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第89話 吟遊詩人はかく語りき

 さて、次は探索の報告書を読まなくては。


 まだまだ、未知で未開な魔王城周辺地域、探索すべき場所は沢山ある。

 特徴的な場所が多数報告されており、危険度の高いものから低いものまで、森が主体だが、付近の山や海岸沿いも探索範囲だ。


「うーん、こうしてみると結構色々とあるんだなぁ……」

「遺跡もいくつか見つかってるみたいね」


 カデュウはクロスと共に、狩りや探索などで集められた報告書に目を通していく。

 他の者達はそれぞれ別の仕事に取り掛かっていて、すでにこの場にはいなかった。


「洞窟も数ヵ所、湿地帯もあったって」

「古の大森林って範囲広いからね、大陸の各地方に繋がってるでしょ」

「南ミルディアス、イルミディム、マーニャ、レヒア、これら4つの地方だね」

「地図も作ったほうがいいでしょうね」

「傭兵団の人達、地図書けるのかな……」


 地図を正確に書くのは専門技術が必要だ。

 基本的には冒険者側の技術であって、傭兵が習得しているとは考えにくい。

 冒険者にしても、その中の一部である探検者が必要とする技術だ。


「それもそうね、じゃあしばらくは仕方ないか、っと」


 そう言いつつ、クロスは突然カデュウの頬に唇で触れた。


「え、え、え?」

「家族だもの、口づけぐらいするでしょ?」

「ああ、そういえばそうだね!」


 ちょっと驚いたが、昔からクロスは突然な子であった事を思い出した。


「うふふ。楽しいね、カデュウ」

「そうだね、またクロスと遊べるからね」


 クロスのご機嫌が大変よろしいので、カデュウもにっこり笑って冒険者としての楽しみに思いを馳せる。


「エルフが間にいた事で1000年間探検もされなかった場所だし、未探索の遺跡がありそうで、わくわくするね」

「キルシュアート族って人間を受け入れていたんでしょ? そっち側は冒険者が入ってないの?」

「どうなんだろう?」


「ああ、それはないない」

「タック先輩」


 あちこちを見学していたタックが、また暇になったのかカデュウ達の下へ戻ってきた。


「あの街エルブンシュタットより先には進ませてくれないし、街が出来たのが10年前ぐらいじゃないかな」

「かなり新しい街なんですね」

「建築自体はもっと前からやってたけどね。それ以前は森の外に出て旅をしたり、交易する程度に留まっていたみたい」

「奥に進ませてくれないのは、何でなの?」

「仲の悪いフェアノールの聖地に入られたりすると、面倒臭いでしょ」

「ああ……」


 他所様の土地に勝手に入られて揉め事になった場合、キルシュアート族が責任を負う事になってしまう。

 それでは部族の利にならない、という判断だろう。

 下手をするとエルフ同士の戦争だ。


「ちなみに僕が森の奥に入れるのは、アルスールの長老レム・ヴェルと仲良しだから」

「ホビックだから、って事ではないんですね」

「ま、カデュウくんがいなかったら入ろうとも思わなかったけどね! 魔物怖いし!」


 タックに限らず、他の冒険者でも無暗に入りたがりはしないだろう。

 無意味に危険地帯と思うような場所に行く必要がないのだ。

 冒険者ギルドが理由もなく、エルフの領域へ向かう依頼を出すはずもないし。


「エルフの領域ではない箇所からの侵入はどうでしょう?」

「北側のレヒア地方モルスミネラ山脈からは険しい山が立ちはだかるかな。あそこには伝説があるからね」

「伝説?」


「“山の魔人”の伝説さ。モルスミネラ山脈に住み着き、出会った人は潰し殺されるという、恐ろしい魔人がいるんだとか。今でもあの地方じゃ信じられてるね」

「冒険者はいかなかったんですか?」

「冒険者も多くが帰ってこなかったなんて逸話が残ってるね。以来、そこには決して近づかなくなったらしい」

「へぇ~。それじゃあ僕らもそこには行かない方が良さそうですね」

「それがいいだろうね。少なくとも凄く危ない事があるのは間違いなさそうだし」


 今のところ、そちら側に無理に行く必要はない。

 問題が起きない限りは立ち入り禁止として、後は放置しておけばいいだろう。


「他の道では森の奥に行けないんでしょうか?」

「山脈を通らないルートなら、海岸沿いとか、細いけもの道なんかで通れるかもしれないけど、僕はそこまでは知らないなあ。行った事ないし」

「タックさんと仰いましたか、お詳しいのですね」


 クロスに褒められ、タックは鼻高々にドヤ顔を決める。


「僕は素敵で、エレガンティーな吟遊詩人だからね!」

「そういえばタック先輩は吟遊詩人でしたね、忘れてました!」

「忘れてたのかーい! これは良くないね、もっと伝説を聞かせてやんよー!」




 そこに通りすがりの魔王が現れた。

 それに気づかぬまま、タックは得意絶頂の顔で語りだす。


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