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2話 甘い香りの昼

「おかーさん! これをね、出してほしいの!」


 次の日の朝、鈴はさっそくお母さんに手紙を見せました。


「あら鈴。どうして?」


 お母さんは、鈴にそう聞きました。鈴は正直に答えます。しかし、


「うん、とね、サンタさんにね、…あ、きのうの夜になんだけどね、お手紙かいたの。それをおかーさんに届けて欲しくてね…」


 口がうまく動かず、思ったことがあまりよく言えません。

 それを見て、お母さんはやさしくうなずき、手紙を受け取りました。


「わかったわ。お母さんが、届けておくわね」

  

 それを聞いて、鈴は「うん!」とうなずきました。


 お母さんは、ダイニングテーブルに、食器をならべながら鈴に言います。


「そういえば今日ね、花奈はなちゃんが3時に家に遊びにきて、だって。行く?」


 花奈ちゃんとは、この村の村長の一人娘で、とても可愛らしい子です。そして、鈴の幼なじみでした。


 鈴はニコッと笑い、うなずきました。


「うん、行く!」









 2時45分になりました。花奈の家までは、だいたい15分かかるので、この時間の出るのが一番です。


 鈴は、鏡の前で最後のチェックをし、お母さんにニッコリほほえみかけました。


「おかーさん、はやく行こ!」


「そうね、はやく行きましょう」


 鈴とお母さんは、外に出て、車に乗り込みました。


 車で花奈の家に行く途中、鈴はふと、思ったことをお母さんに聞きました。


「ねえねえおかーさん、サンタさんは、どこから来るの?」


 お母さんは少し考え、答えました。


「花奈ちゃんのおうちの裏に、森があるでしょう? あそこは立ち入り禁止なんだけどね、サンタさんは、あそこから来るの」


「そーなんだ。なんで?」


 お母さんは、少し笑って答えました。


「そうね、なんでなのかしら。もしかしたら『語り』のおばあちゃんなら知ってるかもよ。ほら、花奈ちゃんとこの」


 『語り』とは、先祖代々受け継がれている、村の歴史を知り、それを話し、ずっと残す人のことです。実は花奈も、『語り』になろうと、おばあちゃんからこの村の歴史について、よく聞いていました。そのついでに、鈴も。


 鈴は『語り』のおばあちゃんが大好きでした。なんていったって、とても甘い、お茶菓子をくれます。鈴はそのお茶菓子…特にようかんが好きでした。

 いっしょにいただく抹茶は、苦手でしたけれど。


 鈴は、甘いようかんの味を思い出しながら、答えました。


「う〜ん、聞いてみる」


「うん、聞いてみて。___あ、着いたわよ」


 車は、他の家よりもひとまわり大きい、立派な家に泊まりました。裏には、枯れ木が続く、森が見えます。


チリンチリーン


 鈴は、ドアベルを鳴らしました。

 ドタバタと音が鳴り、あわてた様子の花奈が飛び出します。


 花奈は今日、澄んだ空色の丸襟付きワンピースの上に、白いエプロンをつけていました。すそは青と白のギンガムチェック。頭には、同じ柄の三角巾をつけています。


「いらっしゃい、すずちゃん! 待っていたわ。さあさあ入って」


 そして、鈴を家に招きます。

 家の中は、暖炉ですっかり温まっていました。

 ホットケーキの甘いにおいがします。


「おかーさん、“手紙“、よろしくね」


 鈴は、車に乗ろうとするお母さんにそう声をかけました。お母さんは、「ええ」とうなずき、車に乗り込んでゆきます。


 花奈は、玄関で雪を落とす鈴を不思議そうに見ました。


「手紙って、なんの?」


「ひみつ。でも、__そうね、後でおしえてあげるわ」


 鈴が、お母さんの真似をしながら答えます。

 花奈は、その様子に笑いながら、鈴の手を引きました。

 そして、ダイニングテーブルのイスに座らせると、ホットケーキを持ってきました。バターが塗ってあって、ハチミツがかかっています。

 そこに、花奈のお母さんは、温かいお茶を持ってきました。

 鈴はそれをひと口飲み、花奈のお母さんに、「こんにちは」と声をかけました。


「うん、こんにちは、鈴ちゃん。お母さん…じゃなくて、おばあちゃんも会いたがってたのよ」


「そーなんだ。今度会いに行く」と鈴。


「…そのホットケーキね、わたしが作ったの。おいしい?」と花奈。


 鈴は、すぐさま「いただきます」と手を合わせ、ホットケーキを口に運びました。


「ん、おいしいっ!」


「ほんとっ!? よかったぁ、ちょっとね、心配だったの。よかった、おいしくて!」


 花奈は、うれしそうに笑いました。







 ホットケーキが食べ終わり、鈴は、花奈の部屋で遊び始めました。

 花奈の部屋は、屋根裏部屋で、鈴の部屋より少し大きいです。


 花奈は、鈴にこうたずねました。


「ねぇすずちゃん。手紙って、なんのことだったの?」


「うん? ああえっとね、あれはね__はなちゃんとこにも、サンタさんからお手紙、届いたでしょ?」


「うん、届いたけど…」


 花奈は、本棚から、適当な本を取り出し、答えました。

 鈴はそのまま続けます。


「そのお手紙にね、お返事をかいたの。とっても楽しかったよ。プレゼントはクマのお人形がほしいです、とかね、かいたの」


「へえ、楽しそう! __ていうか、クマのお人形がほしいんだねぇ。わたしはね、新しい本がほしいなあ」


 鈴は、「はなちゃんっぽい!」と言って笑いました。

 そして、新しく仕入れた情報を花奈に話し始めました。


「ねえはなちゃん、知ってる? サンタさんはね、はなちゃんのおうちの裏の森から来るんだって〜!」


「へえ〜、なんでぇ?」


 鈴は、お母さんに言われたことをそのまま言いました。


「そうね、なんでなのかしら。もしかしたら『語り』のおばあちゃんなら知ってるかもよ。ほら、はなちゃんとこの」


 花奈は「ふふっ」と笑って、言いました。


「うん、確かに。おばあさまなら知ってそう! 今日は、部屋で休んでいたはずだけど、行ってみる?」


「うん!」と、鈴は元気よくうなずきました。







「おやまあ鈴。久しぶりだねえ」


「うん、ひさしぶり、おばあちゃん!」


 鈴は、『語り』のおばあちゃんに、そう元気に言いました。


「今日はどうしたんだい?」


 そう言いながらおばあちゃんは、大福がふたつ乗っている皿を、鈴と花奈の目の前に置きました。

 鈴は、そこから大福をひとつ取って、言いました。


「ここの家の裏の森から、サンタさんが来るって、ほんと?」


 おばあちゃんは、大福を食べる鈴を見ながら、大きくうなずきます。


「ああ、本当さ。ここのサンタの名前は確か…フラワーベルだったじゃないかねぇ」


「フラワーベル? サンタさんじゃないの? ___て、わぁ! いちご大福だっ!」


 おばあちゃんは、ニヤリと笑って、言います。


「冬のいちごは高いんだぞ。味わって食え」


「「はぁい」」

と、ふたりは答え、大福を口にふくみ、もぐもぐと口を動かします。


「それはそうと、鈴」


 おばあちゃんはそこでくぎり、続けます。


「なんでそんなこと知っているのかい?」


 鈴は、いちご大福を飲み込み、答えました。


「うんとね、おかーさんからね、教えてもらったの」


「そうかい、そうかい」

と、おばあちゃんは納得したようにうなずき、緑の液体が入った、湯呑みを二人に出します。


「さあさあ、これも飲みなさい。健康にいいぞ」


 鈴は、その液体のにが〜いにおいをかぎ、「ごめんなさいっ!」と言いながら立ち上がります。


「もう、おなかいっぱいなのっ」


 そういうや否や、鈴は花奈の手を取り、おばあちゃんの部屋から逃げるように出ました。


 あの緑色の液体__あれは抹茶です。鈴が嫌いな、抹茶です。花奈はそれほどでもなかったですが、「好き」といえば嘘になります。少し苦手です。




「ハアハア…っ」


 ハシゴを登り終わり、鈴は深呼吸で気持ちを落ち着かせました。花奈は、ベッドの上にあるクッションにうずくまります。


「もう、すずちゃんったら」


 ふいに、花奈がそう言いました。一回、深呼吸して、続けます。


「抹茶くらいで、あんなに逃げることないでしょ。抹茶もさ__まあ、あんまり好きな味じゃないけど__、頑張れば、苦くないよ?」


「頑張れないのっ!」


 鈴は、すぐさま反論します。


「それよりも、」と、鈴は話をそらすために、口を開きました。


“サンタさんは、はなちゃんのおうちの裏の森から来る“

 話題にするならこれが良さそうです。

 

 鈴はすぐさま口を開きました。


「ねえ、もしさ、さっき言ってたことがほんとなら…__」


「…? ほんとなら、なに?」


 鈴は花奈の耳にそっと近づき、ささやきました。




「“せーやさい“の日、サンタさんをさがしにいかない?」








《つづく》


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