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第70話 フェアノールの長老

  黒き原生林の集落、その中心部。

 一際大きな黒檀の木が、塔のようにそびえ立っている。

 その内部、自然に出来た空洞に、長老と4人の長が集まるテラスがあった。

 長達は様々な感情が入り乱れる視線をカデュウ達にぶつけてくる。

 案内を終えたネイムが席に座り、フェアノール族の会議が始まった。


 まずは額に目を持つ老婆が、カデュウ達に語り掛ける。

 ゆっくりと。しかし、はっきりと聞こえる声で。


「外の者共よ、話は聞いた。わたしゃがフェアノール族の長老と呼ばれる者」


「そして」


「かつての名を魔将フェアノール。魔王城周辺の防衛を任された、魔元帥ベルベ・ボルゼ様の配下であった者」


 いきなりもたらされた衝撃の情報に、カデュウ達は驚愕した。


 ――魔将。

 方面軍司令官の役目を果たす魔元帥、その手足となって部隊を指揮したという、魔王軍の将軍。


 なるほど。魔王軍でダークエルフを率いていたのならば、魔将であっても不思議はない。

 しかし、まさか、現役の魔王軍残党と会う事になるとは、まったく想像していなかった。


「ちょっと、リーブルさん。聞いてなかったですよ」

「あれ、そうでしたか? ……言ってなかったかもしれませんね?」


 ひそひそ声でリーブルを糾弾するカデュウ。

 言われたら何か変わる、というものでもないのだが。

 心の覚悟などもあるので、出来れば事前に知りたいと思うのは人情だ。




「驚いたじゃろうな。わたしゃは魔王様がお倒れになった後でも、ずっと生き残り続けていた」


「だからのう、外の者共よ。……その真贋は見極められるのだ」


 長老が椅子から立ち上がり、カデュウ達に顔を向ける。

 何をするつもりなのだろうか。


「我が、第3の目。魔王様より授かりしこの力でな」


「そこにそのまま座っておれ。嘘であれば処分するだけ、真実ならば……」


 額の目が開き、カデュウ達をその不思議な視線で包み込んだ。

 緊張と静寂の時が流れ、どうなるのだろうという不安も芽生えてくる。

 魔力的な気配は感じたが、身体には痛みも何もない。


「おおお……! これは、紛れもなく! しかも……なんじゃと? まさか」


 なにやら長老が意外な程、驚いていた。

 まずい事でもあったのだろうか。


「外の者、いや、そこのハーフエルフと黒き髪の少女よ。確かに、お前達は魔王様との契約を結んでおる」

「おお、なんと……真実でしたか、長老」


 そう相槌を打ったのは、男性のモヒカン頭の長。

 ……凄い髪形だ。

 というか、いつの間にか魔王との契約なんてしていたのか。


「すると、お前達の言った事が真実という事か。魔王様は封印されておるが、今も城に居られると」

「その通りです、長老さん」

「我らが聖地と定めた魔王城、その周辺は元々魔王様のもの。なれば、我らが口出しする権利も道理もない。預かりしものを、お返し致そう」


 長老の言葉に、安堵したカデュウは、この先の交渉も上手くいけるかもしれない、と考えていた。

 だが、先程のモヒカンの長が長老の言葉に異を唱えた。


「しかし、長老! 私達の聖地、禁域として代々守ってきた場所ですぞ、それを……」

「わたしゃが他のエルフの長老と協議し、かの地を貰い受けたのは、預かる為。それ故に、かの地は禁域として、部族の者にも滅多に近寄らせなかった」


 だから、魔王と出会った者がいなかったのか。

 長老の主張はまだ続く。


「しかし、本来の持ち主は魔王様。お預かりしていたものを、お返しする。それに異を唱えるか?」

「いや、その……。部族の者が、それだけで納得しますかどうか……」


 威圧感たっぷりに第3の目が開く。

 長老に捲し立てられ、モヒカンの長は歯切れを悪くしながらも反対意見のようだ。


「お前のように、か。道理はともかく、感傷は確かに割り切れんか」

「魔王様に返上するというのは、ともかく。そこに我らを差し置いて、他所者が街を建てるとなると……」

「ふむ……。良くは思わんだろうな。争いの種になりかねん」


 そう言われると、カデュウにも納得が出来る。

 やっぱり唐突に表れた余所者が、先祖代々守ってきた聖地に勝手に街を作っていた、なんて知ったらいい気分はしないようだ。




「ならば、私が試練を課しましょう」


 音も無く、いつの間にかカデュウの後ろに、その声の人物は立っていた。

 いまだ明るい時刻、昼過ぎの時間。

 思いもよらぬ再会を果たした。


「おお、ルチア殿。こちらに来ておられたか」

「……貴方は」


 この世のものとは思えない淡く幻想的な美女。

 ルチア・スパルト・ヴァイスゼールトが、そこにいた。


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