第7話「カレピス原液一気飲巻」
その時じゃ。
シロがぬかしおったのじゃ。
「ポンちゃん、本官はスリーフィンガーがいいでありますっ!」
「す、すりーふぃんがー!」
わらわとポン、びっくりなのじゃ。
ふう、今回もわらわが主役なのじゃ。
しかしのう……わらわ、思うのじゃ。
コンと村おこしは「セクシー担当」。
わらわ、サービスせねばならん。
しかしよの、サービスカットとなると……
わらわが一肌脱がねばならんのじゃ。
ポンが一肌脱いでも残念だからのう。
「コンちゃん、今日のおやつだけど~」
「おお、ポン、何じゃ?」
「昨日の残り」
なんとも切ないおやつよのう。
「おなか空いたでありますよ」
今日のおやつはわらわ、ポン、シロの三人なのじゃ。
「シロ、おぬしは残りのパンでよいのかの?」
「別段かまわないであります」
「おぬしは平気かの」
「はぁ……別に……」
「パン屋がパンでいいのかの?」
「本官、午前中はパトロールと学校でおなか空くであります」
「空腹は最良のなんとやら……かの」
「コンちゃんも動けばよいであります」
「わらわ、女狐、きまぐれで怠惰なのじゃ」
「自分で怠惰と言うでありますか」
「いいのじゃ、本当なのじゃ」
「ダメダメでありますよ」
「わらわは美貌があるからよいのじゃ」
「もう何も言わないでありますよ」
シロ、あきれておる。
でもよいのじゃ。
美人はなにもせぬものなのじゃ。
「コンちゃん、おやつだけど~」
「さっきからなんじゃ、ポン」
「飲み物は選べるよ」
「ふむ……」
「どーする?」
ポンの足音がするのじゃ。
手に瓶を持って来おった。
「カレピスどーですか?」
「カレピス!」
あの乳酸飲料なのじゃ。
わらわもシロも少女漫画目になっておる。
「コンちゃん、本官ちょっとわかったであります」
「何じゃ、シロ」
「パンの残りだけでもよかったであります」
「ふむ」
「でも、カレピスがあれば何倍もうれしいであります」
「であろう、わらわもカレピス、楽しみなのじゃ」
ポンもニコニコ顔で、
「じゃ、みんなカレピスでいいね、作ってくる」
「うむ、ポン、頼んだのじゃ」
その時じゃ。
シロがぬかしおったのじゃ。
「ポンちゃん、本官はスリーフィンガーがいいでありますっ!」
「す、すりーふぃんがー!」
わらわとポン、びっくりなのじゃ。
「何がスリーフィンガーなのじゃ!」
「いつもミコちゃんはツーフィンガーであります」
「た、確かに……」
「今日はレッドもみどりもいないであります」
「つまりは……さじ加減はわらわ達次第というわけじゃな」
「そうであります」
みんなの視線がカレピスの瓶に注がれるのじゃ。
そうとなれば、わらわもスリーじゃ。
「ポン、カレピス、全部スリーフィンガーじゃ」
「わ、わかった、わたし、頑張ってみる」
「頑張るとろこではあるまい」
「だ、だって……いつのミコちゃんに『指二本』って言われてるのわたしだもん」
「おお……」
「スリーフィンガー……指三本……お、おとなの世界?」
ポン、震えながら引っ込みおった。
ちと不安じゃが、指一本分多いだけじゃ。
「シロ、おぬし、大それた事を考えておったのじゃな」
「幸せとは、きっとそういった事であります」
「うむ、スリーフィンガー、楽しみなのじゃ」
すぐにポンは戻ってきおった。
わらわ達の前に、「スリーフィンガー」な「カレピス」が並ぶのじゃ。
「こ、これがスリーフィンガーかの!」
「見た感じじゃわからないね」
「うむ、わらわもそう思ったがの、しかしじゃ」
わらわ、これでも女狐。
クンクンすれば「濃い」のがわかるのじゃ。
「指一本分多いであります」
「うむ、指一本分なのじゃ」
「一本分でありますが、50%増というとすごそうであります」
「た、確かに!」
「いただきまーす」
三人そろったところでおやつタイムじゃ。
メインのパンは残念じゃが……
カレピスは甘い、うまい!
「さ、さすがスリーフィンガーじゃ」
「シロちゃんすごい、こんなの知ってたんだ」
「おいしいであります」
今日のおやつ、これだけでも充分なのじゃ。
「で……」
「なんじゃ、ポン、神妙な顔をしおって」
「で……」
「?」
ポンめ、シリアスな顔で出してきたのはカレピスの瓶じゃ。
「何じゃ、ポン」
「ここにカレピスがあります」
「それがどうしたのじゃ」
「もうちょっと足してみませんか?」
「!!」
ま、まだ足すというのかの!
わらわもシロもびっくりじゃ。
「……」
しかし、誰も何も語らんのじゃ。
これ以上入れるのは……何かやってはいけない事のように思えるのじゃ。
そう、親にダメって言われてやるのとは、ちょっと違うのじゃ。
「本当にやってはいけないこと」とでも言うかの。
「わらわ、やめておく……この指一本がいいと思うのじゃ」
「本官も……神の領域には足を踏み入れないであります」
「うう……二人がやらないなら、わたしもできない~」
ポンは残念そうじゃ。
「ポン、おぬし、やればよいではないか」
「スリーフィンガーはみんな共犯だけど、ここから先一人はイヤ」
「ふむ~」
シロがアンパンを食べながら、
「ポンちゃん、よく足すのを考えたでありますね」
「あ、これなんだけど……この間の夜のテレビ、覚えてる?」
「?」
「ほら、サーフィンの映画、やってたよね」
おお、わらわ、覚えておる……タイトルは忘れたが。
「本官、覚えているであります、台風で大波であります」
「ポン、その映画がどうしたというのかの」
「その中であったんですよ~」
「?」
「カレピス、ラッパ飲み」
「!!」
そんなシーン、あったかの!
しかし、おそろしい!
カレピスを、ラッパ飲み!
原液で!
どんな味なのじゃっ!
「わ、わらわ、想像もつかんのじゃ」
「ほ、本官も原液は考えなかったであります」
「そう?」
「ポン、おぬし、原液スキーかの?」
「あと、駄菓子屋さんでカレピス味のかき氷食べたら、残ったのすごい濃いの」
ポンめ、モジモジしておる。
「では、わらわが許す」
「!」
「ポン、今日に限り、原液で飲んでよし!」
「!」
「わらわとシロは黙っておくのじゃ」
「い、いや……わたしも……大人の世界はちょっとコワイ」
「とんだふ抜けじゃの」
みんなでカレピスの瓶を注目じゃ。
何か……きっかけというか、理由が欲しいの。
「ジャンケン……ジャンケンで決めるのじゃ」
わらわ、現在、シロに羽交い絞めされておる。
じゃんけんに負けてしまったのじゃ。
ポンがカレピスの瓶を持って仁王立ちしておる。
「コンちゃん負けたんだから、飲んでもらうんだから」
「ポ、ポンが飲めばよいのじゃ」
「コンちゃん、ジャンケンに負けたんだよ」
「これはバツゲームではないのじゃ」
「いいから、さっさと飲め!」
コワイ……ポンはたまに人が変わるのじゃ。
タヌキが変わるが正解かの。
「コンちゃんあきらめるでありますよ」
「これ、シロ、おぬしどっちの味方じゃ」
「今回はポンちゃんであります」
「覚えておれよ」
「すぐ忘れるであります」
「わーん、やめるのじゃー!」
「それっ!」
「むぐっ!」
ポンめ、いきなり瓶を突っ込んできおった。
うお!
原液はちょっとむせるのじゃ。
あ、味が強烈じゃ。
あまあまなのじゃ。
「ほら、どんどん飲んでください」
「おいしいでありますか」
「ふごーっ!」
おいしい……とは……思うが無理やり飲ますなーっ!
ちょ、ちょっと肺に入ったではないか。
「げほげほ」
「ちょ、コンちゃん、ギブアップ早~い!」
「まだ全部飲んでないであります」
「げほげほ、全部、飲める、わけ、なかろうっ!」
「ジャンケンで負けたんだから飲んでもらいます」
「そうでありますよ」
「やめるのじゃ」
「なに言ってるんですか、せっかくのコンちゃん攻撃のチャンス」
「ポン、おぬし~! シロ、助けるのじゃ!」
って、わらわをしっかと捕まえておるシロを見ると……
なんじゃ、頬を赤くしておる?
どうしたというのじゃ?
「本官、ちょっとコンちゃん、かわいく見えるであります」
「な、なんじゃとーっ!」
ポンに目を戻せば……ポンも頭がら湯気をたてておる。
「ポン、おぬし、どうしたのじゃ」
「弱いコンちゃん、ちょっとかわいいかも……」
「はぁ?」
二人とも、カレピスの瓶を見て、
「乳酸菌が関係あるのかな?」
「コンちゃんを弱らせているのかもしれないであります」
なにバカな事を言っておるのじゃ。
「コンちゃんは悪玉菌?」
「なにもしないでありますから」
二人とも、後で覚えておれよ。
「じゃ、乳酸菌で善玉になってもらいましょう」
「それがいいであります」
って、なんじゃ、シロ、なぜわらわの口を強引に開かせる!
うお! また瓶を突っ込まれたぞ!
飲みきれん、こぼれるでないかっ!
「ちょっとコンちゃん、もったいな……」
「お行儀わるいでありますよ……」
「おぬしらが無理やり飲ますのがいかんのじゃっ!」
服がベトベトなのじゃ、まったくこの二人は、今日は変……
何、わらわを熱い目で見ておるのじゃ?
「今日は本当に変じゃぞ!」
「い、いや……カレピスまみれのコンちゃん、なんかかわいい」
「本官もドキドキであります」
と、店のドアが開くのじゃ。
カウベルがカラカラ鳴ってミコの帰還かの?
「ただいま……」
帰ってきたのはたまおじゃ。
この際誰でもよいので助けるのじゃ。
「たまお、わらわを……」
助けて……もらおう……思ったら……なんだかヤツが一番やばそうじゃ。
桃色オーラが店に充満しておるのじゃ。
「コンお姉さまっ!」
「な、なんじゃっ!」
「こんな楽しい遊び……いつもしてるんですかっ!」
「はあ?」
「わたしもカレピスプレイ、ご一緒しますっ!」
「って、何故脱ぐのじゃーっ!」
「ポンちゃんシロちゃん、しっかり捕まえて!」
「ラジャー!」
「了解でありますっ!」
うお、ポン、シロにしっかりつかまってしまったのじゃ。
「ふふ、お姉さまにかかったカレピス、なめてさしあげます」
「やーめーろー!」
「ふむ……まだ足りない? では……」
あ、たまおのヤツ、鬼畜な目になりおった。
「もっとぶっかけてさしあげますっ!」
カ、カレピスをかけるでないっ!
食べ物を粗末にしてはいかんのじゃぞっ!
今日の店番はわらわとミコの二人なのじゃ。
「まだカレピスのにおいが残ってるわね」
「昨日はサバトだったのじゃ」
「食べ物で遊んで……モウ」
「本当、ミコが帰ってきてくれて助かったのう」
ポン・シロ・たまおは帰ってきたミコにやられたのじゃ。
いまは布団の中で包帯ぐるぐる・ミイラ状態なのじゃ。
「しかし……何故三人は暴走したのかの」
「……」
「わからんのう」
ミコは黙って語らんのじゃ。
しかしあやつの様子では、何か気付いておるようじゃ。
教えろと言うて教えるものでもなさそうじゃし……
そうじゃ!
術でカレピスをテレポート。
「ちょ……コンちゃん何を……」
「カレピスをかけるとどうなるというのじゃ?」
それ、ちょっとミコにぶっかけてみるのじゃ。
ちょっとじゃぞ……
ちょっと……
「あー、なるほど!」
「昨日の今日で何やってんのっ!」
ミコ、怒っておる、さっそく術が発動じゃ。
ゴットサンダーがわらわの体を焼くのじゃ。
でも、いいのじゃ。
どーしてカレピスぶっかけが「わくわく」なのか、わかったのじゃ。
「コン姉コン姉!」
「コン姉、みてみて!」
「何事かの?」
「レッド、今日は水泳かの」
「はいはーい!」