第59話 これなるは少女を救うための物語 6
「ふん、天才魔術師の最高に効率の良い魔術に驚いたか、クズ共め。おかげで魔霊石が減っちまったじゃないか、クズ共が」
輝いていた瞳が静まり、いつもの調子でカデュウ達に振り替える。
「ソト師匠! 凄い、凄いです! 本当に魔術が使えたんですね!」
「そうだろうそうだろう。んむんむ。もっと褒め称え……ん? 本当に使えたとは、どういう意味かな、カデュウくん?」
「いや、だって。一度も魔術を使ってる所、見たことなかったですし」
ご機嫌な表情から、一転して不機嫌なものへと変化するソトに、カデュウは真顔で答えた。
「ぐぬぬ……。魔霊石が勿体ないんだよ。天才なんだぞー、もっと崇めろー」
「ソトは凄いよ。こんなちびっ子なのに、うちの団の部隊長の1人だから」
「ちびっ子は余計だ、ユディ」
「本当。凄い魔術でした、レディ・ソト」
丁寧な口調でクロスがソトを賞賛する。
「ありがとう。レディなんて照れるなぁ~。まあカデュウに買って貰ったこの服のおかげで、大分効率が良くなったよ」
「服……?」
ぴくり、とクロスが反応した。
悪の魔術師の如きその服が役に立ったのなら、買った甲斐があるというものだ。
高い金額だけれど。
「びっくりしましたよー。もー、僕達の活躍の場がなかったじゃないですか」
「そうだね。運動不足。合図なんてする気なかったでしょ」
冗談めかした口調で、アイスとユディが理不尽な文句をつけていた。
落ち着いた口調とは裏腹に、好戦的な子達である。
「しかし。……あの調子こいてた軽薄野郎は逃げやがったか」
「クース・ヌトレ、って名乗ってましたっけ。言うだけ言って居なくなってますね」
「やべーやべー。さすが最強傭兵団は格が違うわ。最弱の俺らでも薬漬けにしたり、アンデッドで再チャレン~ジなんてやりゃ、少しは戦いになると思ったら。とんでもねえ。団員全員怪物かよ」
最初のゴーレム化を見た瞬間に、即座に逃亡を選んだクースは、幾度もこうして鋭い嗅覚で仲間を犠牲にする事で生き延びてきた。
クズを煽り戦わせ、クズを盾に生き延び続ける、クズの中のクズ。
それがクース・ヌトレという男である。
「いやいや、クズ共1000匹ぐらいじゃ足りなかった。特にあのチビはやべー。うちのクズ共じゃ、相性最悪だぜ」
軽薄な薄ら笑いを顔に張り付けたまま、クースは話し続ける。
まるで、誰かに聞かせるように。
「ま、報酬分の仕事はした。少しは楽しめたかい、依頼人さんよ」
言葉と共に、輝きを失った魔霊石を放り投げた。
返事はない。
誰もいないのだから当然だ。
「クズ共が何匹死のうが知ったこっちゃねえ、それがクズの生き様ってもんよ」
どこかに向かって1人走る。
軽やかに段差や障害物を飛び越えていく。
「くく……、世の中を引っ掻き回して、斜めに見るのは楽しいねぇ」
カデュウ達が馬車へと戻ってすぐに、誰一人欠けることなくクリーチャー傭兵団も帰ってきた。
それどころか副団長であるメルガルトが、フェイタル帝国軍の兵糧の一部を貰ってきていた。
本来は情報を集めようとしたのだが、敵が発狂していたりゾンビになっていたりで話を聞ける状態ではなくなっていたらしい。
「あの感じじゃ、帝国軍から手配はされてなさそうだな。敵の指揮官は別に興味ねーって顔してたぜ。つーわけで、用事があるなら街に入っちゃえよ」
雑な見立てをするゾンダだが、多少リスクはあるとは言え、カデュウらにも用事があるので街に入る必要があった。
「それはよかった。村の開拓に参加してくれる人が待ってるんですよね、あとお金を引き出してこないと」
「ああ、報酬の金はいらねえ。代わりに、そのうち傭兵団の拠点でも建ててくれや。稼ぐ為の資金が無くなっちまったら開拓も出来ねえだろが」
思わぬ侠気にカデュウの頭が下がる。
「は……はい! ありがとうございます、ゾンダ団長!」
「それに、あの金食い虫の代金払ってくれてるだけで、十分助かる」
「ん?」
くるりと振り向いたのはソト師匠。
うん、立派な金食い虫だ。
「ささ、ゼップガルドの街に行って、用事を済ませましょうか」
「え? ああ、そうだな」
ソトを馬車に押し込んで、カデュウはクロスに手を伸ばす。
「クロスも一緒に行くよね?」
「もちろん。私に残された家族はもう、カデュウだけ。ふふ、私も冒険者登録、しなくっちゃね」
「うん。やっと、約束が果たせる」
伸ばされた手を握りしめ、クロスは馬車へと乗り込んだ。
まぶしいぐらいの微笑みと共に。
「中々、楽しそうなお相手になりそうです」
「そだね。クロスって言ったっけ。暇になったらアイスも含めて、遊ぼっか」
好戦的に目を輝かせる前衛組は、クロスに狙いをつけたらしい。
……見事に前衛ばかりだ。偏りすぎている。
金食い虫さんは金がかかるし……。
「しばらくはゆっくりのんびり、街作りかな」
「……おー、がんばろー」
「やる気があるんだかないんだかわからんね、イスマは」
さっきまで寝てたイスマが、寝ぼけた顔で腕を突き上げた。
馬車を走らせながらシュバイニーは苦笑している。
「ふうん、街を作ってるの? 面白そうな事してるじゃない」
「ああ、そうだね。クロスにも伝えなきゃね、――ここまでの物語を」
それは、世界の観察者。物語の鑑賞者にして編纂者。
それは、世界に潜む闇。影より干渉するストーリーテラー。
店主。全ての物語を愛する者。
それが悲劇であろうが、喜劇であろうが。
そう、全て。
「物語は、生まれる。偶然、必然、そしてちょっとした悪意によって」
「例えば、そう。如何にして難攻不落の城を1日で陥落せしめたのか、とか」
「例えば、そう。傀儡の王の小国が異質な宰相によって地方の覇者に、とか」
「例えば、そう。家族を殺された者が、隣国を繁栄させ、母国に復讐を、とか」
「例えば、そう。盟約を守る者と、全てを許されし者が起こした喜劇は、とか」
「例えば、そう。白い髪の少女が向かった地で起きた悲劇は、とか」
「例えば、いつの日か。とある狂乱の王が、とある古の都を見つけたならば、とか」
「物語は、生まれる。まったくの偶発によって。糸が絡み合って」
「あるいは、そう。――我らによって」
店主は敬虔な信徒のように手慣れた動きで祈る。
そして、薄っすらとした笑みを浮かべた。
「さてさてさて。物語の神ジオールは、どれがお気に召したかな?」
「あるいは、どれもお気に召さなかったかな?」
「――これなるは、物語るための物語。ジオールに捧げる物語……あるいは」
これにて1章終了です。
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