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第91話 交易都市で交易を

 カデュウ達は街へと買い出しに行く事を皆に伝え、希望する品を記していった。

 生活必需品から趣味の道具まで、様々な要求があげられている。

 ゼップガルドは少々品揃えが足りない街であったので、違う街まで出向く必要がありそうだが、旅や冒険も出来て良い事かもしれない。


「ソエカスタナの調子はどうです?」

「……ぜっこーちょう」

「ようやく仕事だな、ソエカスタナ」


 しばらく放牧生活を満喫していた馬車の馬、ソエカスタナにも出番がやってきた。

 主に世話をしていたシュバイニーは、すっかり愛着を持っているようだ。

 黒毛がどうとか言っていた頃が嘘のようである。


「それじゃ出発しましょうか」


 馬車と共に転移陣の所定位置に入り込んだ。

 マーニャ地方へと旅立つのだ。


「あれ、転移陣の場所ってここだっけ……?」

「おい、あっちの荷物置き場と化している場所じゃなかったか?」


 言われた方向を確認したカデュウは、周囲を見渡し、間違えていた事を悟った。

 シュバイニーの言う通り、ここは違う場所だ。


 ――光が、すでに発し始めていた。


 まずい。あそこ以外の転移陣はまだ試していない。

 下手をすれば事故が――。


「もう、手遅れ――」




「ここは、どこです?」


 目を開けると、そこは大きめの建物の裏だった。

 ひとまず無事に転移出来たようだ。


「……どこかの教会?」

「その裏手、ですね」


 この建物の様式には見覚えがある、昔から慣れ親しんだ作り。


「幸い馬車が通れるだけの道はありますね、表に出てみますか」


 教会にある脇道を通り、大通りに出た。

 とても大きな大通り、いや、街道だ。

 街道に沿うように街が作られている。


「おお、ここはもしかして。トリーニャじゃないかい?」

「ああ、そういえば!」


 先に気付いたタックによって、カデュウもこの場所の位置が把握出来た。

 だがアイスにはよくわからないようだが、それも無理はない。


「トリーニャ?」

「南ミルディアス地方北方の都市トリーニャ、位置で言えばルクセンシュタッツの南東あたりの街だね」


 トリーニャ。

 南ミルディアス地方にあるクレメンス連合の都市の1つ。

 陸上交易を主体に発展してきた商工都市だ。

 クレメンス連合の都市では珍しく鉱山があり、古の大森林付近の良質な木材も手に入る事から鍛冶職人や木工職人が集まる、職人の街としても知られている。


「マーニャ地方から行くより、こっちの方が近いじぇ! 助かったよカデュウくん!」

「予想外でしたが、良い位置に飛べてよかったです」

「そいじゃ、まったね~。元気でやるんだじぇ!」

「タックさんもお気をつけて!」


 タックとの別れの時がやってきた。寂しくなるがまたそのうち会えるだろう。

 




「さあ、新しいはじめての街を探検です!」

「……ごーごーごー」


 元気良く、アイスとイスマが騒いでいる。

 蹄鉄の音がのどかに響く馬車の中。

 ご機嫌なクロスが正面に座り、ニコニコしていた。


「うふふ。カデュウとお出かけ、楽しい」

「ああ、うん。そうだね。ずっと森の中だったしね」

「どしたのこの子」


 そのクロスの様子をユディが訝し気な表情で見つめている。


「カデュウが服を買ってくれるの」


 ……まずい。

 このままでは、ユディの服か何かも買わされてしまう。

 カデュウの直感がささやいていた。


「いいなー」


 首を外に向けて、知らないふりをするカデュウ。


「いいなー……」


 ユディの声が近づいてくる。


「私も欲しいなー。なー。なー」


 横に座るユディが首に腕を絡め圧力をかけてきた。


「はわ、やめ……」


 まずい、このパターンは押し切られるやつだ。

 クロスの方を見て、助けて欲しいと眼でサインを送る。


「……。――ユディも買ってもらってなかったの? 仲間外れは良くないでしょう」


 一瞬睨みつけたり黙り込んで考えたりした後に、クロスがにっこり微笑んだ。

 なんて事だ、結託してしまった。


「良くない良くない」

「うぅ……、これ僕のお金じゃないのに」

「傭兵団に渡すはずのお金、すなわち父さんのお金、つまり私に使うべき」


 もはや後は、お高いトーラの店がこっちに来ていない事を願うしかない。

 通常装備ならばそこまではかからないはずだ……。


「私達には食べ物でいいですよ、良い子ですからね私達!」

「……いいこだもの」

「くっ、この馬車には味方がいないのか……!」


 ちらりと、ソト師匠の方に目を向けると、すやすやと寝ていた。

 静かだと思ったら……。

 起きてても石の要求しかしてこなそうだけど。




 ともあれまずは、馬車に積んであった酒樽を売却してこなくてはならない。

 仕入れたものの売る機会が無かった、ルクセンシュタッツ宮廷醸造所の逸品だ。


「酒を扱っている中でも高級志向の商会がいいよね」

「ブリュアーノ財団ね、王侯貴族御用達の」


 商会と一口に言っても、それぞれで方向性は異なっている。

 中でも、クロスの言うブリュアーノ財団は、最高級品を専門に扱う大ブランドだ。


「大陸屈指の大商会だから、相手してくれるかどうか……」

「うちで作ってた銘酒だもの、大丈夫よ。滅亡直前の限定物って売りもあるし」

「自分の国が滅びたのを売り文句にする姫がいるらしい」

「クロスは姫っぽさが全然ない子だから仕方ない」


 からかうユディに同調し、カデュウも調子を合わせる。

 しかし、クロスからの思わぬ反撃が待っていた。


「ふうん。じゃあ代わりにカデュウを姫っぽくしちゃいましょうか」

「え? なんでよ!? わけがわからないよ!」


「もうすでに女の子じゃない。魔王代理という事は姫も同然でしょ?」


 代理とか偉いものじゃなくて魔村長なんですけど。村長は姫じゃないと思うなー。


「どっちかというと姫じゃなくて王子じゃないかなあ」


「それはない」

「ないない」


 性別を否定された。酷い。


「利点も色々あるし。相手が油断するでしょ。交渉の場でも可愛い女の子の方が有利でしょ。釣られて人が増えて村の人口も増えるし、良い事づくめじゃない。使えるものは何でも使えって先生が言ってたよ」


 そんな理由で釣られて増えた人口とか嫌なんですけど。


「みんな可愛い女の子なんだから、僕がやる必要ないでしょ!?」

「理由その1、私達は交渉が得意ではない」

「クロスもソト師匠も得意そうだよ」

「商売の交渉はちょっとわからないから」


「理由その2、カデュウは全権委任された魔王代理である。村の発展の為に頑張らなくてはいけないでしょう? それに女装って背徳感があって魔っぽいし」

「発展は頑張るけど、何そのとってつけた魔要素!」


 そもそも代理じゃなくて、ただの開拓者なんですけど。

 魔がついてるだけの村長ですけど。


「理由その3、私達には恥じらいが足りない。能天気な人斬りっ子と、何考えてるかわからない無口っ子と、淡々としてる傭兵の娘よ。私は家族想いな愉悦好きな良い子だけども」

「愉悦好きって良い子なの? ねえ? それじゃソト師匠は……?」

「言うまでもないでしょう」

「うん、そうだね……、金食い虫の金髪ロリだもんね」


 すやすやと寝ている師匠を生暖かい眼で見つめる。


「理由その4、感情を捨てて結果を求めろという先生の教え」

「うっ……!」

「模擬戦で口説いたり、口付けしたりして隙を作る程、感情を捨てられる貴方なら簡単な事よね?」

「子供の頃の事を、まだ根にもって……」


 だって先生が何でもやれって……。

 実際にそれで勝ったら先生は褒めてくれたし……。


「それ私もやられた」

「あ、やめて、今言っちゃダメぇ……」


 被害者その2のユディが秘密を暴露してしまった。

 被告人カデュウの立場は悪くなる一方だ。


「ふうん。まだあんな外道行為をしてたんだ? それなら少し服装に変化が付くぐらいいいじゃない」

「クロス、物凄くイキイキしてる」

「悪い顔してます!」


 もはや最後の手段しか残されていない。

 あの鉄壁のキーワードだ。


「ま、前向きな姿勢で善処します」

「便利な言葉ね……」


 身の危険を感じながら、ブリュアーノ商会の支部へと向かう。

 取引が終わったころには忘れている事を祈りつつ……。

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