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努力の開花

「ドラゴンの群れが結界を破った!?」

「は、早く退治してくれよ。冒険者さんたち!」

「む、無茶だ! 俺たちが何とかできる規模じゃない!」


 ここは王宮から北に馬車で一時間ほどの郊外の町。

 この町の近くの山はドラゴンの群生地らしく、聖女が結界を張っていたが、それが壊れてしまいそうとの知らせを受けて私とフレメアさんは急いでここまでやって来た。

 王都の守護が宮廷付特務隊の仕事だから……。


「暗殺者の公爵令息よりはやりやすい……」

「グオオオッ! グアッ!」


 フレメアさんは宙を舞いながら槍を振り落としドラゴンの首を落とす。

 この前と全然違うわね。フレメアさんは大陸一の槍の達人って言われているから、こんなの当たり前なんだろうけど。


四氷燕クアトロドアプルスワロッ!」

「「ゴアアッ! ガフッ……!?」」


 魔力を集束して、一点集中で貫通力を高めた氷の燕を四つの魔法陣から四体のドラゴンめがけて放った。

 どんな生き物も心臓部を穿てば生命力を失う。私の燕は、一体ずつ確実にドラゴンたちの命を刈った。


「すげぇ、あの亜麻色の髪をした女。ドラゴンを一瞬で四体も」

「あんな小さい氷の燕で倒せるんだ。ドラゴンって」

「バカな、初級魔法だぞ。それであんなに大型の魔物を仕留めた、だと!?」


 私の魔力じゃ大規模な魔法は使えない。だからこそ、小さな魔力を一点集中させて威力を上げる技術を極めた。

 見た目は小さくとも貫通力を高めた魔法は多重魔法(マルチプレイ)と併用すれば、大規模な魔法の威力にも劣らない。


八燕氷(オクタプルスワロ)ッ!」


「こ、今度は八個同時にだと!?」

「こんな魔術師見たことない!」

「宮廷ギルドはまた凄い人材を見つけてきたな……!」


 ただの魔物退治なら、聖女として認められるために何度も訓練したからそんなに苦労しなかったわね。

 山の結界はこの国の聖女が既に張り直したと連絡が入ってきたし。私たちの仕事はもう終わりみたい。

 幸い怪我人も出なかったから、仕事としては完遂出来たと思うわ。


 ◆


「いやー、お手柄、お手柄。ルシリアさんは非常~に、優秀、有能ですねぇ。あれから一ヶ月。すべての仕事を完璧にこなしている。さすがはアークハルト殿下のお墨付きだ」


「そ、そんなことありません。魔物退治に関しては訓練していましたから。浮気調査と違って」


「あっはっはっは、そうですねぇ。浮気調査の訓練をされている方はスパイか何かの方に行っているでしょうから」


 仕事を終えて、ロイドさんに報告を済ませると彼はまた上機嫌そうな顔をした。

 今回の仕事のように単純な魔物を倒す仕事はやりやすいわ。

 今って魔物の数が増えているから結界が破られることが多発しているみたいね。

 エルガイアには聖女が三人もいて、特務隊とか王都を守る組織もあるから、早々困った事態にはならないだろう……。

 でも、アーメルツはエキドナ一人だし、大丈夫なのか心配だわ。

 まぁ、あの子は簡単に参るような人間ではないとは思うけど……。


「ロイドさん、お疲れっす。アークハルト殿下が新人ちゃんに用事があるって来られたみたいっすよ」


「ヴォルニットさん、護衛の任務、お疲れ様です。アークハルト殿下がルシリアさんに、ですか。分かりました」


 特務隊で最の背が高い、筋骨隆々の男。ヴォルニット・フォン・アルニスは国一番の剛力が認められて、宮廷ギルドに入った剣士です。男爵家の三男なので、貴族でもあります。

 彼は主に王族たちの護衛の任務に当たっています。大柄な彼はその威圧感で他の人を寄せ付けない感じではあるんですけど、話してみれば気さくで感じの良い人でした。


 それにしても、アークハルト殿下が私に用事?

 一体、どのような用事でしょう?


「ロイドさん、あのう」


「ルシリアさん、今日の仕事はここまでで大丈夫ですよ。完璧な報告書でした。あとは、フレメアさんから聞けば事足りますので、殿下のところに行って差し上げてください」


 私の顔を一瞥すると、ロイドさんは書類に集中しながら、今日の仕事はもう終わりで良いと言われました。

 もう、この国に来てから一ヶ月経つけど、アークハルト殿下とは何度か会っている。

 世間話的なことしかしていないけど……。


 でも、今日みたいに直接執務室に来るのは珍しいわ……。やっぱり何かあったとしか思えない……。


「やぁ、ルシリア。聞いたよ、また手柄を立てたらしいじゃないか」


「与えられた責務を果たしただけです。そんな大層なことではありません」


「いやいや、ドラゴンを二十体、それを十分足らずで屠ったらしいじゃないか。そんな芸当、多分だけどアナスタシアでも無理じゃないかな」


 エルガイア王国が誇る通称“最強の聖女”アナスタシア。

 十四歳で聖女になってからというもの、他を寄せ付けない圧倒的な魔力とその高い技術でこの国の守護者として貢献し続けていた。

 

 アークハルト殿下、その名を出して私を褒めるなんてやり過ぎよ。

 エキドナよりも強い力を持つ彼女に私が及ぶべくもないんだから。


「アナスタシア様に失礼ですよ。私などを彼女と比較されるなんて」


「そうかな? ここ最近の君の活躍を聞くとそうでもないような気がするけど」


「評価して頂いて、ありがとうございます。これから、もっと宮廷に貢献出来るように頑張ります」


 でも、アークハルト殿下が私を褒めてくれるのは素直に嬉しかった。

 殿下と話していると心が安らぐ。和やかな気分になって、もっと努力しようって気分になれるわ。


「そのアナスタシアだけど、今、アーメルツに行ってもらっているんだ」


「えっ? ええっ!?」


 な、何を言っているの?

 アナスタシア様が何でエルガイアからアーメルツに行く必要があるっていうのよ。だって、この国の英雄よ、英雄。

 三人もいるとはいえ、聖女という貴重な人材を追放でもなく放出するなんて。


「人材不足以上に、去年からこの国は資源不足でね。人口が急増したのもあるんだけど。そしたら、彼女、立候補したよ。聖女の仕事が回らなくて困っているアーメルツの救援に行くことを。オーウェンがそれと引き換えに多額の支援を提案してくれてね」


「せ、聖女の仕事が回らなくなっている?」


「元々、エキドナ一人では増え続ける魔物の対処が手に余っていたんだよ。だから君を聖女にしたのに、ローエルシュタイン家が追放するから……」


 そ、そんな経緯があったんだ。司教様は何も仰らなかったから、知らなかった。

 それでも、“最強の聖女”をエキドナの助っ人に送るなんて。

 それはあまりにも過剰な援護じゃないかしら……。

 オーウェン殿下も婚約者であるエキドナのプライドを傷つけるようなこと、よく許可したわね。


「オーウェンはエキドナのことを疑っているんだ」


「疑っている?」


「つまり、君が“神託の杖”を壊したとエキドナがでっち上げたのではないか、と、疑っているのさ」


「ええーっ!?」


 あのエキドナをオーウェン殿下が疑っているって、本当に? だって、自分の婚約者なのよ。

 エキドナを糺弾すれば、どうなるのか分かって……。いや、だからこそ。


「ま、まさか。真相を暴かれるとエキドナが――」

「そう、オーウェンなら間もなく真実に辿り着くだろう。あの男はそういう男だし……。故にエキドナ・フォン・ローエルシュタインは聖女の地位を失う」


 何ということだろう。

 まさか、オーウェン殿下がエキドナのことを疑って真実を暴こうとしているなんて。

 

「で、ここからが本題なんだけど」


「えっと、本題? 今の話ではなくてですか?」


 あれ? それを言いにここに来たわけじゃないの?

 アークハルト殿下の本題って一体……。

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