第71話 幻想の試練
「ルチア様。その試練とは、まさか……?」
驚きの声を挙げたのは、これまで沈黙していたネイム。
「貴方達が呼び出す事も出来なかった、かの地に眠る“幻想”を鎮める事。それならば、部族の若い子達も納得出来るのではなくて?」
「部族の実力者達が皆、資格すら持てなかったのです。達成したのならば文句などつけられないでしょう」
ネイムの反応からして、何やら難しい試練らしい事は伝わってくる。
ただの新人冒険者に、難易度高い事を要求されても困るのだが。
「……なるほど。貴方の願いとも合致する、というわけですな」
「ただ、幻想のあるがままに。私には、それ以外の目的なんてないもの」
「……しばし、待たれよ」
長老とダークエルフの長達が協議し始めた。
その間にと、カデュウは真後ろの知り合いに挨拶をしようと、椅子を立ち上がり振り向いた。
「ルチアさん、まさかここで貴方にお会いするとは思いませんでした」
「ええ、そうね。新しいお友達、カデュウ。エルフはより幻想に近き者。この辺りは私の領域なの」
「以前会った、私によく似てる美人さんだな。元気にしてたか?」
「ソトには髪の色ぐらいしか似てないですよ。少しだけ私に似てるのです。えっへん」
君達、どっちも似てないと思うよ。なんでそんな自信満々なの。
「ええ、元気よ。……確かに貴方達とはいくつか共通点があるわね」
「性別は共通してますね」
頑張って共通点を探してみた。
すぐに協議が済んだらしく、長老達が再びカデュウ達に向き合った。
「ルチア殿の試練を果たしたのならば、我が部族は聖地を魔王様に返上し、また、魔王様の御意志に従う。それで良いな?」
「魔王軍という過去に複雑な想いを抱く者もおりますが、魔王様に認められルチア様の試練を潜り抜けた者とあらば異論は出ますまい」
長老側の話はまとまったようなので、カデュウはルチアの方に身体を向ける。
「その、試練とはどのような……?」
「それは、その時のお楽しみ。配役は私が指定するわ」
配役? つまり何人かで行うという事だろうか。
だが、尋ねても答えてはくれないらしい。
「準備に時間がかかるから、それまでは好きにしていて構わないわよ」
「いつ頃の事なんでしょうか? それに合わせて予定を……」
「それもあなた達次第。時が来たら、あなた達の前に再び現れる。その時が試練のはじまり」
日程も不明らしい。
なかなか困ったスケジュールだ。
「なんだかよくわからんな。要するに儀式魔術みたいなものか、条件がいろいろ必要、みたいなタイプの」
「そんな所ね、小さな変わり者の魔術師さん」
「つまり私達は、気にしないで普通に暮らしたり移動したりしてて大丈夫、ってことです?」
「そう。試練の前には私が知らせるから、心配しなくていいわ。黒髪ちゃん」
手の平と指で妙な動きを見せながら、ソトとアイスにも答えていく。
肝心な事には触れずに。
「わかりました。それでは、つまり。試練が終わるまで、フェアノール族との関係はお互い不干渉、という事でよろしいでしょうか?」
「わたしゃそれで構わん。お前ら長達も構わんな?」
「長老の意思に従います。時が来るまで保留、という事で……」
ひとまずその試練というのが終わるまでは、話は進まないらしい。
後は時を待つだけのようなので、カデュウ達の用事は終わりだ。
「了解致しました。それでは、客人達はお帰り頂くとしましょう。私が案内を致します」
「いやあ、別に私がいるから大丈夫ですよ、ネイムさん?」
「形式というものがあるのだ、リーブル」
席を立ち帰還しようとするカデュウを手で止めて、長老が優しく笑った。
「では、最後に。カデュウと申したか。……魔王様に宜しくの」
「……はい、長老さん。確かに、お伝えいたします」
ひとまず交渉は終わり、カデュウ達はフェアノール族の集落を離れた。
保留という成果を得て、開拓地アルケーの村に帰還したカデュウは、いくつかの報告を受けて、建築などの進捗を確認して回っている。
木材の乾燥待ちに加え、石材の加工中というのもあるが、まだ測量や基礎作りが主体なのでさほど進んではいない。
現時点で指示する用事はないのだが、次のエルフ族との交渉の前に、一晩休んでから出発する予定だ。
足音と気配がする。その独特の癖からして、部屋にクロスが訪ねてきたのだろう。
わざと特徴的な足音を立てて知らせる、先生と修行していた頃の合図。
「こんばんわ。ねえ、今日はこれから時間ある?」
「うん、大丈夫だよ、クロス。後は寝るだけだから、少しなら」
「カデュウは転移事故にあってここに飛ばされたって言ってたでしょう?」
「その前の、冒険者になったばかりで、どうしてそんな事になったのかを聞きたいなって」
クロスの頼みで、カデュウは新人冒険者となってからの思い出を語り聞かせる事になった。
「ほうほう、それは詳しく聞かなくてはね?」
そのような話に興味を持ったのか、あるいは暇なのか。
ユディやソト師匠にアイスやイスマまで、皆が勢ぞろいしている。
そんなに面白い話じゃないんだけど。
「師匠の私に隠し事は良くないぞ? なんでも打ち明けるがいい」
そんな後ろめたい事でもないんですけど。
「それじゃ、僕がここに来るまでの話をしましょうか」
懐かしき、ほんの少し前の、――綺麗な思い出を。




