第72話 はじまりの思い出
「ハクア」
「?」
「ボクの名前はハクアだよ。ハクアージュ・クロゥニア。よろしく」
「あ、はい。僕はカデュウ。カデュウ・ヴァレリィです。よろしくお願いします、ハクアさん」
それがカデュウとハクアの出会いであった。
新人冒険者となったカデュウの、最初の指導者となった女性。
美しく長い白髪が特徴の美少女だ。
神秘的な容姿でありながら話しやすく、優しくて、そして人見知りでぼっち体質という、不思議な人柄の少女だ。
歴史を語るのが大好きなハクアによって、カデュウもよく聞かされている。
遺跡探索者のハクアは豊富な歴史知識を持っていた。
「僕はタック。正しそうなものの味方、吟遊詩人のタック・ウェインだ! もちろん愛らしいお子様じゃなくて勇敢なるホビックなのだ!」
もう一人の最初の仲間、タック。
ハクアの旅の仲間だというタックは、とても賑やかで面白いホビックだ。
いつも冗談ばかり飛ばしていたが、いざという時には、しっかり頼れる先輩の顔を見せていた。
この2人と共に、南ミルディアス地方の故郷ル・マリアから船で旅立った。
行先は、自由都市ファナキア。
冒険者ギルドの本部がある、冒険者の街。
この街で、遺跡探索の依頼を引き受けたカデュウ達は、問題の遺跡、パネ・ラミデの祭壇へと向かった。
その時の情勢は緊迫しており、ハクアの親友のキティアーク傭兵団から団長と副団長の2名を雇い、護衛としなければならないほど、危機的な状況。
魔物達を倒しながら進んだ遺跡の中で、邪神アティラの信徒達と戦い――。
パネ・ラミデの祭壇に封印されていた遺物が動き出した。
遥か太古の創世期、神話時代と呼ばれる神々の時代。
その時代に神が人に与えたという神の遺物の一つ。
【原初の旅】と呼ばれる、“世界の鍵”。
「“世界の鍵”とは、古の時代に生み出された神々の遺産。法則すらも変容させるという、……簡単に言えば物凄く強力な術みたいなものだね」
ハクアが残した言葉。“世界の鍵”に関するもの。
徹底した隠蔽によって、表の世界ではほとんど知る者がいないという。
そして、“世界の鍵”を求める者達は、とある組織によって闇に葬られると――。
カデュウは、そう教わっていた。
“聖なる闇”教団。ハクアと因縁があるという、この闇の組織もまた、パネ・ラミデの祭壇に来ていたのだ。
遺跡での戦いの最中に暴走した【原初の旅】が動き出し。
そして、たまたま近くにいた新人冒険者を捕らえた。
――そう、カデュウだ。
【原初の旅】によって、強制的にどこか知らぬ場所へと、転移させられてしまう。
「――カデュウくん。……もう会えないかもしれないけれど、ほんの少しの間だったけれど。キミといた日々は、とても、綺麗だったよ」
ハクアの最後の言葉は、今でもカデュウの心に残っていた。
涙を零しながら、勇気づけようと微笑む、その美しい顔と共に。
「――とまあ、このような事があったんだよ」
長くなってもいけないと思い、大分はしょって語ったのだが、感慨深い印象的な場面ばかりになっていたかもしれない。
「まだ、あれから1カ月程度しか経ってないのか……。元気にしてるかな、2人とも」
眩しそうな表情を見せるカデュウ。
「つまり、そいつが昔の女か」
「いや、そういうわけでは……」
「私の前の指導者だろ。そいつが戻ったら私が用済みになってしまう! 敵だ!」
妙な心配をして、ソトは捨てられたくない病を発揮する。
「どこが、その女のハウスだ!」
「冒険者として旅をしているので、ハウスにはいないんじゃないですか?」
そもそもハウスを聞いて何をするつもりなのか。
「ふふーん。すでに依存関係にある私は余裕ですよー」
大変誤解を招く言い方で、アイスが自慢げに誇る。
「いつの間に、そんな倒錯した関係に……、女の子同士で……」
ソト師匠が口をあんぐりあけて驚いていた。
「いや、そういう関係ではないですので! 女の子でもないですので!」
「慌ててる。これは怪しい、かな?」
ジト目でユディに睨まれる。
でも、少なくとも女の子でないのはガチなんです……。
「私だって家族です。子供の頃からずっとね?」
「そんなことで張り合わなくても」
むっとした表情でクロスがアイスと向き合う。
「私だって依存してるし、師匠だし!」
「師匠は依存というより寄生……、呪いの仲間みたいなものでは?」
「またナチュラルに毒を吐く……。その呪いはもう解除不能になったからな!」
永久寄生宣言をして、ソト師匠はぷいっと、ご機嫌斜めのサインを出す。
そして、ちらっちらっ、とカデュウの方を伺っていた。
仕方がないので頭を撫でるとすぐにご機嫌な表情でくつろぐ。
「……一夜を共にした関係?」
「いきなり変な事言うのはやめてね、イスマ」
しかも嘘は言ってないから困る。
もうそろそろ寝ないと睡眠時間がまずいし、話の流れが怪しくなってきたので解散してもらいたい。




