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りそまお~理想の開拓スローライフは魔王城から~  作者: 絵羽おもち
第1章 まったり冒険な開拓準備
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第41話 手段を選ばなかった結果がこれだよ

 隙を生じた事で頭を動かす事が出来たカデュウは、すぐ目の前にあったユディの顔に口づけを敢行した。

 反撃ならばすぐ対応も出来たのだろうが、その予想外過ぎた行動によって思考は停止させられた。

 ――そこへ。


「――【現身の影(キィ・スキア)】」


 魔術語(トゥルーキィ)は成立した。

 悠長に通常の詠唱を行っては潰されるが、短縮詠唱のキーワードならば、ばれなければ発動できる。

 考え、考え、状況と環境を支配する。


「――【幽かなる幻視幻覚(ファンタズマ・デュオ)】」


 幻惑する手段は魔術だけではない。

 カデュウが叩きこまれた戦い方、その本質は、虚をつく事にある。

 短縮詠唱による重ね掛け。

 

 カデュウの姿は少し離れた場所に移動していた。

 ユディの下にはすでにいない。それを察知したユディは立ち上がり構えた。

 

 そう、立ち上がってくれた。おかげで、動ける。

 【現身の影(キィ・スキア)】はカデュウ本人が移動する術ではない。

 あのままでは身動きはとれなかった。


 溶け込む。静かに。静かに。

 幻影と影がユディの意識を引き付けている間に。

 その隙をついて、――何もしない。それも選択肢なのだから。

 

 気配で斬る。幻影で斬る。影で斬る。音を出す。声を出す。静かに歩く。

 ありとあらゆるフェイントをユディは見極める。

 直感を駆使して本物を探す。

 そして、背後から叩きつけられる強い殺気。

 それに反応し、振り返りながら斬りつけた。


 ――しかし、それも幻。

 幻影と合わせ実体と思わせた影と、ユディの頭上に降り注いできた実体ある剣。

 カデュウが持っていた右手の剣。

 複雑な策を張り巡らせた、その一撃は防いだ。


 ならば、左手の剣は。ユディがそれに気づいた時。


 ――そっと。首に置かれていた。

 静かに、静かに、歩み寄られて。

 殺意も攻撃する意志もない、ただそっと置かれたその一撃は、とても優しいものであった。

 決して、ユディの勘は間違っていなかった。

 害のない危険のない者よりも、害のある危険な物を防いだのだから。


 かつて似たようなやり方で、クロスに勝った事があった。

 二度とやりたくなかった方法だが、他に思いつかなかったのだから仕方がない。

 あらゆるものを利用しろ、というのが先生の教えだ。




「よし、終わりだ!」


 ゾンダの合図と共に、拍手が巻き起こる。

 傭兵団の皆さんがいつのまにか集まっていた。

 そして、ユディは驚いたような表情で呟く。


「――なんと。負けちゃった」


 その場にカデュウが崩れ落ちた。ダメージと疲労の積み重ね。

 これ以上は動けなかった。


「カデュウ!」


 崩れ落ちたカデュウの元に、アイスとソトが駆け寄った。


「大丈夫ですか? カデュウは悪い奴です、ぷんぷん!」

「隙を作る為にキスするなんて、えげつない奴だ。とんでもない外道だな!」


 ……評判は悪かった。

 クロスにやった時は後で泣かれて後悔したものだ。

 先生は、良くやった、などと褒めてくれたが。


 混乱させ、隙をつき、錯覚させ、動きを操りやすくする。

 必ずしも成功するとは限らないが、あの状況では他に出来る事はなかった。

 付与魔術の服によって能力こそ向上しているが、感覚はあくまでカデュウのもの。

 ユディのように高速からの予想外の変化という攻撃には対処が難しい。


「下っ端とはいえ、うちの団員相手に見事だった。ぼっこぼこにされながらも、しっかり逆転を狙っていた、その根性気に入った!」


 座ったままだったゾンダが立ち上がり、カデュウの元へとやってきた。

 

「勝敗なんざどうだっていいんだが、肝心なのはそいつの性質だ。俺らと契約するのにふさわしいものを示してもらった。拠点契約の話、受けようじゃねえか。いいだろ爺さん?」

「儂は最初から反対しとらん。お前が気に入って我々が受け入れられる街なんざ、ないかもしれんしな。それなら自分達で作るというのは合理的じゃ。儂好みに仕掛けも出来るしの」


 先程の老人が座ったままゾンダに答えた。

 顎の髭をさすりながら、ニヤニヤと面白そうに。

 

「ありがとうございます、ゾンダさん。ご苦労やご迷惑をおかけする事になると思いますが、これからよろしくお願いします」


 契約の成立を宣言され、カデュウは慌ててお礼を伝えた。

 ぼこぼこにされて、痛くて動きたくないのだが、そんな事を言ってはいられない。


「おう。どうせ傭兵ギルドから干されるのは確実だからな、良い暇つぶしになるさ。それに俺達はクリーチャーだからな、魔王って言葉は俺達に相応しいだろう。それが名だけの飾りでもよ」

「……はは。それは、そうかもしれませんね」


 魔王の下には怪物(クリーチャー)がいる。

 叙事詩やおとぎ話の定番だ。


「そうだ。契約の証として、護衛を付けようか」

「……護衛?」

「うちの団の下っ端なんだが弱っちくてな。修行ついでに見聞を広めてもらおうじゃねえか。お嬢さんだらけのパーティなら丁度いいだろ」


 下っ端? それはまさか……。

 と考えるカデュウに近寄る人影。

 思っていたのと同じ人物。


「ユディ、聞いてたな。俺達の雇用主と遊んでくること、それがお前の任務だ」

「うん、わかった」


 短く答えたユディは、やはり淡々と少しだけ微笑んでカデュウへ挨拶をした。


「ユディラ・ゼッテ、だよ。よろしくね」

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