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第64話 ソト師匠、はじめての授業

 剣戟の音が響く。アイスとユディの戦いは拮抗したいい勝負であった。

 傭兵団の訓練の一環で、模擬戦を行っているのだ。

 せっかくなので、冒険者組も参加させてもらっている。


 先程ボッコボコにされたカデュウは、横になりながらこうして観戦をしていた。

 犯人のクロスは、涼しい顔をして隣で紅茶を飲んでいる。

 昔よりずっと強くなっているじゃないか……。さすが先生が認めた才能だ。


「やりますね、ユディ。こんなに長く戦ったのは久々です」

「不思議な剣術だね、アイス。面白い動き」


 普段のほほんとしてるアイスが、ユディと互角に渡り合っていた。

 緩急の動きと多彩な空中戦法、それに変幻自在の投擲を加えたユディの複雑な攻撃に対し、アイスは体捌きと1本の剣のみで対処しきっている。


 ユディの動きを表すならば、動にして静。

 激しい動きの中に、どこかカデュウと似た意表の突き方を隠し持っている。


 だがアイスの動きは、その逆。静にして動。

 ゆっくりとした佇まいから、一気に加速した動きで高速の斬撃を放ってくる。

 かといって止まっているわけではない。

 縦横に移り変わる不可思議な動きを見せてくる。


 アイスにナイフを投げた直後に、再びユディが跳躍して、アイスを上下2面から同時に攻撃する。

 避けずにそのまま迎え撃つアイス。


「秘剣エンピ」


 アイスの横薙ぎに振るわれた片刃剣が、向かってくる投げナイフを瞬時に叩き落とし、そのままの勢いで軌道を変え空から襲い掛かるユディにあてた。


「あいた」


 命中した箇所が脚だったが、模擬戦なのでこれで1勝となる。


「はい、ユディの負けな。じゃ、次の奴らー」


 ゾンダがテキパキと進めていく。

 しかし、妙な軌道の剣技だった。



 

「凄い! 2人とも凄いよ!」


 アイスがここまで強いとは予想外だった。

 一緒に旅をしてきたが、あまり直に戦いぶりを見る機会が無かったのだ。


「むー。勝ったのは私なので、私を褒めるべきなのです」

「むむ。大体互角だったんだから、私も褒められるべき」


 何やら大人げない争いが、アイスとユディの間で勃発していた。


「それなら、カデュウに勝った私も褒めるべきでしょう?」

「クロスは心の中で褒め称えたよ」

「ずるい。なら私もカデュウと戦う」

「じゃあ、私も私も!」


 なんなのだ君達は。いじめか。

 すでに全身が痛いのに、そんな事が出来るわけがない。


「弱っちい僕を倒しても意味がないので、君達3人で決着をつけて下さい」

「それじゃあ、勝ったアイスと私が戦いましょう」

「その後は、私がクロスと、だね」


 同世代の女性剣士だから、お互いライバル視しているのだろうか。

 最近、張り合う傾向が出てきた。

 ユディは剣士っていうか、ナイフとか色々何でも武器を使うんだけども。


「むきー! 今のは疲れていたからです!」

「はい、アイスの負けな。ほれ、次ー」


 平和な争いであった。

 何度か戦った結果の戦績は大体同じぐらい。

 ややクロスの戦績が上となるが、誤差と言って良いだろう。

 才能が無いカデュウからすると、とても羨ましい。




 次はソト師匠による、はじめての師匠らしい特訓の時間だ。


「ついに、名ばかりの師匠から卒業する瞬間ですね。感動です」

「カデュウはまず、ナチュラルに毒吐くのをやめようなー。師匠の教えなー」


 はじめての授業は余計な一言を言うな、という内容であった。


「さて、それじゃあパーティでの立ち回りを教えていくぞ」


 師匠の授業に参加しているのは、カデュウの冒険パーティ全員だ。

 後衛であっても必要な事なので、イスマも参加している。


「簡単に言うと、味方にとってそこに居て欲しい、と思う位置に居る事。これが基本にして極意だ」


 内容こそ短かったが、これを実践するのはとても難しい。

 刻一刻と変化する状況に合わせて、常に自分の都合だけでなく、味方の動きをその癖も含め予測しつつ行動する。

 お互いに慣れた者同士なら、呼吸を合わせて本能的にこなせるのかもしれないが、それを理論的にマスターしようというわけだ。


「つまり、味方を助ける位置、味方を邪魔しない位置、そういうものに気を配る必要があるわけなのだよ。好き勝手にやってたら、知らぬ間に邪魔になってる事も少なくないんだぞー」


 例えば射撃で援護をしようとしたときに、射線に味方が割り込んで来たら、物凄く邪魔になる。

 下手をすると誤射で味方殺しだ。


「多対多の戦闘の場合は特に重要だ。意識的に動きを覚えておく事で、上手く数的有利を作れば、相手がこちらより強くても勝つ可能性が高まるぞ」

「うちの団は、この辺の連携が完璧なのが強みなんだよ」


 ソトの理論を、ユディが裏付けるように傭兵団での実戦を語る。

 個々の超人的な強さに加え連携まで完璧とは、さすがである。


「はい、それじゃー、実際にゆっくりした動きでやってみろ。状況ごとに、どういう選択をすれば良いのかを体で覚えるんだ」


 ぎこちなかった動きが、ソトが指摘する度に、連携が綺麗になっていく。

 凄く実戦の役に立ちそうな、師匠の教えだった。

 最強傭兵団の部隊長だけの事はある。

 指揮能力の高さに加え教え方も上手かった。


「さすがです、ソト師匠!」

「……ししょーにはじめて教わった。かんどー」

「うむうむ、もっともっと褒めるのだ。偉大なる天才を!」


 ソト師匠は大変ご満悦でドヤ顔を晒しておられる。


「しかし、カデュウが入ると全体的に連携が良くなるな、逆に抜けるといまいちだ」

「複数人で戦う時はサポートに徹して仲間が戦いやすいようにしろと、先生から教わりました」


 ソト師匠から指摘されて、昔の事を思い出した。

 お前は才能が無いから人を使えと口を酸っぱくして言われたものだ。

 当時はクロスしか味方はいなかったのだけど。


「昔からカデュウと一緒に戦うと、やりやすかったのは覚えてるね」

「うむ。位置や仕掛けるタイミングなどが絶妙だな。常に相手が嫌がるように、味方に有利なように動いている。さすが私の教え子だ!」


 ほぼ先生から教わった事なのだけれど。

 師匠が嬉しそうなので良しとしよう。

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