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真相に迫る(オーウェン視点)

 本日は快晴なり。

 青空の下、町を歩いて聞き込みを続けています。

 そして皆さんの話を聞けば、聞くほどに私の疑問は深まるばかりでした。

 ルシリアさんは本当に“神託の杖”を壊したのか? それを全否定するアネッサさんという方と出会ったのも大きいのです。


「まさか、オーウェン殿下がルシリア様のことについて調べられているとは思いませんでした」


「本来、婚約者であるエキドナさんの言うことを信じなくてはならないんでしょうが。疑問に思うと納得するまで調べなくては気が済まない。これは私の悪癖です」


 悪癖なんでしょう。

 納得しなくては私の頭は何も許してくれません。

 嫌がられているのだと思います。何人か役人が私の不正の告発で辞めてしまっていますし。

 アーメルツ王家の鼻つまみ者。第二王子で良かったなどと言われてすらいます。


「ルシリア様は決して人に嫉妬して貶めるようなことはしない方です。誇り高いあの方は自らを高めることでしか、コンプレックスを解消される方法を知りませんでしたから」


「そうですね。私は彼女のことをよく知りませんが、それでも規格外の努力家ということは存じております。あの手のタイプは仰るとおり、杖を壊すようなことはしないでしょう」


 アネッサさんとは共に真相を究明することとなりました。

 理由は色々ありますけど、やはり心配なんですよね。彼女がルシリアさんの名誉を回復させたいと願っていることはご立派ですが、その行為自体はローエルシュタイン家に仇を為す行為ですから。

 

 万が一にも危険が及ぶなら私が助ける他にないでしょう。真実をもみ消される前に……。


「それにしても、ルシリアさんの姿を見たという方はいませんねぇ。夕方には教会に行かれたとのことですが。居場所、心当たりはありませんか?」


「ルシリア様の性格からして、この辺にいないとなると山で修行をしていたとか。そうなると目撃情報は絶望的になりますが……」


「ふむ。なるほど。山、ですか」


 ルシリアさんが本当に“神託の杖”を壊していないのならば、山で修行をしていたのだろうと推測するアネッサさん。

 別れる直前で、そこを聞いて欲しかったとも思いましたが、いきなりのことでしたし、何事も冷静に対処するのは難しいでしょう。

 

 とにかく、その山とやらには行くとして、その前にせっかくですから……。


「教会に行ってみませんか? 実家に帰る前に確かに立ち寄った場所ですし、何か手がかりがあるかもしれませんよ?」


「そうですね……! 教会でルシリア様が何か話していた可能性もありますね!」


「そのとおりです。私もそれに期待しています」


 教会に行くことを提案するとアネッサさんの顔は明るくなりました。

 ルシリアさんが無口な方でないなら、雑談くらいはしているはず。その雑談の中に彼女の足取りを掴めるヒントもあると思いますし、向かう価値は十分にあるかと思われます。



「ふむ。ルシリア殿がここに来る前に立ち寄った場所を知りたいとこちらに……。殿下の好奇心も相変わらずですなぁ」


「ゼルスタ司教も実際、気になっているでしょう? ルシリアさんの件の真相が」


 この教会のゼルスタ司教とは古くからの付き合いです。

 よって変装したくらいでは見た目を誤魔化せないので、最初から身分を明かしました。

 私の知りたがりの性格を困った顔をして聞いている彼ですが、せっかくの聖女を追放されたのです。ゼルスタ司教の方が私以上に納得していないに決まっています。


「気にならないとは言えませんな。ルシリア殿の能力、人格、共に問題無しと判断したのはこの私ですから。彼女が一日で追放されたとあらば、私の目は節穴ということになってしまう。それに――」


「それに?」


「いや、実はですな。エキドナ殿だけの力では手に余っておるんですよ。聖女としての務めを果たすには。無論、彼女は天才だし能力も高い。しかし、その能力は実に五年間変わっていないのです。急増した魔物の数に対して、これでは対応がしきれない」


 なるほど、やはりそういう側面もありましたか。

 婚約者であるエキドナさんは聖女としての務めを果たしていますが、その仕事量に変化は無さそうに見えていました。

 実際、彼女に最近は忙しいのかと聞くと、「特に変わりない」と答えていましたから、本当なのでしょう。

 

 ですが、魔物は急増しており兵士たちの出動回数はかなり増えています。

 もちろん、エキドナさんの身の安全が優先ですので、無理をさせるわけにはいかないと国全体で考えていたのでしょうが……。

 兵士たちの数にも限界がありますから、ゆくゆくは彼女の仕事もハードになる可能性は高い。

 

 だからこそ、ルシリアさんを新たな聖女にして、エキドナさんに無理を強いるような事態は避けようと教会は考えたのでしょう。

 その気遣いも徒労に終わってしまったのですが……。


「しかし、殿下。私は真実を解き明かすのは止めたほうが良いと忠告しますぞ」


「ほう、それはまたどうしてですか?」


「仮にルシリア殿が濡れ衣を着せられていたとしましょう。となれば、“神託の杖”を破壊し、その罪を着せた犯人はどう考えてもエキドナ殿になってしまいます」


「まぁ、そうなるでしょうね」


「そうなればエキドナ殿は罪に問われるのは必至。不足とはいえ、エキドナ殿の戦力は貴重です。それが無くなれば国家の損失は少なくありません」


 これは意外でした。

 てっきり、ルシリアさんの肩を持ってくれると思っていた司教はエキドナさんが罪を問われることに慎重みたいですね。

 彼の言うことも分かります。英雄として名高いエキドナさんを糺弾すれば国家としては大きな損失を生むことになる。

 それを避けたいと思うのは自然です。事実、エキドナさんの働きで守られた命は少なくないのですから。


「そんなこと知らないです! 罪を犯した聖女を野放しにして、無実の聖女を追放なんて不条理、栄誉あるアーメルツ教会が通すというのですか? ルシリア様が無実だとしても泣き寝入りするのが妥当とは私は思えません!」


 ここまでの話を黙って聞いていたアネッサさんがソファーから立ち上がり抗議します。

 彼女はルシリアさんのことを本当に慕っていたんですねぇ。

 司教の仰ることも分かります。分かりますが、それでも私は――。


「ゼルスタ司教、神に仕えるあなたらしくもない。エキドナさんがまだ罪を犯したと決まったわけではありませんが、もし、そうならばそれを隠蔽するのは神の御心に背く行為ではないのですか?」


「オーウェン殿下……」


「エキドナさんが罪を問われて国が荒れるのならば、私も国防に関しては何とかしようと尽力することを約束しましょう」


 ここで引き下がるのなら最初から何も調べたりしません。

 だから、私は司教に協力を要請しました。真実を知るために……。

 エキドナさん、あなたがもしも罪を犯しているのなら、それを隠したまま聖女として生きるのは辛いでしょう。

 

「やはり忠告は無駄でしたか。……とはいえ、ルシリアさんは北の山で修行をしていたと言っていましたし、アリバイを証明する心当たりがあるなら、彼女がそれを主張していたのではないですか?」


「かもしれませんね。ですが、足取りを知るということは決して無駄ではないのです。真相に辿り着くために、ね」


 司教すらエキドナさんが罪に問われることを恐れている。それだけ彼女の影響力は強い。

 骨が折れますが、杖が壊されたと思われる時間に北の山に居たという情報は大きな意味を持ちます。

 それを証明出来ればルシリアさんの冤罪を晴らすことが出来るのですから――。

 

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