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第68話 南の森のダークエルフ

 クリーチャー傭兵団のダークエルフ、リーブルに案内されて向かった古の大森林南方地域は、黒い木々が幾重にも交差する、自然の迷宮のような場所であった。

 今回カデュウに同行しているのは、リーブルの他に、ソト、アイスのみだ。

 予定のメンバーに加え、アイスが行きたがったので増員となった。

 希望するだけで参加出来るのだから、実にフリーダムな体制である。


「これが黒檀の木ですか?」

「ええ、見るのは初めてでいらっしゃいますか? この地域のものは、特にエルブンエボニーとも呼ばれる特殊な品種だそうです」


 歩きながらじっくりと眺めるカデュウに、リーブルが答えた。

 くねくねしていたり、ねじり曲がったり、なんとも不可思議な光景だ。

 城付近の原生林も見事なものだったが、こちらも負けていない。


「一口に黒檀と言っても、色々あるんですか?」

「他の木々でも地域によって若干性質が変わってきたりしますよ。環境が違えば育ち方も異なるのかもしれませんね」


 種類が同じなら、どれも似たようなものなのかと思っていたカデュウにとって、それは驚きであった。

 しかし、野菜なども地域差が出るものなので、そう考えると納得である。


「沢山ありますね……、少し欲しいですね、希少な木材ですし」

「少しぐらいなら持って帰ってもいいんじゃないでしょうか、交渉が上手くいけば、の話ですが」

「エルフって木を切っても怒らないんです?」


 カデュウも同じく思っていたアイスからの疑問に、リーブルが返答する。


「森で世界を埋め尽くそう、とまでは考えていませんからね。少し使うぐらいなら全然かまいませんよ、手を出さなくても自然に倒木したりもしますし」


 リーブルの話を聞き、カデュウは顎に指を添えて考える。


「それなら、エルフ側で木材を提供してもらって、それを僕達が商品として加工し取り扱う事で、エルフ達にも外の世界の物資を渡したり、何らかの代価を渡す事で、互助関係が築けるかもしれませんね」


 もちろん木材だけでなく、森の産物も色々とある。交易品となるものは無数に存在するだろう。中には森の外では手に入りにくいものもあるだろう。

 エルフが他種族と交流したくないならば、その仲介役を務めるのだ。

 互いに利があれば、上手く共存していけるだろう。


「実際、キルシュアート族の交易所では木々も交易品として取り扱っていると聞いています。他種族に勝手に荒らされるよりは自分達で剪定や伐採をした方がいいのでしょう。そういうのを趣味にしてるエルフの老人もいますよ」

「うちの祖父も似たような事やってました。エルフさんも同じなんですねー」


 しみじみと頷くアイス。

 出発前も同じような話は聞いていたが、キルシュアート族はすでに他所の人々とと交流しているらしい。

 つまりエルフも、森の外の品は手に入るのならば欲しい、という事だろう。


「他のエルフ部族は、人と交易みたいな事はしてないのですか?」

「していませんね。排他的な我がフェアノール族は、接触している人の国家とは戦争になった事もありますし」

「戦争があったのですか?」


 そんな話ははじめて聞いたので、カデュウは驚いた。


「ええ。森林南方の出口側にはゴール・ドーンという大国がありまして。この国が何度か圧力をかけ、攻め込んできた事もあります。痛み分けで終わっていますが」

「大国を撃退出来るとは、凄いですね」

「相性が良かったのですよ。ゴール・ドーンは魔術国家ですが、ダークエルフは術への抵抗力が他種族と比べて遥かに強いのです。それに相手も本腰ではなかったようですしね。……全力で来られたらさすがに厳しい」


 ゴール・ドーン。

 南東に位置するイルミディム地方にある大国だ。

 ミルディアス帝国の後継を名乗る国の1つであり、ミルディアスと同じく魔術大国として知られている。

 大陸の魔術師ギルドとは別に、独自の魔術組織があり、この大陸でも珍しい魔術師の学校があるという。


「さて、そろそろ到着です。案内人がそこに来ていますよ」


 気配を感じ、木々の上を見上げたカデュウ達に、ダークエルフの女性が弓を構えて威嚇してきた。


「止まれ。貴様ら、ここに何の用だ」

「お久しぶりです、ケリンさん。私ですよ、リーブルです。後ろの方々が、貴方たちと話がしたいというので案内しました」


 いつもどおり、ニコニコとした笑顔を張り付け、リーブルが前に出る。


「なっ、リーブル? 帰ってきたのか……。まあいい、見張りの私が判断する事ではない、さっさと長老の所へ行け」

「ええ、ありがとうございます、ケリンさん。それでは」




 ケリンと遭遇した少し先には、エルフ達の住処があった。

 木々を利用した、不可思議で幻想的なエルフの集落。

 何人かのダークエルフ達や、普通のエルフがカデュウ達を見つけ、何事かと視線を向けている。

 その集落の入り口で立ち塞がったのは、先程とは別のダークエルフの女性であった。

 片刃の剣を抜き放つその姿は、少なくとも歓迎の意味ではなさそうだ。


「フェアノールを出た者が何をしに来た」


 威圧するような声色で、ダークエルフの女性が鋭く睨んだ。

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