第12話「ザリガニ釣り」
世の中には、長生きしてすごい大きさになるものがあるのじゃ!
わらわも長生きで、神ゆえ、術が使えるというものかの。
ミコにしても、そうなのじゃ。
長老も忍術が使える長生きタヌキじゃしのう。
し、しかし、ザリガニでイセエビ級とはどういう事かのう!
さて、今回もわらわが主役なのじゃ。
しかしのう、わらわは家で「ぽやん」としておるのが好きなのじゃ。
主役といわれても、何をするでもないのじゃがのう。
「退屈じゃのう」
「コンちゃん、さっきまで老人ホームでポヤンとしていたよね」
「わらわ、あそこの爺婆よりもずっと長生きなのじゃ、一番偉いのじゃ」
そうなのじゃ、今は老人ホームのお手伝いの帰りなのじゃ。
今日は老人ホームのレクリエーションをお手伝いじゃったのじゃ。
うむ、今日は椅子に座って、紙風船でバレーをやったのう。
楽しかったが、やはり、いまひとつ、パッとせんのう。
「コンちゃん楽しんでたよね」
「紙風船バレーは……やってる時はのう」
「本当、見た目は美女でも中身はご長寿なんですね」
「そうじゃ、わらわ、もう動きとうない、ポン、おんぶー」
「子供かっ!」
して、パン屋じゃ、おやつなのじゃ。
「わらわは余興を欲しておるのじゃ」
ポンは知らん顔でおやつの「ちくわ」を食べておる。
レッドとポン吉が一緒なのじゃ。
ミコはニコニコしておるが、心の中はわからんのう。
「わらわは余興を欲しておる、2度言ったのじゃ」
レッドがしっぽをフリフリ。
「おさんぽ!」
「おさんぽだけではつまらんのじゃ」
ポン吉が、
「釣りでも行くか? おかず釣るついで」
「釣りは坊主の時が退屈じゃのう」
「それは魚に言ってー」
ミコは皿やコップ・湯のみを持って引っ込んでしもうた。
ポンは考える顔で、
「コンちゃんって、ザリガニ釣り、やった事あるっけ?」
「おお、あのイセエビ級かの」
レッドやポン吉の顔も明るくなったぞ。
こやつらもお供にして、ザリガニ釣りに行くのじゃ。
イセエビ級を釣って、見せびらかすのじゃ。
ミコが戻ってきおったぞ。
「お洋服汚さないでね~」
して、用水路に来たがの……
今、ポン吉が竹を切って竿を作っておる。
ふむふむ、糸は……
「これ、ポン吉」
「なにー?」
「その釣り糸は何なのじゃ、タコ糸ではないかの」
「そうだけど」
「そんなのでは、ダメではないかの」
「まぁ、最初はとりあえずこれで」
ポン吉、タコ糸の先に「いりこ」を結んで、
「コン姉は初めてだから、まずこれで練習」
「おぬし、わらわをバカにしておらんかの!」
「練習ってば」
こんな釣り針もついておらんので、どうやって釣るというのかの。
しかしの、ポン吉、ポンにも同じものを渡しおった、違うのは餌くらいじゃ、ポンのはスルメじゃ。
『これ、ポン』
『なに、コンちゃん、テレパシー』
『こんなモノで釣れるのかの?』
『レッドを見る』
『レッド?』
ふむ、レッドは……やはり同じ仕掛けじゃのう。
しかしレッドは迷い無く振り込んでおるのじゃ。
むむ、レッド、真剣な目をしておる。
どうなるかの?
おお、竿に当たりが、ピクピクしておるのじゃ。
それ、合わせるのじゃ、竿を上げるのじゃ。
むむ、レッド、ゆーっくりと竿を上げておる。
あんなにゆるりと竿を上げていいものかの?
うお、エビカニが、ザリガニが食いついておるのじゃ。
『おお、ポン、わかったぞ』
『わかりましたか、ああやって、餌を掴ませて、釣り上げるんです』
『なかなか繊細なのではないかの?』
『ですね、普通の釣りみたいに針はないから、そーっと上げないと落ちたり逃げたりするんですよ』
『わらわ、やってみるのじゃ』
『穴がザリガニのお家なんですよ』
『よーし!』
わらわが、ポンが、ポン吉が、レッドが振り込むのじゃ。
さて、わらわの餌に早く食いつかんかの。
おお、穴からエビカニが、ザリガニが出てきたのじゃ。
わらわの「いりこ」を掴んでおるぞ。
しかし、急いては事を仕損じるというものじゃ、待つのじゃ。
おお、両方のはさみで掴みおる。
そろそろ……ゆっーくりと……竿を上げるのじゃ。
落とさぬように……落とさぬように……ゲットじゃ!
「やったのじゃ、エビカニ、ザリガニ、ゲットなのじゃ」
「おお、コン姉、初めてなのにうまいなぁ」
「コン姉、じょうずゆえ~」
「ふふ、もっと褒めるがよい、もっと褒めるのじゃ」
魚釣りとはまた違った面白さなのじゃ。
それ、今一度振り込むぞ。
おお、また食いついた。
ふふ、楽しいのう。
「コン姉、魚釣りも上手だけど、ザリガニ釣りも上手だな」
「ふふ、楽しいのじゃ」
「じゃあ、あっちの穴を狙ってみてよ」
ポン吉、言いおる。
「あっちの穴」とはどこかの?
ポン吉の視線の先には……
「あれかの?」
わらわ、ふるえが止まらぬ。
向こう岸の大きな穴に、大きなイセエビ級がおる!
わらわ、レッドの捕まえて来たのを見た事あるが……やはり大きいのじゃ。
「ああああんなのが釣れるのかの!」
「レッドは釣ったかな?」
「うを、レッド、たいしたものじゃ」
「ほめられたゆえ」
レッド、赤くなって照れておる。
「しかし、レッド、本当に釣ったのかの?」
「おもちかえり、したゆえ」
「確かに、わらわも見たのじゃ」
レッドでも釣ったイセエビ級、わらわも釣らずになんとするかの。
それ、早速振り込むのじゃ。
イセエビ級、穴から出て来て餌を掴むのじゃ。
うを! 掴んだだけで引っ張られる、今までにない引きじゃ。
「ぽ、ポン、どうしたらいいのじゃ」
「一緒ですよ、イセエビが掴んだら、頃合を見て引き上げるだけですよ」
「糸、切れんかの」
「そこが難しいところですよ」
「むむ、そうかの!」
しかし、糸、切れそうじゃの。
しかし、引かねば、持って行かれるのじゃ。
しかし、引かねば……引けん、びくともせん。
「ポン、動かん、強いのじゃ」
「それはイセエビ級ですから、そんなもんですよ」
ポンめ、イセエビばかり見て、わらわの方をちっとも見ておらん、他人事かの。
「ほらほら、ちゃんと見て、バレますよ」
「むー!」
「引くばっかりじゃっダメですよ、駆け引きなんですから」
「しかしの!」
さっきから竿はプルプル震えてばかりなのじゃ。
「コン姉、送り出すんだよ」
「ポン吉、言うのう、穴に逃げられるのじゃ」
「穴に逃げられたらだめだよ~」
「どうしたらいいのじゃ」
もう、わからん、じっとするのじゃ。
わらわが動きを止めれば、イセエビも固まるのじゃ。
わらわとイセエビ、視線で火花を散らすぞ。
「来る、来るのじゃ、あやつの目が言っておる」
「ザリガニの目はつぶらですよ」
「わかるのじゃ、今、わらわとイセエビは戦いを通して気持ちが繋がっておるのじゃ」
「語りますね、繋がっているのはタコ糸だけですよ」
「ポンはわかっておらんのじゃ」
おお、イセエビの目が光った。
あやつのターン。
「うおっ!」
強烈な引きじゃ!
持って行かれるっ!
「あっ!」
本当に持って行かれた。
わらわ、飛ぶのじゃ。
「ちょっ!」
一緒していたポンも飛ぶのじゃ。
二人して、用水路に「ドボン」。
「うお、イセエビ、おそろしやっ!」
「油断するからですよ、なにやってんですかモウっ!」
「くそう、イセエビ、やられたのじゃ!」
「あんな時は竿放して……ぎゃーっ!」
「ど、どうしたのじゃ、ポンっ!」
「ししし、しっぽ、痛いっ!」
見ればイセエビ、ポンのしっぽを掴んでおる。
逃がしてなるか。
ポンのしっぽを掴んではさみはふさがっておる。
今、体を捕まえるのじゃ。
「イセエビ、ゲットー!」
ビチビチしっぽを動かしておる。
しかしもう、放さんぞ。
すごい、イセエビ級、大きい、力強い。
「コン姉、すごいすごーい!」
「おお、コン姉の獲物、超大きい、本物イセエビより大きくないか」
「おお、そうかの、もっと褒めるのじゃ、やったのじゃ」
ポンは泣いておるぞ。
「ポン、どうしたのじゃ、喜んで泣いてくれておるのかの?」
「わたしのしっぽ、はさんだまま振り回さないでくださいっ!」
「お洋服、汚したらダメって言ったでしょ!」
ミコ、ご立腹なのじゃ。
わらわとポン、そして何故かレッドも、ダンボールでお休みなのじゃ。
そして、たらいの中では、わらわの獲物イセエビ級がもそもそしておる。
「まったく、コンちゃんのせいでダンボールの刑だよ」
「すまんのう、しかし、でかいのう」
「う……ですね、大きいですね、レッドのより大きいですよ」
レッドもたらいを見て、
「すごいすごーい、もんすたーきゅうゆえ」
「おお、モンスター級かの、たしかにのう」
わらわ、ポン、レッドでモンスター級を見るのじゃ。
モンスター、はさみを持ち上げてアピールしておる。
「でもですね」
「なんじゃ、ポン」
「レッドの時もそうだったんだけど」
「うむ、なんじゃ」
「こう、大きいと、なんだかおいしくなさそう」
「……」
「ね、コンちゃん、どう思う?」
「明日、逃がしに行くかの、エビフライは指くらいの大きさの方がいいのじゃ」
「ですよね」
「コン姉、準備中なんですけど……」
「ポン太よ、わらわは神ぞ、おそばを出すのじゃ、ざるそばじゃ」
「準備中なのに」
「わらわ、ポン太を嫌いになるが、よいかの?」
「……」