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第94話 姫、はじめました

 伝説の仕立職人ヴィンス・アルトリウスのこだわりは物凄いものであった。

 カデュウ達どころかブリュアーノ財団支部長アントニオの想定すら超えて職人魂が発揮され、予算などという物は考慮されなかったのだ。

 カデュウ達にとっては幸運ではあるが、そのうち返礼しなくてはならないだろう。


「冒険者に仕立てると聞いたら、全力で専用のものを考えてくれたね」

「お父様にも以前仕立てた事があるらしくて、お話が弾みました」

「支部長泣いてたけどね……」


 特殊な魔術糸をふんだんに仕込んだ肌触りも優れる極上の生地を、マエストロと呼ばれた職人が完璧に仕立てあげた至高の服。

 カデュウの分は、呪いの女装をベースにして装飾加工を施したものだ。

 元の服の付与魔術を壊さぬように、より身体にぴったりにしつつ可憐に。

 さらに今に残る付与魔術を重ね、よりカデュウに適した効果が付けられている。


 明らかにこの服を着ていた方が快適で、生存性も高まっている。

 一応は冒険者用という事もあり、予想よりは大人しめなデザインなのがせめてもの救いだ。

 大人しいと言っても、高貴な姫君の旅装束がコンセプトらしい。


 ちなみに、仕立てる間に1週間ぐらいは滞在を余儀なくされ、今日でようやく完成したのであった。

 想像したよりもやたら仮縫いが多くてあまり自由はなかったが。


「カデュウが可愛くなって帰ってきましたよ!」

「……ぐっど」

「うわー、高貴なお姫様みたいだ! 魔王の娘とかでも通じるんじゃないか」


 ソト師匠が物凄く驚いていた。

 それ名乗って通じちゃったらダメなやつじゃないですかね?


「うむ、素晴らしい! よくやったぞ!」


 何故か褒められた。まったく嬉しくない。


「ね? 良く似合っているでしょう?」

「これはクロスのセンスを認めるしかないね。グッド」

「……ぐっど」


 何故、2回言った。

 何故、君達は結託しているの。


「うーむ、まったく違和感がない。むしろこの方が自然だ」


 性別的に不自然なんですけど。

 中身の人的には違和感しかないんですけど。


「せめてローブとフードを……隠しましょう……」

「あの職人のお爺さんが言ってたじゃない。『儂の仕立てた服以外を着てたら許さん、引っぺがすぞ』って」

「呪いの服か何かなんですかね……? ……あ、呪いの服だった」


 そのカデュウを見つめ、ユディが親指を立ててきた。

 普段無表情の癖に、とても良い笑顔で。


「大丈夫、超可愛いから」

「全然大丈夫じゃないから……恥ずかしいから」


 そう伝えたカデュウに、クロスは極上の笑顔を見せた。

 すごーく楽しそう。


「なんで一切必要性がないのにこんな真似を……この世界は間違ってる」

「この素晴らしい世界になんてことを言うの」


 にやにやと、クロスはこの素晴らしい世界を満喫していた。


「なんもかんも政治が悪い」

「村の政治仕切ってるのお前だけどな」




「アイス、必要な物資はこんなところか?」

「食べ物、工具、農具、鍛冶道具、種、苗木、お酒、その他もおっけ、こんなものですね」


 シュバイニーと共に、指差しで1つ1つ確認していくアイス。

 


「家畜はどうするんだ、買うのか?」

「今回は転移陣が街のすぐ近くだから、何か買ってきてもいいんじゃない?」

「そうだね、クロス。牛、豚、鶏をいくつか仕入れてみようか」


「私の石、まだ買ってないぞ?」

「……牛さん。おにく」

「石も買おう、石」


 欲望にまみれたちびっ子達である。

 お菓子をねだる子供のように師匠がまとわりついてきた。


「なーなー。石買ってー!」

「はいはい、わかりました。1個だけですよ」

「くっくっく。色仕掛けがきいたようだな」


 ……今のアレ、色仕掛けだったのか。


 家畜の買い付けに向かい、専門家のアドバイスを聞きながら、色々な種類のものをつがいで買っていく。

 どれが環境に適応するかはわからないので、試していくのだ。

 そして、師匠の為に石を買い、大量のパスタを仕入れて準備は整った。


「よし、いったん開拓地に戻ろうか」


 転移陣のすぐ近くに街があるという利点は大きい、重量を気にしなくて良いのだ。

 荷物が多くなったら一度戻ってまた買いに来ればいい。

 行き来が自由ならば、街に住んでいるようなものである。




 転移する前に、クロスが浮かない顔をしてカデュウに近づいた。

 どうしたのだろう、再会してからは見なかったような表情だ。


「ああ、そうそう。カデュウ、村に戻ってからでいいのだけれど、また後日この街からルクセンシュタッツへ向かってくれる?」

「うん、いいよ。何かあったの、クロス?」

「ええ。困った噂を耳にしてしまって。……私の義務を果たさないと」


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