第43話 天使のパスタを食べないでっ
「まさか、ユディまで加わるとはな。一応、冒険者登録しとくか?」
「そだね。どっちでもいいけど、そのうち1人で仕事探す事もあるかもしれないしね」
傭兵団のメンバー同士、ソトとユディが楽し気に会話していた。
同じ団の若い女の子同士という事もあって、元々仲が良かったのだろう。
といってもユディの方は、表情があまり変わらない。
いつの間にかイスマのおかげで、無表情の感情がなんとなくわかるように鍛えられていた。
「カデュウ、だっけ。私の事はユディで良いよ」
「うん。これからよろしくね、ユディ」
かすかに、微笑んでいる。
背の高さも同じぐらいだが、耳の長さもカデュウと同じく人間寄りだ。
見た目からはダークエルフと人間のハーフという印象を受ける。
「これで前衛3人ですねー、後衛いませんけど」
「なんてバランスの悪いパーティなんだ……」
自分達で選んでいるわけではないので仕方ないのだが、アイスの何気ない言葉にカデュウも同意する。
といっても開拓事情もあるので他所のパーティと違って、手あたり次第勧誘するわけにもいかなかった。
固定されたギルドで活動しないという点もあって、逍遥者しかメンバーになりえないのだが、旅する冒険者は元々数が少ないのだ。
どうしても出会いの縁というものが必要になる。
「この天才魔術師を忘れるなよー」
「あー、そうでしたね、ソト師匠。はいはい」
「なんか雑じゃない!? 私、要る子! 大切にね!」
ぷんぷんと自分で口ずさみながら頬を膨らませるソトは放置しておいた。
冒険者には大雑把に2種類のタイプがいる。
拠点を決めて、その周辺で行動する地域密着型――冒険者と、
拠点を持たず、旅をしながら依頼をこなす諸国漫遊型――逍遥者だ。
放浪者と呼ぶ人もいるが少々ネガティブなイメージがあるので、冒険者ギルドでは気ままに漫遊するものという意味から、逍遥者と呼んでいた。
より冒険してそうな方が冒険者と呼ばれないのもおかしな話だが、数が多いのは拠点を決めて活動する側であるし、当然地域事にさまざまな"冒険"となるべき問題はある。
実際に人々にお役立ちなのは旅をしている不定期な連中よりも、地域に貢献している方々だ。
さらに細かく言えば探検者、開拓者等々と活動の種類によって呼び方も変わる。 カデュウの場合も、開拓の実績をギルドに報告したら開拓者と呼ばれる事になるのだが、今の段階で報告する気は無かった。
開拓が何も進んでいないというのもあるが、魔王の件も面倒そうだし、つまらない利権争いに発展する可能性も十分考えられる。
996年間放置された希少素材の数々が眠っていそうな場所に、生活圏の近場から転移出来るのだから、さぞ魅力的だろう。
しかし、それを善意の者が主導するとは限らない。
高確率で何の後ろ盾も無いカデュウらは排除され、権力と財力のある者達で占められる事は商人としての経験からも間違いないと思っていた。
転移陣を使えるのは今の所、カデュウ達だけのようだが、使用する為にはその場にいれば済むなので、カデュウらを鎖に繋いで運ぶだけの装置とするかもしれない。
つまり、今の段階ではリターンよりもリスクが大きいと考えられるので、地盤が固まって安定するまでは隠しておこうという方針だ。
「ほれ、到着したぞ。ここが冒険者ギルドのミロステルン支部だ」
「結構、綺麗な建物ですね。街自体も食文化が豊かで、景気良さそうですね」
「ここは立地が良いからな。北側に行くには平地側のこの街を通るのが常道だし」
ドアを開き中に入ると、そこには比較的新しめの内装と冒険者達がたむろする光景が出迎えてくれた。
そこで、ふと気づく。カデュウ達に視線を送る者達がいる事を。
――あの人達は、少し前にゼップガルドで絡んできた冒険者パーティだ。
また、面倒な事にならないといいなあ。
「アンタ達は……、おい! カデュウちゃんのパーティだ!」
「このような所でお会い出来て光栄です! ささ、どうぞどうぞ、中へ!」
「お前ら、カデュウちゃんのお通りだ! 道を開けろ!」
その予想もしなかった反応によって、やっぱり冒険者ギルドがざわついてしまった。
そして視線がカデュウ達に集中する羽目に陥る。
とりあえずその名前を連呼するのをやめてください。
「なんだよ、ケイン達のパーティが騒いでると思ったら、こりゃ上玉揃いだ」
「美少女のパーティだな……、俺も入りてぇ……」
見知らぬ冒険者達が周囲で囁きだした。
「バカ、お前なんか叩き出されるぞ。なんせ俺が軽く捻られたからな」
「あの闘技場常連のケインが? あのお嬢ちゃんそんな強いのか」
「あの子は……。カデュウちゃんは天使だ」
……あの時、頭ぶつけちゃったのかな。
真顔でとても変な事を口走っている。大丈夫かなあの人。
「そうだな……天使みたいに可愛い」
「カデュウちゃ~ん、俺達も応援するよぉ~!」
「あの黒髪の子もかなり良いぞ!」
「褐色の子が凄く魅力的だぜ!」
「お、おれ、あの無表情の小さい子が……」
冒険者達が次々と妙な声援を飛ばしてくる。謎の大人気だ。
そして女性冒険者達に舌打ちをされている。
……なんでこんな事に。
突然過ぎて反応に困る。大体、天使みたいではない。
仲間達共々、カデュウも困惑していた。
突っ立っているのも何なので、とりあえず受付へと歩いていく。
一々、声援が飛んでくるので非常にやりにくい。
めちゃくちゃ恥ずかしい。何? 何なの? 新手の嫌がらせなの?
「カデュウ、凄い人気者、だね」
「……お恥ずかしい限りです。こんな目立つ状態で、ごめんねユディ」
「いやとても面白い」




