぁ、ルシリア。またお手柄だったそうじゃないか。君を推薦した身として俺も鼻が高いよ」
「お褒めに預かり光栄です。リッケルさんたちが作ってくれた“神託の杖”のレプリカのおかげですが」
「リッケルはアレのことを本物には遥かに及ばない模造品だと言っていた。君の能力があってこそ、あの魔道具は十二分に力を発揮したんだ。ルシリア、もっと自分を誇ってくれていい」
本物には全然及ばない模造品……。
そうは感じなかったわ。まぁ、本物を使ったことがないから、分からないけど。
リヴァイアサンが出てきたときはどうなることか思ったのよね。でも、良かったわ。急所を一撃で仕留められるなんて幸運だった。
「そこに座ってくれ。今日は君の活躍とは別に大事な話があるんだ。いや、正確には君の活躍と無関係ではないんだが」
「は、はい。どのようなお話でしょうか?」
改まって、私をソファに座らせたアークハルト殿下。
何やら言いにくそうな話のように感じる。
いつも輝いて見えていた殿下の瞳が心なしか色褪せて見えたから。
えっと、これはまさか。この宮廷ギルドを辞めてほしいとかそういうこと? ちょっと怖くなってきたんだけど……。
「ルシリア、君が追放された理由はローエルシュタイン家の家宝“神託の杖”を壊したことに起因するとなっているよね?」
「は、はい。仰るとおりです」
私の追放理由を確認した? これは殿下とこの国に来たその日に告白したから後ろめたいことではないけど。
今、それを確認したってことはやはり私を宮廷ギルドに置けなくなったんじゃ……。
「その追放理由がなくなった」
「えっ?」
「ルシリア・フォン・ローエルシュタインの追放が不当であったと、アーメルツ王国が認めたんだ」
わ、私の追放理由がなくなった? 不当であったとアーメルツ王国が認めたなんて……。
だって、私の無実が決まったということはすなわちエキドナが――。
私はアークハルト殿下の言葉に驚いてしまって声を失う。
妹のエキドナは国家的な英雄である。
そのエキドナが私を糾弾したのだ。だから、私は大して取り調べを受けることなく、父の一言で追放処分が妥当とされた。
やっぱり信じられないわね。何が起こったというの……。
「エキドナは投獄されたよ。“神託の杖”を破壊して、なおかつ君にその濡れ衣を着せた罪で」
「…………」
そ、そうなるわよね。
でも、あのエキドナが投獄されたなんて信じられないわ。
だって、そんなことしたらアーメルツには聖女がいなくなるし、あの子の貢献を考えたら罪を握り潰すくらいすると思っていたから。
そりゃあ、あの日のアネッサとの約束は嬉しかったわよ。
でも、アーメルツにとってエキドナの存在は大きすぎる。だから、私は半ば名誉を回復出来るなんてこと諦めていた。
「アーメルツにはオーウェンがいるからね。あいつが婚約者に対しても容赦なく正義を振るえるか少し疑問だったが……。あいつはそういう男だ」
「オーウェン殿下が、ですか?」
「うん。オーウェンが君の追放が不当であったのではないかと疑問に思い、調査したらしい。君の友人のアネッサとやらも協力したそうだ」
アーメルツ王国の第二王子、オーウェン殿下。
公明正大にして、切れ者。不正を犯した役人を辞職させた回数は王族の歴史の中で随一と言われている。
そして、そんな彼はエキドナの婚約者だ。
私が見た感じではエキドナのことを敬愛しているように感じたんだけど。
オーウェン殿下は自分の正義を信じて彼女をも糾弾の対象としたということか……。
「とにかく、オーウェンはエキドナに罪を認めさせることに成功した。君は晴れて無罪放免となったというわけだ」
「……ありがたいお話です。オーウェン殿下やアネッサに何とお礼を申し上げれば良いか」
オーウェン殿下、そしてアネッサ。どれだけ二人が頑張ったのか、私には見当がつかない。
おそらく、オーウェン殿下は疑わしいだけではエキドナの罪を問わなかっただろう。
ということは見つけたということだ。エキドナが言い逃れ出来ない証拠を、どうやったのか分からないけど。
それを考えるだけで、二人には頭が上がらなくなる。
「じゃあ、直接お礼に行くかい? アーメルツに」
「アーメルツに直接って……、そのう」
「君はもう、追放者じゃないんだ。故郷に帰ることは出来るんだよ。それに、君のお父上のローエルシュタイン侯爵は帰還してほしいみたいだ。聖女として故郷で活躍させるために……」
アーメルツ王国への帰還。その言葉を聞いたとき、私の頭にガツンと大きな衝撃が走った。
父が私の帰還を望んでいるって……、追放しておいてそんなことを言うなんて……。
私の罪が洗い流されたということは嬉しいことだけど……。
「アーメルツには正式な聖女がいない。君が妹の後釜に入ればきっとすぐに英雄になれるだろう。アーメルツ王国の救世主として」
「アークハルト殿下……」
「もちろん、俺は寂しいし。ロイドやフレメアもそう言うだろう。だが、ルシリアの今後を考えるとな」
ずっとアーメルツの聖女になるために努力し続けたのは事実。
でも、私にはこの国への恩がある。
完全に板挟みになってしまった私。
どうすることが正解なの……? 帰還か、それとも……。
いきなりの重すぎる選択に私は大いに悩まされてしまった――。
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