第75話 開拓村へようこそ
アルスール族との交渉を終え、開拓村に戻る道中もとても賑やかなものだった。
開拓村にタックを招待し、一緒に行く事になったからだ。
小さき者同士、気が合うのか合わないのか、移動中も休憩中も休みなく言い争ったり、かと思えば意気投合したり、徒党を組んでカデュウをいじりだしたりとやりたい放題であった。
「金いいよね……」
「いい……」
最終的に謎の悟りを開いたらしい。やはり、世の中金である。
アルケーの開拓村に戻った後には、再びタックがあちこちを見て騒いでいたが、それは無理からぬ事だろう。
「ここがかの英雄達が死闘を繰り広げたという魔王城! なんか、ボロいじぇ」
「あの人が叙事詩に謳われる伝説の魔王なのかぁ! ……意外と普通だじぇ」
「そしてこれが、いつのまにか女の子になったカデュウ君かぁ!」
人を指差して驚くのはやめてください。女の子になったとかもやめて下さい。
「あの、僕、魔王さんとかより後にもってくるような存在じゃないですよ」
そもそも出会った時に見たはずなのだが。改めて強調するとかいじめなの。
「ふーん、どうして女の子になってるのかなぁ? ほれほれ、先輩に相談してみなさい、ほれほれほれほれ」
「うっかり呪いの服を着てしまったせいです。それ以外の事情はありません」
本当は脱げるとかそういう情報は伝えないでおこう。
「にゃっはっは。素直になるといいじぇ。……したかったんじゃろ、女装?」
……こういう先輩であった。すぐ面白がるんだから。
その後も行く先々で大げさに驚いてははしゃぎまわり、ソトとちょくちょく言い合ってはカデュウが仲裁する、という事を繰り返した。
「いやー、面白かったじぇ!」
「僕は疲れました……」
「なんだー? この私がサポートしてやったというのに、だらしのない」
「師匠のおかげで数倍疲れがたまりました。本当にありがとうございますー」
心からの感謝を述べて、カデュウは机に突っ伏した。
「……げんきだせー」
「イスマも一緒になって騒いでくれたおかげだよー。もーだめ」
「カデュウってば、ちっさい子達に大人気ですねー、イスマだけでもくださいよ」
「ご自由に持っていってくださーい。大歓迎ー」
「……アイスはつんつんしすぎる」
アイスの請求を二つ返事で承諾したものの、当人のオファー拒否により交渉は決裂した。
可愛がってるからって、いじりすぎなんじゃないかな……。
「えー。じゃあカデュウをつんつんです」
「やめて」
「しかし、ここは良い所だねー。ビックリするほど綺麗な所だよ。幻想的な森に、伝説の魔王城、そして圧倒的な美しさの白き水棚」
「魔王さんもそんな名称を使ってましたね、有名なんですか、ソレ?」
「吟遊詩人でも知らない人の方が多いんじゃないかな。僕はたまたまその手の伝承を知っている人から聞いてたんだ」
「なるほどー。まあせっかくだし、うちの村でも正式名称にしますか」
いつまでも名称が無いというのも不便だし。
気が付けば、軽快な調子で喋っていたタックが珍しく静かになっている。
ゆっくりと、感慨深そうにカデュウを見つめて頷いた。
「しっかし、あの新人だったカデュウくんが、まさか村長になるとはねー。世の中、何が起きるかわからないものだじぇ」
「そうですね、僕も驚きですよ。……それじゃ、僕は村の管理業務に行ってくるとします。タック先輩はその辺で、適当に遊んでて下さい」
「久々に出会った先輩に、そんなおざなりな対応は良くないじぇ、後輩! 賢い僕がアドバイスしてあげるじぇ!」
「ふはは。そんな戯言より、天才である私の意見を聞き入れるに決まっているのだ」
「お願いだから静かにしてて下さいね……」
またソトとの争いを始めそうな気配だったので、先制して釘を打つ。
2人に散々振り回された結果の学習である。
「まずは、建設計画。空いてるからといって適当に家を建てて行ったら、後々困った事になります。農家は農地に近く、漁師は海に近く、という風に職場に近い住居を作るべきでしょう」
「私の家はどこになるんだ?」
「ソト師匠は、何もしてないじゃないですか……」
何もしてない人は当面、城の中で十分である。
ボロいけど雨風ぐらいは凌げる。
「逆に言うと、傭兵団の奴らの施設はどこでもいいわけだ」
「まだしばらくは、この廃城で問題ないでしょうね。敵に近い方に配置するのが理想的でしょうけど、今の時点では具体的な敵がいませんしね」
将来的に防壁などを作る時が来たら、その周辺に住まいを用意しても良いかもしれない。
「次は廃城のがれき撤去の進捗報告。地下水道までの道のりが開けたようですね。これで水の入手が楽になります」
「水道は機能していたのか?」
「問題は無いそうですね。順調に綺麗な水が流れてくる、と」
「よろしい。他に何か見つかったか?」
「がれきの奥には色々落ちているものがあったそうですが、大半は壊れていたと。しかしいくつかの物が、使用可能な状態で残っていたそうです」
その報告を聞き、ソトは驚き気味に推察する。
「ほう、マジックアイテムの可能性が高いな」
「やはりそうですか。資金になるかもしれませんね」
現状、特に収入源に乏しい、まとまった金銭になりそうなものは期待できる。
自分達で作るものにお金はかからないが、自給自足が出来ないものは買い付けてこなければならない。
そのうち交易も兼ねて、馬車で出張しなければならないだろう。
「くくく。私の分は魔霊石でいいぞ? わかっているな?」
「前向きな姿勢で善処したいと思います」
「何そのぼかした解答!」
水道……。魔霊石……。
「……そうだ。ソト師匠のゴーレムって、人型以外も出来るんですよね?」
「うむ。創造性と可動域の限り、自由自在だ」
「地下水道型のゴーレムって作れますか? 地下水を地上に組み上げる水路の管をあちこちの建物に行き渡らせるような形が理想的なんですが」
顎に手を当てながらソト師匠が思考する。
「……んー。形はどうとでもなるとして、問題は維持だな。……まてよ、水を流すという事は、……条件付けをして特化したうえで流れを魔力に変換して……片面ではきついか?」
「出来れば下水道もあると快適になるのではと」
「つまり逆流、そして生贄! 素晴らしい、永久稼働型ゴーレムが出来るぞ!」
「よくわからないけど、出来るんですね!」
魔王城に残された偉大なる地下水道を見て、なんとなく言ってみただけなのだが、本当に出来るとは思わなかった。
「細部はターレスのおっさん達の協力が必要だがな。あと石が」
「石使っちゃっておっけーです! 是非作りましょう!」
地上のあちこちに水道があれば住人の皆が快適になるというものだ。
こう言う所こそ予算を惜しんではいけない箇所だと思う。
「次、……なんだこりゃ。『……こーいうのをつくってください』。イスマの提案か。『こんなのがあるとすてきになっておやくだち』、……よくわからない」
困惑しているカデュウの手元から、その紙をとったソトが、ふんふん、とじっくり眺めてから、翻訳してくれた。
「これは酷い案だな。だがまぁ、恐らくイスマの召還に関する件だろう」
「ああ、なるほど。何か作らないといけないんでしたね。それなら許可しておきましょう。シュバイニーさんもよく働いてくれてますし」
「……いえーい」
じっとしていたイスマが無表情のままピースサインを送ってきた。
喜んでいるようだ。
祭壇のような小規模の建築物なので、ここで儀式でもするのだろうか。
デザインがほとんど落書きだが、そこは芸術家がうまくやるであろうと丸投げしておいた。




