第58話 これなるは少女を救うための物語 5
じわりじわりと、嫌らしい笑みを浮かべ距離を詰める野盗のような男達。
隠れ潜んでいたのだから、無傷で体力もあり余っているだろう。
今までと違い、理性のある生きた人間らしい。
対して、カデュウもクロスもここまでの連戦と走り続けた強行軍で、軽傷とはいえ手傷もあるし疲労困憊だ。
「数が、多すぎる……!」
アイスやユディもいるが、数百は数えられる敵に対処しきれるかどうか。
不安がカデュウの口から洩れる。
「私達だけでは、ちょっとまずいです……」
「後退しながら、耐えて援軍待ち、かな」
厳しい表情で見つめるアイスやユディの言う通り、後退すべきだろう。
その場合でも疲労の極致にあるカデュウらが足手まといとなる。
それでもこの場で戦い続け、敵に分断され各個撃破されるよりはマシだ。
「ほらほら、どうしちゃったのかな~。びびっちゃいましちたか~、怖いでちゅか~?」
高台の男、クースピークスの団長を名乗る男から、煽りが飛んでくる。
絶対有利にあると確信している舐め切った表情。
「安心しなよ、みんな殺しはしないからさ。俺達は優しいんだぜ? ちゃーんと楽しく遊んだら、奴隷商人のおじさん達に売ってあげるからさ。高く売れるぜ?」
クズを名乗る男の、クズらしい宣告が響く。
――その時。
「そうか。……ならば、遊んでやろう」
――光が。その瞳から、光が漏れ出ていた。
――碧眼の輝き。
小さき人。プラチナブロンドのホビック。
ソトが、カデュウ達の前に出る。
「ソト師匠!」
「私に任せろ。合図をしたら、アイスとユディは斬り込め」
「わかった」
「ふむむ? 了解ですー」
「それまで、動くなよ。――決して」
いつものように喋っているが、少し、いつもと違う。
「クズ野郎共、私のモノに手を出したな」
怒り。ソトの言葉の端から伝わる怒り。
歩き出す、敵に向かって。
――そして、魔力の波動。
ソトのその手に握る魔霊石が、輝きを、放つ。
「《与えよ、さらば求められん》」
「いいぜぇ……与えてやるぜ」
ニヤニヤと近づくクースピークスの集団。
そのうちの1人がソトを掴もうとしたのか腕を振るう。
だが、逆にその腕が掴まれる。
そして、男を掴んだガントレット、そこからも光が漏れ出す。
「《そは真理。そは胎児。ならば人か? いいや物だ》」
「お……うごぉ、げぶぁ……」
掴まれた男が、見る見るうちに変形していく。
「《ならば形は? いいや問わぬ》」
すでにして、人の形を留めていない。
男は、男ではなくなった。
「《人の生み出した人よ、汝は人にあらず》」
膨らむ。膨らむ。
その光景を目の当たりにして、同じく近づいていた者たちが、怯む。
「――【供物の人形現象】」
男だったはずの者は、変形し、膨らむ。形作られる。人から、人形へと。
その名はゴーレム。魔術にて命を与えられた自動人形。
ただ、そのゴーレムの材料は、人間だった。
フレッシュゴーレムという、肉で作られる種類のゴーレムだ。
しかし、本来は死肉を用いて作り上げるものであり、生きた人間をそのまま材料とする魔術などではない。
仲間の変質したその姿を見た敵達は、怯え混乱した。
未知なるものを恐れるのは人の性だ。
「貴様も、ゴーレムになりたいか」
「ひっ……た、たすけ……いやだ、いやだっ」
碧く輝くソトの瞳に気圧され、狼狽し逃げだした。
その男が逃げる姿を見て、他の者も慌てて逃げる。
しかし、ソトの振るう手には魔霊石が。魔力の源が握られていた。
「もう手遅れだよ、クズ共」
逃げた先の土が、木々が、次々とゴーレムと化していく。
悲鳴を上げ、我先にと逃げ出すクースピークスの暴徒達。
だがすでに、生まれ出でた多種多様なゴーレムがその周りを囲んでいた。
人型や様々な動物、鳥のような飛行物、そして怪物のような不定形の肉塊。
それらが一斉に襲い掛かり。
そして、一方的に蹂躙した。
数百を数えた暴徒達は、次々とゴーレム達に潰され殴り飛ばされ飲みこまれた。
「ほら、遊んでやるよ。楽しくな」
抵抗しても痛覚のないゴーレムには効かず、どこを攻撃すれば倒せるのかすらも彼らにはわからない。
前後左右、果ては空まで、安全な位置などなく。
とても、正常な判断など下せる状況ではなかった。
隣で奮戦していた仲間が突然暴れ出し、肉塊のゴーレムと化していく。
もはや、誰も、何も、信じる事が出来ない。
近づくものは全て敵として狂気に飲まれた者もいた。
人を生贄として魔力に変え、その魔力をリソースに、広範囲に渡ってゴーレム化現象を起こすという、脅威の大魔術。
最後には、巨大な肉塊の怪物が全てを飲み込み、そして大地へと消えていった。
「ああ、斬り込みの合図するまでもなかったな」




