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第87話 魔村長の管理業務

 解放したものの、行き場が無いので村の住人になりたいと志願する元奴隷の皆さんは意外に多かった。

 近くに家族がいる者ならば帰る場所もあるが、離れた位置であったり、まともな自宅がない者達も少なくない。

 奴隷から解放したと言っても金銭が無いし、大半の人は長旅の経験もないので、帰りたくとも帰れないのだ。


 エルフの街に残るよりは、人手が必要とされる開拓村の方が居場所も出来て溶け込みやすく、働きさえすれば家も持てるかもしれない。

 しかも、周囲に盗賊の類はおらず、防衛戦力も充実している。

 解放してくれたという恩義もあるのだろうが、打算もあっただろう。


 村の管理者としては一気に40人前後の住人が増え、食料が不安になる。


「おー。もう建設が始まってますよ、カデュウ!」


 無邪気な表情で、アイスが元気良く両手を広げた。

 その言葉通り、各所の予定地に土台が組まれ、早い所ではすでに出来上がっている箇所もあった。

 生産に従事する人達の為の家だ。


「うん、驚いたね。ちょっといなかっただけで、もう家が1つ建ってるとは」

「よーお、帰ってきたか。すげえだろ、暇だから俺達も手伝ってやったぞ」


 木材を抱えたゾンダが、土木工事の手伝いをしているようだ。


「戻ったかね、魔村長。見たまえ、私の街がついに作られていくのだ。傭兵団の諸君も快く協力してくれたよ。おかげで大分捗っている」

「段々作られていくのって、なんだか楽しいですね。ターレスさん」


「しかも各所に私のセンスと工夫が入っているのだよ。地下水路を利用して、街全体に水を張り巡らせる。上下水道を完備し、清浄なる水と緑の街を作り上げるのだ」


「ふふん。それは私のアイディアだぞ。あいでぃーあ! この、天才のな!」

「いやそれ、僕も考えたヤツですよ」


 見事なドヤ顔についついツッコミを入れてしまったが、別に誰の手柄でも構わないのだ。

 肝心なのは、村が快適になるという一点。


「カデュウにソト君。私が配置を思案し、目で見る箇所には美しく装飾も行う予定だ。君達の協力もあって念願のゴーレム水路は完成が近いぞ!」


「くくく。この天才魔術師ソトが、街の機能としてゴーレムを使いかゆい所に手が届く、ゴーレムの魔都を作ろうというのだよ!」

「さすがです、ソト師匠! いよ、秀才天才大天才!」


 どんどん体が反っていくソト師匠が面白くて褒め称えまくったが、そろそろ腰が折れるのではなかろうかという角度だ。


「そこで、魔霊石の補充をだな……」

「まさか、もう使い切ったんですか……?」

「うん♪」


 物凄く良い笑顔であった。

 やはり石の消費は激しいようだ。むしろ良く足りたというべきか。

 水道を作るにしてはかなりの低予算なのだから仕方ない。

 こればかりはカデュウが提案した事なので、街にいったら石を買ってあげよう。


「それで、現状で水道ゴーレムってどれぐらい持続するんですか?」

「壊れない限りは半永久的に動くぞ、水の流れがある限りな。役割を限定してあるからその分、融通が利くんだ。上下水道をゴーレム化し、すでに建築予定地に接続してある」


 完璧だ。

 ソト師匠はゴーレムに関しては本当に天才である。


「元々、魔王城にそういう設備があったと話してやったら、まさかゴーレムで作るとはな。さすがの余も予想外であったわ。はっはっは」

「あ、魔王さん。ただいま戻りました」

「うむ、ご苦労。……ほう、後ろの者共が新たなる村人か」

「新入りの皆さん、こちらが魔王さんです。特に害は無いので気にしなくていいです」


 横から現れた魔王が、新たなる村人達を見据える。

 魔王と聞いて、驚いたり、怯えたり、わかっていなかったり。反応は様々であった。

 そのうち慣れていくだろう。多分。早ければアイスのように数分で。


「お、可愛いエルフちゃん達が一杯だな! カデュウちゃんもお帰り!」


 そこに通りすがりのフルトもやってきた。


「フルトさん。これからこの村で一緒の生活する仲間達です、よろしくお願いします」

「よろしくしちゃうよー。どっかの可愛いくないエルフと違って初々しいな!」


 そのフルトの前に、後ろからエルフが歩み寄ってきた。

 怒りの表情に笑みを浮かべて。


「どうも、可愛くないエルフちゃんです」

「げ! エルバス……。いらっしゃったので?」

「ゴミフルト、可愛いエルフの為に森の肥料にしてあげますよ。よろしく」

「地味ですらなくゴミ! よろしくじゃねーよ、死んじゃうだろ! このゴリラエルフ!」


 猛烈な勢いで走り逃げながら罵倒を浴びせるフルト、それを追いかけるエルバス。


「作ってる所、壊さないでくださいね~」




 さて、新人のエルフ達は森で採集なり、狩りなり、出来る事は色々とあるだろう。

 だが、人間は少々仕事を考える必要がある。

 高級奴隷の候補だけあって、男女問わず容姿端麗で若く、華奢だ。

 雑用はともかく、力仕事は難しそうだ。


 そこで特技の有無を聞いていって、使えそうな者を選抜していく事にした。

 縫製が出来る者、木工や革細工など工芸が出来る者、料理が出来る者、釣りが出来る者、農業が出来る者などなど。


 何も特技が無い者は、希望する分野をとりあえず経験してもらう。

 細かい物の運搬などの雑用も交代でお願いした。


 牧畜をしていたという子達もいたが、生憎と家畜は飼っていない。

 そのうち、何か飼ってみてもいいだろう。


 それぞれ配属さえ決めておけば後は担当者が面倒を見てくれる。

 そこから先は魔村長の仕事ではないのだ。

 そもそも魔村長ってなんだって話もあるが。


「うーん。縫製の経験者がいるのはいいけど、本職の仕立て師も必要だよね、すぐにではないけど服の替えは必要になるし」


 どうしても専門家が必要な分野も存在する。

 服の仕立てとなると、縫製師の他に裁断師が分かれてるし、地方によって作り方も変わっていたり。

 一口に服の職人と言っても色々と分野が違うのだ。

 かといって素人ではノウハウが蓄積されておらず、着心地は望めないだろう。


 生地をどうするかも問題になる。

 開拓村でも生地は作れるだろうが、やはり専門の職人が居た方が良い。


「生地もどうしようかなぁ……。当面は仕入れてくるしかないだろうけど」


 だが、自ら望んで開拓村に来てくれる変わり者でもなければ、お金が必要になる。

 村の人間は現段階では資金でのやり取りを行っていないし、お金を要求されても稼ぐ手段を持ち合わせていないのだから難しい。

 いずれ市場を作り外との交易も視野に入れるべきであろうが、職人はそれまでの間でも必要だ。

 やはり傭兵団や芸術家のように変わり者を探すしかないのだろう。


「あ、生地なら私が作れますよ。お姉様! うちの家、妖精絹っていう特産品を作る生地職人でしたから!」

「なんと。レティシノちゃん、出来る子!」

「わーい! 褒められました!」


 思わぬところで生地の件は解決した。

 考えてみればエルフの集落でも服は必要なのだから、職人もいて当然だ。

 自前で職人を探し出すまでは、エルフにお願いするのが無難であろう。

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