溢れる想いを願いに乗せて
星の数ほどある作品の中から、この作品を選んでいただきありがとうございます!
短編は初めてですが、頑張って書きました。
不思議な関係であるこの2人の日常物語を是非お楽しみ下さい!
私の名前は光月乙羽。
地元の女子高に通う16歳。
「桜夜、もっとこっちにおいで!」
「……ぅん」
少しだけ寒そうにしているその子に向かって、私は自らの手を差し出した。
すると、私の手を小さくて白い手が触れる。
ほんのり冷たいその手をギュッと握り絞めて体を引き寄せると、なんの抵抗もなく私の胸の中に納まるかわいい女の子。
「よしよし、桜夜はかわいいなぁ」
「……」
この子は服部桜夜。
私と同じ高校に通う同い年の女の子。
身長は低くて顔も少し幼い。
他人が見ると、中学生くらいに見えてしまうかもしれない。
だから、よく姉妹に間違われることも多かったりする。
そんな私たちは、親友同士という間柄。
私の肩にちょこんと頬を乗せたその子は、暖かくなってくれたのか体の震えが止まった。
ふわりと香る甘くていい匂いと、この子の吐息が私の首筋に当たってゾクゾクとしてしまう。
このドキドキで鼻息が荒くなってしまいそうになるのを悟られないように、その子の頭をそっと撫でる。
「ふふふ、暖かい?」
「……ぅん」
本当はこの暖かい体温をもっと体で感じていたい。
この吐息が首にかかる感触をずっと肌で感じていたい。
サラサラに揺れるこの髪の毛をずっと触っていたい。
だけど、もう帰らないといけない時間だった。
今いるこの場所は、私たちが小学生の頃から通っている秘密の場所。
ここは地元民でもあまり知られていないような小さな海岸で、海岸と呼ぶにはとても小さく、周りを生い茂った木々に囲われている。
そこに、沖合へ向けて作られている岩の道があり、その先端には小さなベンチが1つだけポツンと鎮座している。
私たちは今、そのベンチに座っていた。
このベンチから見る景色は、自分たちがまるで海の上にいるかのような感覚を楽しむことができるというちょっとロマンチックなベンチなのだ。
しかし、この岩の道は夕刻になると海面が上昇して水没してしまう。
だから、そろそろ向こう岸まで戻っておく必要があるのだ。
そして、なによりそろそろお母さんが心配し始めるころだ。
私をじゃなくて、この桜夜のことを。
私と同じように、私のお母さんも桜夜のことが大好きだ。
正直、自分の娘である私よりも桜夜を可愛がっていると思う。
逆に私は桜夜のお母さんからとても可愛がられるという不思議な関係でもある。
私のお母さんと桜夜のお母さんも親友同士だからとても仲が良く、私たちは家族ぐるみの付き合いだ。
「桜夜、そろそろ帰ってご飯にしようか!」
ピクッ……。
「……ぅん」
ふふふ、喜んでる。
キャアキャア、可愛いいわぁ!
この子の顔はいつも無表情で感情を表に出すことはしない。
昔、そういう病気だと聞いた。
でも、私にはわかる。
この子が喜ぶ時も悲しむ時も、時には少し怒る時も少なからずその雰囲気が出ているから。
私はこの子が好き。
もう好きを通り越して、その気持ちは遥か彼方までいってしまっていると断言できる。
この子のためなら私は……。
手を繋ぎ、体を寄せ合ったままゆっくりと帰りの路地を歩いた。
この子は早くも歩けない。
出会った頃から体に重たい病気も抱えていたから。
そう、この子はこの体のせいで心も体もボロボロなのだ。
ただ体の病気の原因は、もしかするとあの時に起こった出来事が関係しているのかもしれないと私は思っている。
もしそうなら、この子がこんな体になったのも、心に傷を負ってしまったのも全て私のせいだということになる。
この子はその当時のことを忘れてしまっているようだけど……。
もし、それをこの子が知った時……まだ私と友達でいてくれるだろうか。
許してくれるだろうか。
それとも嫌いになられてしまうのだろうか……。
怖い……。
私はこの子に嫌われることが本当に怖い。
だから言えない……言いたくない。
私は卑怯者だ。
思わずぎゅと握っていた手に力が入ってしまった。
コトンと無表情のまま首を倒して、目線を合わせてくる桜夜。
「大丈夫だよ」
私は笑顔でそう言うと、その子をギュッと抱きしめて再び歩き出す。
「たっだいまぁ~!」
「…………ただい……ま」
「あら、2人ともおかえり~。桜夜ちゃん、今日は少し寒かったんじゃないの~? あらあら、こんなに頬っぺたが冷えて可哀想に。おばさんの手であっためてあげるわ」
「ちょっとやめてよ、お母さん! 私の桜夜に触らないで!」
「いいじゃないのよ、ケチね。2人とも、もうご飯できてるから早く手を洗って降りてらっしゃいね」
「はぁ~い!」
「……」
2階にある私の部屋へと入り、着ていた制服をパパッと脱ぐ。
そして、同じように服を脱いでいる最中の桜夜を手伝う。
ブレザーを脱ぎ、リボンを外したところで桜夜の背後から前に手を回してブラウスのボタンを開けていく。
これはいつもの流れだから桜夜は特に微動だにしない。
私は荒ぶる胸の鼓動と鼻息を押し殺し、平常心を装って服を脱がしていく。
できれば今すぐにでもこの奇麗な首筋に顔を埋めて思いっきり吸い込みたいとか思うし、シャツの間から無防備に見えるその胸元に手を突っ込んでみたいとか思っているけど必死にそれを我慢する。
いきなりそんなことをして嫌われたくはないし、この関係を絶対に崩したくはない。
どんなことがあっても私はずっとこの子のそばにいたいと願っているから。
「はい、ボタン取れたよ。私のパーカー着ててね!」
「……ぅん」
私の部屋のクローゼットには、桜夜の着替えの服を入れている衣装ケースを常備している。
このまま家に止まることも多い桜夜のためにお母さんが準備してくれたものだ。
その中にはお泊りができるように何着かの服が入っているんだけど、桜夜はなぜか私の服をよく着たがる。
だからお風呂の前とかはこうして私の服を貸してあげるようにしている。
ちょっぴりサイズが大きく見える私のパーカーに袖を通した桜夜は、小さく深呼吸をする。
体の弱い桜夜には、この服を着替えるという動作だけでも結構大変なことなのだ。
体を見ると細くて弱弱しくて、今にも崩れちゃいそうなほどに華奢なその体。
決して肉付きがいい体とは言えないけれど、でもしっかりと女の子の体をしている。
「ふふふ、やっぱり少し大きいね!」
「……でも……これが……いい」
ボソッとギリギリ聞き取れる音量でそんな可愛いことをいう桜夜。
私は嬉しくなり、思わずギュッと抱きしめた後、2人で手を洗って1階に降りた。
「遅いわよもう! 桜夜ちゃん、乙羽にエッチなことされてない? 大丈夫?」
「なっ?! なんもしてないよ! 失礼だな!」
「……」
「ちょっと桜夜ぁ! なんか言ってよぉお!」
「……」
こころなしか……桜夜の顔、赤い?
気のせい……かな?
「ささ、桜夜ちゃん早く食べてね! 今日の唐揚げ自信作なんだよぉ?」
「……ぃただき……ます」
「私もいっただきまぁ~す!」
う~ん!
口に入れた瞬間に弾ける肉汁。
その後に広がる塩の酸味と旨味。
本当に美味しいな、この唐揚げ。
自分のお母さんながら料理だけは本当に美味しいんだよね。
桜夜は……ってマジかぁ。
す~んごい勢いで食べてる。
パクパクパクパク、ゴクゴクゴク。
パクパクパクパクパクパク、ゴクゴクゴク。
パクパクパクパクパクパクパクパク、ゴクゴクゴク。
桜夜は、いつも食事だけは異常なほどによく食べる。
この小さな体のどこに入っていっていくのかなって本当に不思議に思うよ。
終始無表情で豪快かつ可憐で奇麗に食べきるその姿は、テレビのフードファイターも相手にならないと私は思う。
「ふふふ、桜夜ちゃん本当によく食べるわよねぇ。おばさん作り甲斐があってとっても嬉しいよ」
確かに今この目の前に並んでいる料理の量は、3人分の量では決してない。
私が10人いてもこの量を食べきれる自信がないほどだよ。
私のおなかがそろそろ悲鳴を上げそうになるころ、玄関のインターホンが鳴る。
「あらあら、また騒がしい子が帰ってきたわねぇ」
そう言いながらも、とても嬉しそうにピョンピョン跳ねながら玄関へと向かっていくお母さん。
「ハルカぁあああああああ! おなかすいたよぉおおおおお! つかれたよぉおおおおお! 私をいやしてぇえええええ!」
「あらあら、シズクったら。今日もよく頑張ったのね。えらいえらい。早く手を洗いなさいな。ご飯できているわよ」
「えへへへ! やったぁあああ!」
タッタッタッタ、と廊下をかけて洗面台へと向かおうとしているその人は桜夜のお母さんのシズクさん。
私はシズちゃんと呼んでいる。
「あ、オトちゃんにサクちゃん! ただいまぁあ!」
「えへへ、シズちゃんおかえり! 今日の唐揚げ美味しいよ?」
「うわぁ、本当に美味しそうだねぇ! 早く手を洗わなくっちゃ!」
再び洗面台へとかけていくシズちゃん。
「まったくいつも騒がしいわねぇ、あの子は。少しは桜夜ちゃんを見習ってほしいわ」
そう、シズちゃんはいつもこんな感じに明るくて騒がしい。
一緒にいると笑顔が絶えることがない。
そんなシズちゃんと桜夜が親子だなんて誰も信じられない事実だと思う。
桜夜のこんなはっちゃけた姿も見て見たくないこともないけど。
そんなことを思いながら隣で黙々とご飯を食べ続けている桜夜を眺める。
……なんか凄く幸せ。
ずっとこんな生活が続くといいなぁって本当に思う。
それからずっとシズちゃんが騒がしく喋り続け、最後は残り1つとなった唐揚げを巡って実の親子同士で本気のじゃんけんをしていた。
最終的にはじゃんけんに勝った桜夜が唐揚げを平らげて、シズちゃんが泣きべそをかきながらご飯の時間は終わる。
そのとても楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
「そろそろお風呂入っちゃいなさいな」
「はぁ~い……」
ちらっと桜夜の方を見てみる。
目が合って、またコテンと首を倒す桜夜。
一緒に入りたいなんて言ったら……嫌だろうなぁ。
「あらあら? うふふふ、サクちゃん、あなたもオトちゃんと一緒に入っちゃいなさいな! 私も後でハルカと入るからさ!」
「……へ?」
シズちゃんの言葉に私は思わずマヌケな声が出てしまった。
「ちょ……ちょっとぉ。なんでアンタはいつも一緒に入りたがるのよぉ」
「いいじゃん別にぃいい! それにほら、いざ一緒に入るとハルカの方が積極的に……」
「わぁ――わぁ――わぁ――! 娘たちの前でやめなさいよぉお!」
わわわわ、私と桜夜が一緒にお風呂?!
い、いい、いいいいの?!
ま、まぁ女の子同士なんだから、べべべ別に気にしなくてもいいじゃんね!
落ち着け……落ち着くのよ、私。
冷静に……冷静によ。
「桜夜、一緒入るぅ?」
命一杯の平常心を装いつつ、桜夜に聞いてみた。
「…………ぅん」
長い沈黙の後に小さく返事が聞こえた。
体全体でこの喜びを表現したい!
誰にも聞こえないなら全力で今の気持ちを叫びたい!
時間が止まるなら今すぐ桜夜に抱き着いて一生離れたくない!
その密かな思いを胸に止め、私は自然な笑顔で桜夜の手を引いてお風呂場に向かった。
やばいやばいやばいやばいやばいやばい!
めっちゃ緊張する!
制服を脱がすのとは全く違った緊張感。
だって、お風呂に入るってことは今着ているこの全てを全部脱がすってことだから。
今気を抜いてしまったら、間違いなく私の顔はドン引きされるくらいにヤバい状態になることだろう。
平常心。
平常心。
平常心。
頭の中をその言葉だけにして、煩悩を消し去る。
「ずっと一緒にいるけど、お風呂に入るのは初めてだね!」
「……ぅん」
「女の子同士でもちょっと緊張しちゃうもんだね」
「……ん……」
よし……ここは私がスパンと一気に脱いで、桜夜を脱がしてあげなきゃだね!
そう思って、一気に服を脱ぎにかかる。
「ちょっと、待っててね! すぐに脱いじゃうから!」
「……」
後は下着だけっと……うわぉ、すんごい見てるぅ。
桜夜ってば、さすがにそんなにガン見されると恥ずかしいよ?
平常心……平常心だよ私。
「桜夜もおいで、脱がしてあげるよぉ」
「っ?! ……ぅん」
一瞬だけビクッとしたような気がしたけど、私は顔が見られないように桜夜の背後へと回った。
そして桜夜が着ていた私のパーカーと同時にインナーをスポンと剥ぎ取り、制服のスカートと黒のハイソックスをスルリと落とす。
一瞬で私と同じ下着姿になる桜夜。
ここで止まってしまったら私は自分の欲望に耐えられないと思い、そのままブラのホックを外した。
「ぁ……」
小さく可愛い悲鳴を上げた桜夜は自身の胸を腕で隠す。
か、かわいすぎる……。
いけないいけない、平常心だった。
よし……ではいざ。
私は心を無にしたままで、桜夜が履いていた白い下着に手をかけてスルッと下まで降ろした。
「んッ……」
私の目の前には白くて小ぶりなかわいいお尻が現れる。
それを不覚にも視界に入れてしまった。
ぐはっ?!
だめ……破壊力が強すぎるよ。
とても平常心を保てない。
か、顔がにやけちゃう。
息が上がっちゃう。
「はず……かしぃ……ょ」
「あ、ごめんね。私もさっさと脱いじゃうから早く入ろうね」
危なかったぁ……まるで吸い寄せられるようにあの小ぶりなお尻に顔を突っ込ませるところだったよ……。
さすがにそんなことをしたらドン引きされる。
私は邪心を振り払い、自らも生まれたばかりの姿へとなる。
ちゃっかりとそれをガン見していた桜夜の手を引いて、浴室へと入る。
なるべく桜夜の体を見ないように注意しながらシャワーのお湯を温める。
「お湯、温まったよ! こっちにおい……ぐはっ?!」
「ぇ……?」
「な、なんでもないよ。さぁ、ちゃっちゃと洗っちゃおうね!」
「……ぅん」
あ、危なかったぁ……。
ついうっかりと鏡に映った無防備な桜夜を見てしまったよ。
破壊力が強すぎるって……本当に。
それから自分の邪心を振り払うために他愛のない話をしながら体を洗っていく。
といっても私が一方的にしゃべっているだけなのだけど。
「背中、洗ってあげるよ」
「……ぅん」
背中がとても洗いづらそうにしている感じがしたので、思わずそう言ってしまった。
断られるかと思ったのにすんなりとOKするんだから……。
後ろ向きだから平気だろうとか考えていた自分を思いっきりはたいてやりたい。
すべすべの白い肌に手を這わせていくと、桜夜のその無防備な状態に私の鼻息が最高潮に上がる。
こんなの……絶対自我を保てないよぉ。
「……ぃる……」
「へ?」
私がマヌケな声を上げる中、脱衣室の方を振り向かずに指さす桜夜。
確かにそこには2つの人影が動いている。
「お母さん、シズちゃん! なにやってるの!」
「あれぇ~?! なんでバレたのぉおお?! ハルカの鼻息が荒いからだよぉおお!」
「ち、違うわよ! 変なこと言わないでよね! 私は桜夜ちゃんが心配で……」
「早く出てって! もう最低っ! 2人とも変態っ!」
「せっかくいいところだったのに残念だよねぇ、ハルカ!」
「えぇ……はっ?! いや、違うわよ?! 私は桜夜ちゃんが……」
「はいはい、わかったからもう行きましょう。2人とも、ちゃ~んと隅々まで洗い合いなさいよぉ~」
そう言い残して騒がしい2人は出て行った。
シズちゃんの最後の言葉は……聞き間違いかな?
「まったく……なんで実の親たちにのぞき見されなきゃいけないのよ」
「……」
「あははは、早く洗ってお風呂浸かっちゃおうね!」
「……ぅん」
まぁ正直助かったかもしれない。
あのままだったら私は自分の欲望を抑えることができなかったと思うから。
それにしても本当に私って桜夜が好きなんだなぁ。
こんな感情になってしまうなんて改めて自分の想いを再確認してしまうよ。
そんなことを思いながら私は桜夜の綺麗なすべすべの背中を流していく。
そしてお風呂に2人で浸かる。
「ふぅ~気持ちいねぇ」
「ぅん」
「狭くない? もう少しこっちきていいよ?」
「……ぃぃ」
お互いに向い合せはさすがに恥ずかしかったから後ろ向き同士、背中をくっ付けた状態で湯舟に浸かっていた。
なんかお風呂のお湯より背中で感じる桜夜の体温の方が温かく感じてしまうよ。
でもせっかく一緒に入っているというのに、背中合わせっていうのも少し寂しいかも。
私は気が付かれないように、ちゃっかり体の向きを変えようかと企んでいると、背中に感じていた感触が変わった。
こ……ここここここ、この柔らかい2つの感触は?!
あれなの?!
まさかあれなの?!
「さ、さささ桜夜?!」
「……この……まま……」
いつの間にか桜夜は私の背中を後ろから抱くように前を向いていた。
私のおなかに小さくて白い腕が回され、小さくて細い足がぴょこッと投げ出されている。
せせせ、背中にとても柔らかい感触がぁああああああ?!
幸せすぎるぅうううううう!
もうダメ、限界。
顔がヤバい状態なのはもう無視。
この幸せな感触を少しでも長く、ずっと感じていたい。
「……乙羽……ぁりがと」
少しだけギュッと腕の力を強め、そう口にする桜夜。
桜夜は小学生の頃に、体と心の病気が原因でイジメを受けていたことがある。
桜夜と初めてあったあの日からなんとか私が数年後に見つけ出した時には、本当に酷い状態だった。
あの頃の可愛かった笑顔はなく、全身の服がビショビショに濡らされて公衆トイレの匂いを放ち、鞄や制服、ノートなどにはぎっしりと悪口が書かれ、私を見るその目には光が宿っていなかった。
その日、私は誓った。
なにがあっても、どんなことがあってもこの子の力になると。
絶対にこの子から離れないと。
それが私にできる唯一の恩返しだと思ったから。
だから私は必死に自分を磨いた。
誰が見ても魅力的に見えるように着飾って、オシャレをして、流行りのものを取り入れて、嫌だけど誰とでも仲良くしまくって、とりあえず愛想だけを振りまいていた。
全ては私がこの子を守るための盾になりたかったから。
一応その努力は実り、中学校から同じ学校に通い出してからは桜夜へのイジメは全くなかった。
こんな私でもこの子の力になれたんだと、その時は私も嬉しかった。
しかし、後で分かったことだけど桜夜の体の病気が発症したのは、私と桜夜が初めて出会うことになった、あの出来事のすぐあとだったそうだ。
その病気のせいで、桜夜は感情が認知できないという心の病気までも負ってしまっていることを知った。
もしかしたら私のせいかもしれない。
ううん、きっと私のせいなんだろう。
おまえのせいで、この子は不幸になったと自分自身に何度もそう言われる。
自分でそう思わずにはいられなかった。
だから私なんかにお礼を言わないでほしい……。
あなたに嫌われてしまうことが怖くて、その事実を伝えられない卑怯な私に感謝しないでほしい。
優しいあなたに比べたら私は卑怯で醜い生き物なのよ。
「なに言ってるのよ! 私たちはずっと一緒だったじゃん。これからもずっと一緒でしょ?」
溢れそうになる涙を我慢したまま、自分のおなかに回されていた桜夜の細い手に、自らの手をそっと添えてそう口にした。
私は卑怯だ……。
「……ぅん」
それなのに、桜夜はいつもより少しだけ大きめの声で返事をしてくれた。
桜夜も私のことを大切に想ってくれている。
その想いは日頃からちゃんと伝わってくる。
その想いが本当に嬉しくも、自分の醜さで悲しくもなる。
私は本当にこの子と一緒にいてもいいのだろうか。
私は本当にこの子を好きでいてもいいのだろうか。
ううん、私はそうしていたい。
ずっと好きでいさせてほしい。
ずっと一緒にいさせてほしい。
でも、たとえ私がどれだけこの子を想っていても女の子同士である以上、それ以上は認められない。
どれだけ好きで愛していたとしても、それは絶対に認められることはないのだ。
それでも私は……桜夜が好き、大好き。
この想いだけは、紛れもない事実だから。
届かなくてもいい、気が付かなくてもいい。
もし、この想いが一方通行だったとしてもそれでいい。
ただただ、あなたのそばに……私を置いてください。
私は気が付いたら桜夜を引き寄せて正面から抱きしめていた。
思わず想いが溢れてしまい、ギュ――ッと力が入ってしまった。
「おと……は……ちょっと……くるしい……よ」
「はっ! ご、ごめんね! 痛かった?!」
「だい……じょうぶ……だよ」
そう口にした桜夜はいつもの無表情とは違い、少しだけ微笑んでいるような気がした。
かわいい……かわいい……かわいい……はっ?!
やばいやばいやばい、これはモロに感触が?!
今になって自分がとんでもないことをやらかしていることに気が付いた。
桜夜は私の体に寝そべるような形でお風呂に浸かっている。
私の視界には桜夜の体のラインからかわいいお尻まではっきりと見えてしまっているのだ。
視界だけでも破壊力抜群なのに、この体全体に感じる柔らかい体の感触が私の欲望を爆発させてしまい……大量の鼻血として噴出した。
「っ?! ……乙羽。血が……」
「ふぇえええええ?!」
私たちは慌ててお風呂から上がり、シャワーで鼻血を洗い流す。
幸いにもお風呂の中に、血は入らなかったようだ。
「あ、あははは。ごめんね、ちょっとのぼせちゃったみたい!」
「……ぅん」
「もう止まったみたいだから上がろうか!」
「……」
私の顔を覗き込むように見てくる桜夜。
そんなに鼻の穴ばかり見ないでほしい……本当に恥ずかしいから。
それに……ぐはっ?!
多分、本人気が付いていないようだけど、自分も前を隠すことを忘れている。
ずっと自分の腕で隠していた、その小さくとも形のいい美乳を惜しみもなく私に披露してしまっている。
「まだ……少し……出てる」
「あ、あはは。なかなか止まんないなぁ」
それが自分のせいだとは気が付いていないので、私は必死に煩悩を消し去る。
再び鼻血をシャワーで洗い流した後に、私たちはお風呂を上がった。
リビングに戻ると、ニヤニヤしまくりのシズちゃんと、若干頬を赤らめたお母さんがこちらを見る。
「んふふふふ。そかそかぁ! いいお風呂だったみたいだねぇ! なにしたの?! ちゃんと洗いっこした?! 大事なところもちゃんと洗った?!」
「ちょ、ちょっとシズク! 聞きすぎよ!」
「な、何もしてません! ……でも、よかったよ」
「……ぅん」
私たちの言葉に満面の笑みを見せる2人。
自分たちの親ではあるんだけど……これでいいのかな? 母親って。
その後、ギャアギャア騒ぎながら親たちは2人でお風呂に入っていった。
もう時間も遅くなったことで桜夜たちのお泊りが決まった。
まぁ泊っていくことの方が多いから、このまま桜夜とシズちゃんもこの家に住んだらいいのにとか本当に思ってしまう。
濡れていた髪を乾かした後、お酒を飲み合っていたお母さんとシズちゃんにおやすみを言って2階へと上がった。
2階の洗面で歯を磨いた後は、自分の部屋へと戻る。
私のベッドはダブルサイズだから結構余裕がある。
おかげで部屋は狭いけど、部屋にいる時は机に座っているかベッドで横になっているくらいしかないから別に構わない。
というよりも桜夜が泊まる時に、ベッドと床で分かれて寝るという選択肢を真っ向からなくしたかっただけ。
ただただ、それだけ。
え?
その考えやっぱちょっとキモい?
そんなの私は知らない。
だってこんなに好きな子の寝顔をずっと間近で見ていられるんだよ?!
そりゃあ意地でも一緒に寝たいでしょ。
でもこの子ったら一緒の布団に入ったらすぐこうやって抱き着いてきちゃうのよね。
もちろん死ぬほど嬉しいんだけど、もっとこの可愛い顔をよく見せてほしいの。
だから寝息が聞こえてくるまではこのまま。
桜夜の吐息が胸に当たってすごくゾクゾクする。
もう少し……もう少し。
「すぅ……すぅ……すぅ……」
今日は比較的早く眠りについたみたい。
息が苦しくないように、優しくコロンとお向けにしてあげる。
少し幼くも妖艶な顔立ち。
プニプニなほっぺ。
プルプルの唇。
か、かわいいわぁ……とてもかわいい!
この瞬間が一番幸せを感じてしまう。
私にもあまり顔を見せてくれないのよね。
せっかくかわいい顔しているのに本当にもったいないと思う。
こんな私でもかわいいって言ってくれる人は多いけど、実は桜夜の方が断然かわいいからね。
「すぅ……すぅ……すぅ……」
とても小さく聞こえる寝息とともに、小さく胸が上下に揺れる。
これを見るとちゃんとこの子は生きているって安心する。
あの時は本当にもうダメかと……。
……ちょっとだけなら、いいかな?
私は恐る恐る桜夜のおなかに手を置いた。
呼吸に合わせて一定リズムで上限に動いている。
起きる気配はない。
プニプニしていて柔らかいおなかから、ちょっとずつ手の位置を上げていく。
ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ欲望のままに……。
私はすっと桜夜の控えめな膨らみに自身の耳を押し付ける。
桜夜は寝る時に下着を付けていない。
だからパジャマ越しでも、その柔らかさと張りのある弾力を感じることができる。
そして私の耳にはしっかりと桜夜の心臓の鼓動が届いている。
耳が幸せすぎるぅ。
思わず頬をスリスリしていると、ふいに私の頬がなにかの突起物を捉えてしまう。
「んぁ……」
私の頬がそれに触れたと同時に桜夜の口から甘い吐息が漏れた。
ビックリして思わず飛び退いてしまった。
このままじゃ、いけない一線を越えてしまう。
私は自分自身を制御できる自信が全くない。
今私の顔はかなりヤバい状態だろう……顔、洗ってこよう。
そう思ってベッドから降りようとしたところで、手を引かれる。
「ふぇ?! さ、桜夜?! お、起きてたの?」
「……」
「あ、あれ? お――い? 桜夜? ひゃん?!」
な、な……なぁあああああ?!
こ、こここれは……唇?!
桜夜の唇が私の唇に?!
「んっ?! はぁ……ちょっと桜夜……そこは……あっ」
再び口づけで会話を遮られる。
いや、泣くほど嬉しいけれど!
これは一体どういうことなの?!
目が……開いてない……まさか、寝ぼけてるの?
今までキスは経験したことがないし、実は誰とも付き合ったことがない。
一応結構モテる方だったから、今までたくさんの告白をされてきたけど、その全てを断ってきたのだ。
全てはこの目の前にいるこの子以外に考えられる人がいなかったから。
その一番好きな人にいろいろな初めてを奪われていく。
本人は意識がないようだけど……嬉しくてたまらない。
涙が止まらない。
今だけは……せめて今だけは、このままで……。
その夜、私たち2人は友情の彼方まで行ってしまった。
それは甘くとろけるように混じり合いながら、遠い遠い遥か彼方の向こうまで……この溢れる想いを願いに乗せて。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
いろいろと謎を残したまま終わらせてしまいましたが、それらは全て現在連載中の拙作で明かされます。
続きが気になって下さっている方は、そちらも読んでもらえると嬉しいです!
最後になりますが、もしよろしければブクマや評価をしていただけると嬉しいです!