第4話「身代わりの術」
たまおの死角で一口……銘酒……それにすごい強いぞ、この酒は。
酒とポン……ポンと酒……あ、なんかすごい嫌な思い出があるぞ。
振り向きたくない。
振り向くまでもない。
感じる、感じるぞ、たまらなく嫌なオーラを!
む……なんじゃ?
気持ちよく寝ておるところに、なにかモゾモゾするぞ?
むむむ……隣で寝ておるポンめ、寝ぼけおったか?
「これ、ポン」
指を鳴らすとリモコンのごとく電気が灯くのじゃ。
「せっかく気持ちよく眠って……」
「お姉さま~」
「おおお!」
「お姉さま~うふふ」
寝床に忍び込んでおったのはたまおじゃ。
「ふふ、お姉さまの体、ス・テ・キ!」
おお、全身鳥肌じゃ。
「私、今夜は全力でコンお姉さまを……」
「このたわけが、心臓マッサージじゃ!」
わらわの術が炸裂じゃ。
宙を揉めば、たまおのヤツ転げ回って苦しむのじゃ。
ふう、わらわの純潔はぎりぎりのところで守られたのじゃ。
「まぁ、そんな事があったの」
「そうじゃ、わらわ、今までに感じた事のない危機を感じたのじゃ」
「ねぇ、コンちゃん」
「なんじゃ、ミコ」
「その危機は私に封じられたのと、どっちがすごそう?」
「うう……ミコに封じられた方がマシな気がするのう」
「そ、それはおそろしいわね」
「して、ミコ」
「なに、コンちゃん?」
「たまおのヤツはわらわだけでなく、おぬしも狙っておる」
「知ってるわ、私の事『ミコお姉さま』って近付いて来る時すごく感じるもの」
「ふむ、ミコも感じておったのか、そうか……しかし……」
「しかし?」
「ミコは寝る時はどうしておるのじゃ?」
「結界を張ってるわよ」
「わらわも張っておったわ、それをあやつは破ってきたのじゃ」
「そう」
「おぬし、危機を感じぬのか?」
「私、レッドと一緒に寝てるから」
ふむ、レッドと一緒か。
ある意味たまおの防壁になってくれそうじゃの。
「まぁ、私の結界は破られた事ないから、その辺安心なんだけど」
「むう……わらわの寝室にも結界を張ってくれんかのう」
「ふふ、コンちゃんも封じてしまうかも」
む、あっさりおそろしい事を言うのう。
「しかし、どうしたものかのう」
「昨日はどうしたの?」
「心臓マッサージで撃退した」
「今日もそうしたら?」
「うむ……しかしじゃ」
「?」
「あやつ、心臓マッサージを受けて、のたうち回りながら『胸がドキドキします』って嬉しそうにしておったのじゃ、ある意味効いておらん」
「そ、それはこわいわね」
「わらわもミコの部屋で寝せてもらえんかのう?」
「いいけど、私、朝、早いわよ」
「やめておく」
さて、今日も問題の夜じゃ。
わらわが結界を張っておると、
「ねぇねぇ、コンちゃんなにやってんの?」
「ふむ、これは『たまお除け』じゃ、結界なのじゃ」
「たまお除け? 結界?」
「そうじゃ、たまおのヤツが夜、わらわを襲うのを防ぐのじゃ」
「ふーん……じゃ、おやすみ~」
ポンめ、とっとと眠りおった。
まったく人が夜の闇にヒヤヒヤしておるというのに……
スヤスヤ寝ている顔を見ておると……おお、ひらめいたぞ。
わらわの結界は、今日もたまおの邪心に破られるやもしれぬ。
しかし、あやつの目的はわらわの体じゃ。
「それ、身代わりの術じゃ!」
指を鳴らせばポンの姿がわらわに、わらわはポンの姿に早代わりじゃ。
わらわがポンの姿であれば、たまおも攻めてきたりせぬじゃろう。
今夜はゆっくり眠られるようじゃ。
む……しかし「しっぽ」はそのままじゃ。
まぁ、闇の中ゆえ、わからぬ事を祈るとするか。
しかし……ポンの体は貧相じゃのう。
これが「どら焼き級」か。
か、感じる、邪悪な気を!
おお、襖の縁が四角く光ったぞ。
わらわの結界が破られたのじゃ。
ふ、襖がゆっくりすべるのがわかる。
うわ、桃色オーラを背負ったダメ巫女降臨じゃ。
「コンお姉さま……うふふ~」
こ、こっちに来るなっ!
し、しまった、真っ暗なので間違って来るかもしれん。
それ、夜目の術発動じゃ、兵隊さんもびっくりなナイトビジョンじゃ。
ふむ、たまおのヤツ、目に……あやつナイトビジョン装着しておる。
「コンお姉さま……つ・か・ま・え・た!」
おお、たまおめ、ポンに乗っかったぞ。
「今日は熟睡されて……無防備なんだから」
た、たまお、何をするのじゃ。
寝巻きを脱がすつもりかの!
むむ……ポンがやられておるとはいえ、わらわの姿だけに嫌な気分じゃ。
な、なんたる脱がせ方じゃ、いやらしいっ!
う、なんたるさわり方じゃ、みだら巫女っ!
おろろ、動きが止まったぞ、まさか術がばれたとか?
「抵抗ないのも拍子抜け……でも、いきなり暴れられても困るし……」
おお、なにやら悩んでおるようじゃ。
「ふふ……そんな事もあろうかと、雰囲気を盛り上げるアイテム持参!」
何か出したぞ……おお、縄じゃ縄。
縄でポンの腕を縛ってしまったぞ。
「これでお姉さまは反撃できない……うふふ」
お、おそろしやっ!
「さて、さらに雰囲気を盛り上げるのが……」
こ、今度は何じゃ!
ままままさか大人のおもちゃではなかろうな!
ポンがもてあそばれるというものの、わらわの身代わりでちょっと憐れじゃ。
お……たまお、何やら一気に持ち上げた。
あれは一升瓶じゃ。
「グッ」とあおっておるのじゃ。
しかし一瞬じゃったの。
うおっ!
そのままポンにキスしおった!
そそそそれは「口移し」か!
ななな長いキスじゃの……いや、口移しか。
「ふう、これでお姉さま、きっとメロメロです」
ちょっと一升瓶を確保じゃ。
たまおの死角で一口……銘酒……それにすごい強いぞ、この酒は。
酒とポン……ポンと酒……あ、なんかすごい嫌な思い出があるぞ。
振り向きたくない。
振り向くまでもない。
感じる、感じるぞ、たまらなく嫌なオーラを!
「あはは、なに、なに飲ませたの、グルグルするよ~」
「コンお姉さま? あれ? ポンちゃんの声?」
ブチッ……って、まさか縄、あっさり切れたのかの!
「あはは、たまおちゃんだ、えへへ、それ~、むちゅーん」
「うぐ……」
ああ、たまおがポンに捕まってしもうた。
さっきのキスなんか目じゃないディープなやつじゃ。
って、抱きしめられたたまおの体が痙攣しておる。
あっという間にたまお撃沈。
や、やばい、ここはすぐさま撤退じゃ。
「それ、コンちゃんのしっぽ、捕まえた!」
「うわ、ポン、何をするのじゃ」
「あれれ、コンちゃんのしっぽなのに、わたしの姿」
「こ、これ、放さぬか、や、やめるのじゃ」
「これは夢、うふふ、気持ちいいから、むちゅーん」
「ひっ!」
うわ、すごい力じゃ!
せ、背骨が折れるっ!
キ、キスで舌まで入れおるっ!
お、押し倒されてしもうたっ!
「けけけ……なんでわたしの格好してるの、コンちゃん」
「それはいろいろ訳があるのじゃ!」
「うふふ……コンちゃんのしっぽはフサフサでステキ」
「は、放すのじゃ!」
「いいよ、はい、しっぽ解放」
そうじゃ、それでよいのじゃ。
って、ポン、おぬし、自分のしっぽを何故わらわに押し付けるのじゃ。
「えへへ、わたしのしっぽ、気持ちいい? ねぇねぇ!」
「うわ、やめるのじゃ」
「おほほ、それじゃコンちゃんに挿れちゃいましょう!」
「ななな!」
ちょ、待つのじゃ、モフモフなしっぽをどこに挿れるつもりじゃ。
どっちに入れても、そんなの挿れられたら、わらわは壊れてしまうじゃろうが。
こ、このままではポンにやられてしまう!
今日の店番、わらわなのじゃ。
たまおは体じゅう痛くてダウンしておる。
ポンは頭に包帯を巻いてウンウン唸っておるのじゃ。
ミコが一緒にレジに立ちながら、
「そう、たまおちゃんがお酒飲ませちゃったんだ」
「そうじゃ……昨晩はいろんな意味で地獄じゃった」
「で、どうやってポンちゃんやっつけたの?」
「一升瓶でぶん殴ってやったのじゃ」
「それで……でも、あのしっぽ、すごそうよね」
「あんなの挿れられたら、血まみれ必至じゃ」
ミコのヤツ、急に神妙な顔になりおった。
「ねぇねぇ、コンちゃん」
「なんじゃ」
「たまおちゃんとポンちゃん、どっちがこわい?」
「ポン」
「ジャンケン・ポンっ!」
さて、今回も「ポン村」じゃ。
セクシー担当のわらわの話、いきなりジャンケンなのじゃ。
「やったー、わたしの勝ちっ!」
「むう、わらわの負けかの」