第52話 歴史の頁が動く時
……ん? なにやら外で声がする、少し騒がしい。
何か嫌な予感がする。
他の人はまだ起きないようなので、腰と首の呪いを引き剥がして、外に出てみた。
「その話、本当かよ? オイ?」
「本当だって。本当にたった1日で南部同盟5か国が滅亡したんだよ!」
……なんだって!?
あまり働いていなかったカデュウの脳が、一気に目が覚めた。
話していたのはゾンダと、傭兵と思われる見知らぬ男。
1日で、南部同盟が、滅亡!?
「そんな……。それじゃあ……」
「とにかく、俺はもう逃げるからな。あばよ!」
傭兵風の男は、そのままカデュウ達と逆方向へと走り去っていった。
すぐにゾンダの方に向かう。
「おう。起きたか、話は聞いてたか?」
「ええ、南部同盟が1日で滅亡したって……」
「そうらしい。と言っても俺らも傭兵とはいえ、戦ってたわけじゃないから、大丈夫だと思うけどな」
他の団員達も外に出てきていた。
先程、騒がしかったからだろう。
「ゾンダ団長。相談したい事があります」
「なんでえ。改まって」
「あ、でも、みんなが居た方がいいと思うので、ちょっと待ってください」
「おう、そう慌てるな。……朝食の準備してっからよ。まずは落ち着いて食べようや」
「はい、では起こしてきます」
朝食を終えてすぐ、仲間やクリーチャー傭兵団を前に、カデュウは気持ちを込めて語りだした。
「どうか、お力をお貸しください。僕の家族同然だった子を助けて欲しいのです」
必死に語り掛けるカデュウの気持ちが伝わったのだろうか。
全員の目が、より真剣な目つきに変わった。
傭兵としての仕事の話だ、という切り替え。
「その子の名前はクロセクリス・フォン・ルクセンシュタッツ、ルクセンシュタッツ王国の姫です」
少し前に滅ぼされたと報告のあった、ルクセンシュタッツの姫。
その意味するところを理解出来る者は、頼み事の重さも理解出来ていた。
何しろ、滅ぼした相手であるフェイタル帝国軍と事を構える可能性が高いのだ。
いかに最強の傭兵団といえど、大国の軍が相手では数に差がありすぎる。
「捕まっているのか、逃げたかはわかりません。国が滅びた、などとほんの少し前に聞いたばかりです。死んでいるかもしれません」
そもそも、本当に滅びたのかすらわからない。しかし、それを確かめている時間はない。
もしも真実だったとしたら手遅れになる。
「しかし、今ならばまだ間に合うかもしれません。どうか、僕に力をお貸し下さい」
「一応言っておく。俺達は拠点契約を結んだが、好きに使える傭兵としての契約じゃあない。そこはわかるな?」
「勿論です。それとは別に、傭兵団として雇いたい、という事です」
団の長として契約上の違いを説明するゾンダに、カデュウは明確に条件を伝えた。
「相場に見合うかわかりませんが、報酬ならば金貨2000枚お支払い致します」
「おい、カデュウ。それって開拓用の資金だろ、全部なくなっちゃうぞ」
「そうですよー、魔王さんに怒られちゃいますよ?」
「僕が全責任を持って償うよ。生涯を捧げようとも、命を捧げようとも」
ソトやアイスが心配する。当然かもしれない。
大切な資金を私的に使い込むのだから。
しかし。
約束は、守らなくてはならない。
クロスを、救わなくてはならない。
小さい頃にかわした、小さな約束。
だが、かけがえのない約束だ。
何があろうとも、出来る限りをする。それがカデュウの決心であった。
「気に入らねえ、が、気に入った」
その覚悟を感じ取ったのか、ゾンダはしかめっ面でカデュウを睨み、そして口元を歪めた。
「自分を捨ててかかるのは気に入らねえが、そうまでしても助けたいってのは気に入った。なあ、お前ら? フェイタルの奴らと一戦交えるかもしれんが、構わんよな? むしろ、戦いたくてうずうずしてるよな?」
傭兵団のメンバーたちを見据えて、ゾンダ・ゼッテは問う。
戦う意志はあるのか、と。
「副団長メルガルト、団長の指示に従う。気持ち良く働ける雇用主は久々だな、ゾンダ」
「儂にもあんな若い頃があったかねえ。たまにゃ人助けの仕事も良いじゃろ」
「もちろんっすよ、団長。弱っちい俺でわりーけど。こんな良い奴見捨てらんねえよ! カデュウちゃん可愛いしな!」
「当然だ。誇り高き者ならば、な。我が名はゴブリエル・ガーブン、並ぶ者なき最強のゴブリンなり。コーヒーの礼ぐらいはさせてくれ」
「私などでよろしければ、リーブル・レーラ、微力ながらお力になりましょう」
「ハーフエルフとは言え、同族だ。エルフがエルフを助けるのは当然の事です。エルバス・リンデベール、お助けいたしましょう」
「我が忠誠はゾンダ殿の下にあり。狼人、ベンゼン。共に戦う」
怪物が、人間が、老人が、若者が、ゴブリンが、ダークエルフが、エルフが、狼人が。
傭兵団の全団員が一丸となって賛同する。
「おう、それでこそ変人共の集まりだ。俺達を優しいなどと寝言抜かしてる雇用主様に目覚めの殺戮を見せてやれ。……さ、狩りのはじまりだ、楽しく殺ろうぜ?」
狂気を孕んだ独特の笑みを浮かべ、ゾンダの目が見開かれた。
「私も手伝うよ。団の一員としても、護衛としても、仲間としても、ね」
「無論、私もな。師匠たるこの私、天才魔術師ソト・エルケノに任せておけ」
当然、カデュウの仲間達も、また。
「……ん。人は、生きているうちに、助けるべき」
「そらそーだ。俺みたいにならんうちにな」
「私は斬る事しか出来ませんが、カデュウの助けになるなら、嬉しいですよ」
「ありがとう……。本当に、ありがとう」
かつてない感動に震えるが、カデュウの心は涙を殺してしまった。
それでも。嬉しさで胸は一杯になる。
「行こう、ルクセンシュタッツへ。クロスを救う為に!」




