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第83話 ソト袋の魔術講座

 ソトを囮にして、イスマをさらった者達を炙り出す作戦が実行された。

 さらわれた現場の付近、人気が少なめの場所で壁に寄りかかって待機中だ。


「怪しい奴らがソトに近づいた」

「麻袋かぶされたね」

「ソト袋だね」


 尾行時の先頭となるカデュウとユディが、その光景をのん気に見守っていた。

 拉致慣れしているのか、手際の良いさらいっぷりだ。

 多少待つ事を覚悟してはいたが、思ったよりも食いつきが早い。


「よし、尾行開始だ」


 カデュウが先導して、適切な距離感を保ち、拉致をした3人を追跡する。

 

「森に入っていく……?」


 人気のない森の奥へと進んでいく、建物らしきものは確認出来ない。


「あそこ、一見ただの大木に見えるけど、中身をくりぬいたアレだね」


 目線で場所を示すユディ。

 遅れて、カデュウもそのエルフならではの建物に気付いた。


「あの地下施設と一緒か。それじゃあ地下で繋がっていたり?」

「捕まえた子をオークション会場に送るのに、地上を使ってられないから、かな」

「それは確かにそうだね。あ、入っていった。見張りも何人かいる」

「襲撃されるという想定はしてないみたい。他の見張りを置いてる気配はないよ」

「じゃ、始末しようか」

「いいよ、カデュウの得意な暗殺だね」

「身を守るのだから護身なの」


 密かに、近づいていく。そう、護身の為に。

 身を守る為には仕方のない事なのだ。特にイスマの。

 そんな言い訳を並べながら、カデュウはユディと共に見張りの処理にかかった。

 ユディは木々を使った跳躍で、カデュウは口を塞ぎ草むらに引きずりこんで。






 薄暗い地下、僅かな明かりの中、イスマイリが入れられているのは牢だった。

 錠前式の鉄格子の牢獄に、ぽつんと座っていた。

 そこに近づく者がいた、静かな足音がイスマイリの耳に届く。


「こんばんわ」

「……誰?」


 淡く幻想的なもの。金色の長い髪、女性。

 誰もが魅入られそうなその幻想に、イスマイリはまったくの無関心であった。

 珍しき者、という認識以外は。


「もう忘れてしまったの? 私の名はルチア・スパルト・ヴァイスゼールト。魔王城の前で少しだけご挨拶をね?」

「……そんなのいた。……何の用」

「パルシスの御子。神無き地の願い。人の生み出したる幻想の結晶よ」

「……そうか。知りたる者か」


 雰囲気が少し変化する。

 ――幻想、神秘を纏う何かへと。


 その問いに、ルチアは小さく笑い、答えとした。


「あなたには願いがある。幻想がある。聞き届けましょう」

「……この地で願いは叶った。だが、何も出来ぬのも歯痒いものだ」

「ええ。私が繋ぎましょう、私は“星の幻想”アステル・ファンタジア。幻想を紡ぎ導くもの」


 ルチアの言葉と共に、イスマイリの中に何かが繋がれた。

 想い、信仰、あるいは幻想。

 異なる大地との接続、あるいは契約。


「……感謝しよう、“星の幻想”アステル・ファンタジア

「いいえ。いずれ少しだけ、お手伝いをお願いね。イスマイリ・サファ・ユッディーン」

「……約束しよう、ルチア・スパルト・ヴァイスゼールト」

「クリシュを継し、ダーラの裔。そして、新しいお友達」

「……誓約しよう、新たなる友よ」


 バイバイ、という風に手を振る、場の空気に似合わぬ調子のイスマイリに、ルチアも目を閉じて微笑んだ。


「ええ。それでは、良き幻想を」






 静寂を取り戻した牢獄の鍵を開け、ガラの悪い男達が入ってきた。


「こいつもここでいいのか?」

「小さい奴らだから2ヵ所使うのも勿体ねえ。放り込んどけ」


 雑な理由で、放り込まれたのは、エルフ耳を偽装でつけたソト。

 見事目的通り、同じ場所にさらわれたのだが、まさか同じ牢に入るとはさすがに期待していなかった。


「あいたた。……くそー、あいつらめ。乱暴に投げやがって」

「……ソト?」

「おお、イスマ。無事だったか。助けに来たぞ」

「……ソトも捕まってる」

「わざとだ、わざと。イスマを見つける為にわざとな」

「……ありがと。頑張ってソトを助ける」


 謎の自信に満ち溢れるイスマの姿に、ソトは首をかしげた。


「ん? 逆じゃないか?」

「……ソト、魔力効率化ってのを教えて欲しい」

「ほう。この状況で師匠の授業を求めるとは。面白い」


 自慢気な表情で、ソトは生き生きと語りだした。

 腕を縛られたまま、床に転がりながら。


「召喚における魔力を効率良く使う為のコツは、計算と意識的な振り分け。大雑把に言って必要となるのは、まず魔術を発動するための魔力」


「より正確に言えば、魔術を発動するための魔力の元になる魔術式。魔力自体を事前に集めたり増幅したりして、使いたい魔術の為の必要なコストをより少ないコストで発動させる為の魔術式、だな」


「……どういうこと」


「例えば、買いたい物が金貨10枚だったとする。だが手持ちには金貨5枚しかなかった。そこでこの5枚を使って金貨を増やす事にした。そしてこれが成功して金貨10枚まで増えた。簡単に言うとこんな感じのものが効率の良い発動魔術だ」


「他の手段として、意識的に必要な箇所に必要最低限の魔力だけを割り振る方法もある」


「そして、逆のアプローチ。必要なコスト自体を下げる。術式の再構成という奴だ」

「これに関しては、時間をかけて研究しながら構成を考える必要があるので、すぐに出来る事ではない。天才の私なら即興でも組み立ててしまうがな。効率化慣れし過ぎて」

「……ドケチって事か」


「無駄にしない為の節約だと言ってくれ? ちなみに、カデュウがよく使うような短縮詠唱は、基本的に効率化とは逆の方向性だ。あれは自動詠唱を発動させてコストを多めに使う代わりに、時間を短縮するものだからな」


「基本はこんな所だ。私は全てを行使しているが、今出来る中でなら、最初の方法が簡単でわかりやすかろう。この場合、術で集めなくとも良いのだからな」

「例えば、魔霊石のような魔力を肩代わりするものを用意したり、生贄のような別のコストを用いたり、な」

「……ふむ、なるほど。てや」




 理解した風な言い方のイスマの横に、シュバイニーが瞬時に呼び出された。


「ん? おお? イスマ?」


 呼び出されたシュバイニーが困惑している。


「……出来た」

「え? 魔術じゃなくない、それ?」

「……ソトししょーはさすがだった。さんきゅーししょー」

「そうだろうそうだろう。……いやそれより。魔術を使わずどうやって召喚した?」


「……ごっどぱわー?」

導聖術(シクス・グラマト)? 私もそっちは詳しくないが……」

「ささやいて、いのって、えいしょうって、ねんじた」

「灰になりそうだな」


 ソトの呟きを流しながら、シュバイニーがイスマの拘束を解いていく。


「そんな事より、イスマ。俺を呼び出せるとは、力が戻ったのか?」

「……少しだけ」

「作らせてるアレが効いたのか? ……ふむ、これなら俺も多少は暴れられるな」

「……暴れてくるのだ。存分に暴れてくるのだ」

「そいじゃ、久々に。守護者としての仕事をしようかね」

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