第82話 囮師匠
「さらわれた……、え、イスマが?」
「そう、急いでみんな集めてる、来て」
衝撃的な展開に動揺したまま、カデュウは再び宿へと戻った。
「状況はどうなっていますか!」
「なんてこった畜生、俺がついていながら」
自分を責め、悔いるシュバイニーは辛そうな表情を見せる。
「まだ僕達の事は知られていないはず……どうしてイスマが?」
「何らかの方法で情報が筒抜け、という事はまずないだろう。それなら買い物に行ったイスマ達よりも、自分達の情報を探ろうとしている者たちを先に叩くはずだ」
ソト師匠は動じず冷静な分析を見せる。
別の線から、タックも見解を示した。
「僕は情報屋で聞いた本人だ、情報屋から漏れた場合なら、同じように街中にいて調査をしていた僕が狙われていないのはおかしい」
「僕達の行動が原因ではないのだとしたら……、偶然?」
「そうだな。特にイスマは本当に何もしていなかった。意図的にしては不自然だ」
ただ情報を集め始めた、というそれだけの段階でしかなかったのだから、ソト師匠が主張した通り、対抗措置とは考えにくい。
「小さな可愛い子で値も高くつきそう、そして狙いやすかった。……そんな売り手の事情じゃないかな? だから偶発事故だと思う」
「買ってきた荷物に目をやった隙に、いなくなっていた。『あれも買おう』、とか言ってどこかに走り出していたんだが……」
話を総合すると、同行していたシュバイニーは、一瞬の隙にたまたまさらわれた事になる。
イスマも買い物をしていただけなのだから、軽率な行動ですらないのだ。
犯人以外に誰が悪いというものですらなかった。
「くそ! どうしたらいい、なんとかしねえと……」
「シュバイニーさん、イスマの位置とか気配とかはわかりますか?」
「今の状態じゃほとんどわからねえ。かなり力が制限されてるからな」
首を振るシュバイニーの反応をみて、カデュウは考えた。
今打てる手は何か、どうすればイスマの居場所がわかるのかを。
「――では、手っ取り早く状況を再現してみましょう」
「どういう事だ?」
怪訝な表情を見せるシュバイニーに、カデュウが作戦を示した。
「同じようにまたさらわせて、場所を突き止めます。尾行ですね」
「……なるほどな。確かに、それが現状では最速かもしれん」
考えるそぶりで、ソトが顎に指を当てる。
「囮役は、ソト師匠お願いします」
「まじで!?」
「武器は没収されるでしょうから、僕では無理です。ソト師匠なら魔霊石があればどうにかなるでしょう?」
「まあ、石があればな……」
石の力は偉大であった。ただしお金が必要だが。
「素手で戦える人でも、手足を縛られる可能性は大きいですし」
「私やカデュウは、縄抜けぐらいは先生から習ってるけど、閉じ込められたりするとね」
残念ながらカデュウは鍵開けを習ってはいない。
鍵なんか手で斬ればいいって言ってたからなぁ、先生……。
「石パワーで、ソト師匠になんとかしてもらいましょう」
「……いいのか? 使ってしまっていいんだな?」
ご褒美を前にしたような表情で、ソトが手の石を転がす。
「大切な仲間はお金にかえられません」
「その通りだぞ! よく言った、カデュウ。いやっほーぅ!」
大切な人は、大切なもの以外の何を犠牲にしても助けるべき。
カデュウは常々そう考えてきた。
昔から思っていた優先順位は、先生の教えによってはっきりと定まっていた。
……ソト師匠は別の理由で大はしゃぎしているようだけど。
「でも、こんなちんちくりんをさらうかな?」
「そこが問題ですね」
「おい」
「ホビックは奴隷としては価値が低いよ、エルフに見せておくのがいいじぇ」
「つけ耳でも被せて、エルフの子供風にしましょうか」
「待てこら」
タックのアドバイスを受けて計画を練っていく。
正直者達の本音によって、ソト師匠のご機嫌が悪くなってきた。
ここは一発、適当に褒めておかないと。
「あ、大丈夫です、ソト師匠はとても可愛いです。奴隷価格プレミアムです」
「そ、そんなはっきり言われると、照れるにゃぁ……」
ちょろかった。
プレミアムが効いたのだろうか。
「じゃ、そういう事で、耳つけましょうねー」
「雑だなおい! もうちょっとおだてろよ! ……まぁいい、イスマも我が弟子だからな。やってやるさ」
「僕の魔術でエルフ耳に見せかけました。効果時間を伸ばしたので1日ぐらいは」
「ふむ、悪くない。どうだ、エルフっぽい私も美少女だろう?」
「はい、とてもカワイイデスヨ。じゃ、早速作戦実行しましょう」
「段々、雑さが増してきやがる……」
おかしい、耐性が出来てきたのかもしれない。
褒めたのにソト師匠の反応が宜しくなかった。
「僕達は尾行してついていきます、気を付けて下さいね」
「任せておけ。天才だからな、私は」
「イスマの事、……頼んだぜ、ソト」
偽装エルフによる囮作戦が実行に移された。




