第49話 ういぽっぽすたりおん
幸いにして、まだここの冒険者ギルドは汚染されていなかった。
せいぜい、可愛い子扱いされた程度である。それもどうかと思うけど。
その後はソトの探した宿でゆっくりくつろいだ。
ルクセンシュタッツの宿のメニューは、ラクレットチーズをパンや野菜やベーコンやソーセージなどにかけて、好きなように食べるというもの。
以前、父とこの地へ来た時も食べた事がある、この地域の伝統料理だ。
翌日に馬車と馬を引き取り、ミロステルンへの帰路についていた。
「いやー、凄く快適ですねー」
「……らくらくー」
馬車の座席に座るアイスと、馬車の中で毛布にくるまっているイスマが馬車の旅を満喫していた。
通常の馬車は物凄く揺れて座ってると痛くなるらしいのだが、この天才職人ルドルフ氏が作った馬車は快適性を重視した冒険者用の特別品。
整っているとは言えない山道でも、驚くほど衝撃が伝わってこなかった。
「お高いだけの事はあるね、うちの団でも買って欲しい」
「なんでうちの団はあんなに金がないんだろう、やっぱ団長がすぐ依頼主をころころしちゃうからなあ」
アイスの逆側に座っているのがユディとソト、馬車の御者はシュバイニーが担当している。
他に経験者がいないので、そのうち余裕がある時にカデュウらが教わる事になっていた。
「やっぱ黒の方がよかったよな~。栗毛なんてなよなよしてそうだぜ」
「……あんだと」
色の恨みは深いらしい。シュバイニーはまだぶつぶつと呟いている。
あの街は過去父と行った事があり、交易許可証も持っていたのでルクセンシュタッツを出る前に、交易品を買い付けたのだが、その時も黒がどうとか呟いてた。
購入した交易品は王家の印が入った宮廷醸造所のワイン樽だ。
父のコネを使って特別に金貨100枚分を売って貰えたのだ。
交易許可証とは、その国で行う取引時の関税を大幅に免除する為のもの。
通常2割の関税が0.5割まで引き下げられるという、商人の必須許可証だ。
この交易許可証は交易ギルドに料金を納めると共に、交易ギルドでの適正審査もクリアしなければならない。
しかし、モラルとルールの確認、商品知識などの簡単な審査なので、まともな商人ならばクリアは容易なものとなっている。
「ところで、その子名前つけたの?」
栗毛の馬を指差して、ユディはカデュウの顔を横目で見る。
「いや、まだだね。それじゃあ、みんなで名前を考えようか?」
何気なく提案をしたカデュウに、一斉に返答が返された。
「ローキック」
「ソエ」
「ヨゴフリョー」
「タルタロス」
……どれもこれもろくでもない名前な気がする。
「……タルタロスって何ですか?」。
「馬肉食べるのが好きな民族の名だ」
まともそうだったがやはりろくでもなかった。
その提案者シュバイニーの案は当然却下だ。
ちなみにローキックとか直接的な事をいってきたのはユディである。
「全部却下! もっとお馬さんを可愛がってあげて!」
「なんだよー、ソエいいじゃん。ハイセンスだろ?」
口をとがらせるソトが何か言っているけど、その名前は何かがいけないとカデュウの勘がささやいた。
「……カスタナ」
イスマからまともっぽい名前が提案された。
他はろくでもない案しかないし、これで決定だろうか。
「お前それ、毛色そのままの意味じゃねーか」
と思いきやシュバイニーからツッコミが入った。彼らの国の言葉だっようだ。
「じゃー、それにソエをつけよう! ソエカスタナ! なんか健康的で頑丈そうな名前だろ?」
……意外にまともっぽい響きだ。
しかし何故師匠はこんなにソエを推すのだろう、ソトと似ているからなのか。
ちなみにソエとは馬用語で管骨骨膜炎の事である。
お馬さんは大切にね。
「まあ面倒だし、それでいきましょうか、ソエ師匠」
「私はソエじゃない! ソト!」
「ローキック……」
なにかユディが呟いているが、ローキック案は通るわけがないと思うのだ……。
さすが馬車は早いもので、1日でミロステルンの街に帰ってこれた。
門が閉まっている時間に到着したものの、クリーチャー傭兵団がすでに門の外で準備を終えていたので、街に寄る事なく、そのままゼップガルドへと走り出せた。
クリーチャー傭兵団は総勢38名らしいが、自由行動をしていてこの場にはいないメンバーもいるらしく、集まっていたのは32名である。
この人数は主要傭兵団でダントツに少ないらしい。
「ユディはこっちの馬車で行くの?」
「団の馬車は乗り心地悪いから無理。私はもうこの馬車にしか乗れない身体になった」
見事にユディが堕落しているが、馬車の評判はとても良い。
見込んで買った側としても嬉しいものである。
しかし、信じられない程に揺れが少ない。
これなら割れる危険のある物も扱えそうだ。
去り際にルドルフ氏が、付与魔術付きのパーツを使った特別品だと自慢していたが、本当に凄いものであった。
金貨1800枚でも安い買い物だったのかもしれない。
「後はお婆さんと芸術おじさんを拾って、おうちに帰るだけです?」
「うん。やる事と言えば、仕入れた酒樽を売るだけだしね」
色々大変だったが、アイスの言うように、あとは帰って開拓を進めるだけだ。
欲を言えば建築関係の専門職人が欲しいところだけど、それは急ぎでもない。
まずは生活が出来るようにするのが最優先だ。




