第57話 これなるは少女を救うための物語 4
燃え広がる木々は、どこまでいっても変わらない。
自然に燃え移ったものではなく、明確な意図をもって、広く燃やされていると考えるべきだろう。
「くそ、うざってえな。なかなか進みやしねえ」
もう、どれだけ斬り捨て進んでいったのか、フルトの剣は真っ赤に染まっていた。
気が付けば、カデュウやクロスも剣を振るう必要があるぐらい、追い込まれている。
進めば進むほど、後ろからも飛び掛かってくる敵が増え、いつしか常に囲まれているような状態になっていた。
「カデュウ、こいつら段々身体能力が上がってない?」
「……うん。間違いなく、強くなってきてる」
次々と人間離れした動きで飛び掛かってくる、狂った兵士達。
切り結び防ぎながらも進まねばならぬ状況を強いられ続け、疲労が積み重なる。
そして、僅かなミスから、カデュウの対応が遅れた。
――まずい。
狂った兵士がその手に持つ槍が、カデュウの体に突き刺さる――。
というその時、遠方から飛び来る矢が、その兵士の頭を射貫いた。
次々、次々。何十となる高速の矢が、正確に敵だけに刺さっていく。
「やあ、大丈夫だったかい。後は私に任せて行くと良いよ」
「助かったっすよ、リーブルさん」
ダークエルフ、リーブル・レーラは場にそぐわぬ底抜けに明るい笑顔で、カデュウ達を出迎えた。
「あ……、ありがとう……ございます!」
疲れながらも礼をするカデュウに、リーブルは笑顔のまま支援で答えた。
その腕には、籠手に装着された弓が。
驚くべき速度で、指の間に挟んだ矢をつがえると、両腕を同時に引き絞り、8本の射出を可能としていた。
その矢はとても正確に、敵だけを射貫いていく。
一連の動きは凄まじき速さで、1人でありながら弓の雨を降らせていた。
その先で待ち構えていた斧を持つエルフ、エルバスが前方を片付けたカデュウ達に同行する。
「早く行きますよ、地味ヒューマン。私も途中まで付き添いましょう」
「地味じゃねえ、フルトだ!」
駆ける。駆ける。斬る。駆ける。
戦力の増加で大分スムーズに進むようになった。
「この調子なら問題なく、ユディ達と合流できそうだな。エルバス」
「そうですね、地味ヒューマン。合流したら、私達はそこで他の団員を待ちますよ」
手に握る戦斧を振り回し、次々に敵を斬り飛ばしつつ、エルバスはフルトに指示を伝える。
しかし、疲労は積み重なる一方だ。
服の付与魔術と薬物によって限界を超えて走り続けているカデュウも。
同じように駆け抜けてきたクロスも。
――魔術の気配。
その気配は、どこから発せられるものかまではわからなかったが、おおよその狙いぐらいはカデュウにもわかる。
この気配は、カデュウも僅かばかり習った魔術の系統。
行先に、倒れ伏していた兵士達。次々に、次々に。
立ち上がった。いや、蘇った。
――死霊術。
その主たるものは、死者の使役。
立ち塞がる不死の軍団がカデュウ達の行く手を阻んだ。
立ち上がる。起き上がる。蘇る。次々に、次々に。
「凄い数……、ありえない」
「こんな沢山、魔力が足りなくなるはず……。魔霊石を使った……?」
クロスと同様に、カデュウもまた驚いていた。
魔術をかじっている者として、この状態が非常識だというのはよくわかる。
100を超える兵士のアンデッド化。
その割に術者の姿はなく、短縮された詠唱すら聞こえなかった。
「ゾンビみてえな奴らだと思ってたら、本物のゾンビになっちまったぞ!」
「不浄な者共め……。予定変更です、フルト。突破したら、その場で止めますよ」
生きている人間と違って、アンデッドには痛みなどない、脚部などが破損しない限り、斬ってもかまわず動く。
斬っても斬っても、動き続ける。胴を両断しても上半身だけで動く。
アンデッドはカデュウに斬られながらもそのまま攻撃をしてきた。
生きている人間と同じ感覚で攻撃してしまった為に、避けきれず軽傷を負った。
攻撃と防御を同時に行わなくてはならないのだ。
先程の狂化していた者達と同じ事ではあるが、非常にやりにくい。
「よし、抜けた! お嬢ちゃん達! そのまま行け!」
「はい! フルトさん、エルバスさん、ありがとうございました!」
「ええ、お任せなさい。この程度なら私と地味フルトで十分です」
走り抜けた先には敵はいなかった。
死体の数も少ない。
突破出来た、という事かもしれない。
「カデュウ、こっち。みんな待ってる」
「ユディ!」
仲間の姿に安堵する。
ようやくここまで来た、と感じる。
身体がもう、動かなくなってくる。
服の付与魔術があっても、もうまともに動けそうもない。
――しかし、まだだ。
「あの子も、カデュウの仲間なの?」
「うん。今までの人達は協力してくれている傭兵団の人なんだけど、ユディは一緒に旅をしてくれてる仲間なんだ」
「へぇ……」
ユディの後を走り追いかけた先に、アイスやソトが待っていた。
このメンバーのいる場所が、作戦上、最も後ろとなっていた。
予定通りならば、これ以降は敵はほとんどいないはずだ。
「待ちくたびれましたよー」
「よし、無事に戻ったな、カデュウ。それじゃあ、さっさと行くぞ」
仲間達と共に走り出す、もう敵の姿はない。
もう少しだ、もう少しで馬車に辿り着ける。
「あの2人も、旅の仲間なの?」
「うん。黒髪の子がアイス、金髪ロリがソト師匠っていうちびっ子だよ」
「女の子ばかり……」
「誰が金髪ロリのちびっ子だ」
大分、会話に余裕が出てきた。これまでの強行軍の疲れが癒えていくようだ。
後は馬車まで戻るだけ……、そう考えた矢先。
「はい、おつかれくん。君達の冒険は、終わってしまったー! ……なんと、いま、ここでね」
視界の端の高台に映ったその男が、腕をあげたその時に。
周囲の森に潜んでいた、野盗の如き男達。
数百はいるだろうかという数で、周囲を埋め尽くした。
「希望持たせちゃって悪いねぇ~。俺はこのクズ共の集団、クースピークスの総長をやってる、クース・ヌトレっていうクズ野郎さ」
じわりじわりと近づいてくる、今までと違う、規律の取れた集団。
「クズはクズらしく、クズに相応しい下劣で下賤なやり方で、楽しく歓迎してあげちゃうからさ。ま、絶望の表情でも見せて頂戴よ」
下卑た表情で薄ら笑いを見せたクースが、右腕を振り下ろした。




