3話 空から見た、メリークリスマス
「うぅ〜っ、今日、めっちゃ楽しみ! ねえおかーさん、サンタさんにお手紙、届けたよねっ?」
お母さんは、(またこの話か…)と思いながら「ええ」とうなずき、コーンスープを飲んでから、付け足しました。
「もちろんよ。今日は“聖夜祭“だものね。どんな服で行く?」
「おかーさんが考えて!」
そして鈴は、バターを塗った、パンにかぶりつきました。
お母さんは、それを呆れ顔で見つめ、うなずきました。
「わかったわ。とびきりおしゃれなのにしてあげる。そうそう花奈ちゃんも、おしゃれしてくるみたいよ。花奈ちゃんとこの、お母さんが自慢げに話していたわ」
「ふうん?」
鈴は興味なさそうに返しました。実のところ、鈴はおしゃれなどに興味はありませんでした。花奈もそうでしたが、花奈のお母さんが好きなので、おしゃれはします。
「わたし、それよりもぶどーじゅうす飲みたい」
そしてそう付け足します。
ぶどうジュースとは、聖夜祭で出される、子ども用の温かいジュースです。ちなみに大人用は、ホットワインです。
鈴は、ジュースの甘い味を思い出し、「うへへ」と、変な声をもらします。
そして、心の中で、こうつぶやきました。
(まあ今日は、もっと楽しいこと、あるけどねっ!)
__聖夜祭。
「おーい、すずちゃーんっ!」
そう言い、鈴に手を振った、花奈の今日の服は、赤いセーターに白いひらひらのスカート。ピンクの毛糸で出来た帽子と手袋とマフラーには、赤い、小さなリボンがついています。
「あっ、はなちゃんっ!」
そう言って、手を振り返す鈴は、青いデニムパンツに灰色のコート。お母さん的には、もっとおしゃれしたかったのですが、予算があまりなく、やむなくこの地味コーデに。唯一の“可愛い“は、レースのついた、薄いピンク色のマフラーくらいです。
「あら、花奈ちゃん。今日のお洋服は、可愛いわねえ」
お母さんが、ニコニコしながら、言いました。
「うんっ!」
花奈がニッコリして、うなずきます。
「ねえおかーさん。わたし、それよりも、じゅうす飲みたーい!」
鈴が、お母さんのスカートの裾をひき、いいました。
「え? …ああ、そうね。花奈ちゃんも、飲む? おばちゃん、買ってくるけど」
花奈は、首を横に振りました。
花奈のお母さんが、お財布を取り出し、代わりに、答えます。
「いえいえそんな。自分で買ってきますわ。花奈、お留守番できる?」
花奈は、今度は、首をたてに振りました。
「すずちゃんも、いっしょに…」
「ああ、そうねえ…構わないかしら?」
花奈のお母さんが鈴のお母さんを見つめ、聞きました。
「ええ、構いませんよ。うちの子は、ちゃんと! しつけていますから」
鈴のお母さんは、当然とばかりにうなずきます。
「そうですか。なら、花奈。いい子にしてるのよ?」
「うん、わかった」
そして、花奈と鈴のお母さんは、ぶどうジュースの屋台に向けて、歩いて行きました。
その二人の娘、花奈と鈴は、それを見つめ、にんまりと笑い合いました。
「ナイス、はなちゃん。すごいね、えんぎうまい」
「えへへ。家でね、結構練習したの」
そんな二人のやりとりも、ガヤガヤしている祭りの中では、誰にも聞こえません。
「じゃ、行こっか」
「うん、いつもどってくるか、わかんないもんね」
二人は手をつなぎ、顔を見合わせ、笑い合いました。
そして、元気よくスキップしながら、花奈の家に向かいました。
「どこにも、いない…」
「ね、いなーいっ!」
二人は、花奈の家の裏の森の中で、サンタさんをさがしていました。
「おかしいなあ…おばあさまがいるって言ったから、絶対いると思ったのにー」
「うんうん。おばあちゃんが言うこと、ぜえんぶ、当たってるもんね!」
枯れ木の向こうには、もう聖夜祭の様子は見られません。それどころか、祭りの音すらも、聞こえなくなってきました。
ザクッ… ザクッ…
二人の足音だけが、森の中にひびいていました。
「うぅ〜、寒いなあ。ねえすずちゃん、もう帰ろ?」
しかし鈴は、「ううん」と首をふりました。
「あと、もうすこし、さがそ。あと…そうだなあ、10分! 10分さがしたら、帰る! それでいいでしょ?」
花奈は「う〜ん…」とうなり、やがて、うなずきました。
「わかった、あと10分ね」
___10分後。
「あ、あの、すずちゃん? 10分、たったよ?」
「…あともう少し」
鈴はそう言って前に進みました。花奈は顔をしかめさせます。
「で、でもほら、空も暗くなったし。サンタさんもいないし。___何より、村にとても遠くなったわ」
「それが?」
「それがって…だから」
鈴はこりることなく、前に進みました。花奈はあわてたように言いました。
「だから、おそくなったら困るってこと! わたし、『語り』になるにが夢だけど、まだその途中だし。だからね、この森の道も、あまり知らないの」
「へえきだよ。あしあと、たどればいいもん」
「平気じゃないよ! ほら、見てっ!」
花奈はそう言って、鈴に後ろを向かせました。鈴はおどろきのあまり、息を飲みます。
二人の小さな足跡が、なくなっていたのです。
「な、んで…?」
鈴はびっくりして、そう言いました。
「簡単なことよ。わたし達の足跡の上に、新しい雪がのったの。だからね、足跡が消えちゃったのよ」
「そんなこと、あるの…?」
花奈は当たり前だと言わんばかりにうなずきました。
「ええ、あるわ」
「…」
鈴は恐怖のあまり、うつむきました。そんなこと、考えてもいなかったのです。
___その時でした。
「ジングルベール、ジングルベール、鈴が鳴るっ♪」
二人の耳の中に、聞き馴染みのある、歌が聞こえてきました。クリスマスの歌です!
でも、歌っている人の声は知りませんでした。でも、まるで小さな鈴を転がしたように、可愛らしく、綺麗な声です。
二人は声がした方の枯れ木の間をのぞきました。そこに村があると思ったからです。でも、村はありませんでした。しかし、そこには赤鼻のトナカイ二頭と木製のソリ一つ。そして…___
「わぁ…!」
赤と白の服を着た、女の子が一人いました。その姿があまりにもサンタさんに似ていたので、鈴は思わず声を出しました。
「サンタさんだっ!」
「ええっ、サンタさん…なの、かしらあの子?」
そんな花奈の声を聞いて、鈴は(確かに)とうなずきます。なんていったって、その子は、白い髭がありませんし、髪も、白髪ではなく金髪です。
「サンタさんじゃ、ないかも…」
では、なぜ彼女はここにいるのでしょうか? 鈴はそう思い、その女の子に声をかけました。
「ね、ねえ…!」
金髪の女の子はゆっくり振り返ります。
「…?」
「あなたは、サンタさんなの?」
その子はびっくりしたように目を見開き、それから慌ただしくメモを取り出しました。
「ふうむ。鈴ちゃんはクマのお人形、花奈ちゃんは新しい本、ねえ…」
その子は何やらそうつぶやき、二人に(正しくは、鈴に右手。花奈に左手)を差し出し、天使のようにほほえみました。
「わたしはフラワーベル。よろしくね」
フラワーベル? どこかで聞いたことある名前です。でも鈴は、その名前が誰なのか、思い出せませんでした。しかし、花奈は覚えていたようです。
「フラワーベルって…! やっぱりあなたはサンタさんなのね!」
そして、興奮したように左手を掴みました。
(フラワーベル…サンタさん…う〜ん…)
鈴は必死に考えます。
(あっ!)
そして思い出しました。フラワーベルは、おばあちゃんが言っていた、この村のサンタさんのことです。
「あれ? 二人とも知ってる感じなのかな? まあ構わないけどね。それよりも、帰り道がわからないんでしょう?」
「「…」」
二人は揃ってうつむきました。まさにその通りだったからです。
フラワーベルは「はぁ」とため息をつきました。
「仕方ないなあ。じゃあ特別に、村に返してあげます。でもプレゼントの保証はないですからね」
「「ゔっ…」」
((プレゼント、ないのかあ…))
二人は同時に、心の中でため息をつきました。
フラワーベルはにんまりと笑いました。まるで二人の心を読んだかのようです。
「でもね、プレゼントよりもっと楽しいこと、してあげる」
「「えっ?」」
プレゼントより楽しいことってなんだろう? 二人はわくわくしてきました。
「夢の世界へようこそっ!」
フラワーベルは、そう言いながら手を広げました。
「いえぇーいっ!」
月灯りの下、フラワーベルはそう叫びました。
鈴と花奈の二人は、恐怖のあまり声が出ません。
なんていったって、今3人は、青い空の上だからです!
サンタさんのソリは、なんて乗り心地が悪いのでしょうか? 都会にある、ジェットコースターより凄そうです。ジェットコースターに乗り慣れている若者も、これに乗ったら泣いてしまうのではないでしょうか?
でも、サンタさんのソリも、慣れてしまうと楽しいものです。空から見えた聖夜祭は、キラキラしていて、とても綺麗でした。
鈴と花奈は思わず叫びます。
「メリークリスマス!」
そのとき、
「すずぅ______っ!」
「はな_________っ!」
今、下にある村からそんな大声が聞こえてきました。
「おかーさん…?」
「お母さま…?」
二人はその声に目を丸くします。
「すごいわ、お母さま…。あんな大きな声も出せるのね…」
「ほんとすごいはくりょく…! あやまらなくちゃ」
そんな二人に、フラワーベルはこう言いました。
「良かったわね、二人とも。さがしてくれる親がいて…でもまあ、これで探さないのは、親でもなんでもないわね」
フラワーベルは村を見て、こう付け足しました。
「もう戻った方がいいわね。どう? 空の旅は楽しかったかしら?」
二人は顔を見合わせ、同時にうなずきました。
「「うんっ!」」
(…ん、あれ、わたしのへや…?)
鈴は気づいた時には自分の部屋に中に戻っていました。
ふかふかの布団が、気持ちいいです。
「サンタさんは…?」
鈴は、部屋の中をきょろきょろと見渡し、首を傾げました。
(いないなあ…。夢だったのかなあ?)
でも、サンタさんといた頃の記憶は残っています。
(夢じゃなかったのかなあ?)
「…まあいいや。ねよう」
しばらくすると、鈴の部屋の中から寝息が聞こえてきました。
(あら? ここはわたしの部屋…?)
そのとき、花奈も自分の屋根裏部屋に戻っていました。
「おかしいわね。確かにサンタさんと会ったのだけれど…」
花奈は首を傾げます。
「まあ、いいわ。寝ることにしましょう。すずちゃんとも明日、話がしたいし…」
そして、うなずきます。
もふもふのベッドに潜り込んで、一言。
「おやすみなさぁい…」
しばらくすると、花奈の屋根裏部屋の中から寝息が聞こえてきました。
「ふふふっ」
その様子を、この村のサンタさん・フラワーベルは嬉しそうにほほえみました。
「もう、仕方ないなあ」
そして、鈴のふかふかの布団、花奈のもふもふのベッドに、それぞれプレゼントが置かれました。
「今夜は特別ですからね____あはは、二人の喜ぶ顔が目に浮かぶなあ」
その笑顔が見れるまであともう少し…。
皆さんも、鈴や花奈よりいい子にしていたら、プレゼントがもらえるかもしれませんよ?
《おわり》
はい、「サンタさんをさがしにいかない?」は、どうでしたか? 実はこの作品、私から見れば、初めて完結できた作品です。無事に完結できて、良かったです。というかむしろ、この作品は1話完結予定で書いていました。がしかし、思ったより想像はふくらみ、全3話にもなってしまいました。努力はしたんですけどね、1話に収まりませんでした。それでも、完結できた方が私にとっては嬉しいです。もちろん、1話完結にしたかったですが、それはそれで、仕方ないと思います。私は性格上、設定がごちゃごちゃした方が好きなのですから。
あと、サブタイトルも苦労しました。なんせ私は、ネーミングセンスが0に等しいのですから。キャラクターネームくらいはいいんですけどね、いやそれでも男の子は厳しかったり、異世界系の名前もややこしかったりするのですが、サブタイトルよりはマシだと思うんです。どこかの国の名前も、サブタイトルと同じくらい、難しいです。だからか、この小説の中の村の名前は書きませんでした。
それでは、こんなネーミングセンスの欠片もない作者ですが、次回作にも期待してください!
(ちなみに現在の小説は、「おとぎの国 〜光の巫女編〜」、「願い事が叶う池」などがあります。興味があったら是非! 読んでください!)