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りそまお~理想の開拓スローライフは魔王城から~  作者: 絵羽おもち
第1章 まったり冒険な開拓準備
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第40話 隙を作るためにはなんでもします

 合図と共に武器を構えたカデュウは、その一瞬で相手がいなくなっている事に気付いた。


 ――すぐさま、その場を飛びのく。

 どこへ、などとそんな事を考えている暇も探している暇もない。

 ユディと呼ばれた彼女は、カデュウが立っていた真上から降ってきた。

 即座に動いていなければ、そこで終わりだ。


「避けられるんだ。じゃ、訓練にはなるかもね」


 その言葉を呟かれた時にはすでに、武器が投げ放たれていた。

 回転しつつ上空から弧を描いて飛んできたそのナイフを、カデュウは後方へと躱す。


 ……気が付けば先程まで立っていた場所にユディがいた。

 一瞬、ほんの一瞬。

 上空のナイフに気を取られた隙に。

 ユディはそのまま降ってきた上空のナイフを掴み、いつのまにか両手にナイフを構えている。


 ……2本?

 そのナイフが2つ同時に、今度は左右から投げられた。

 いや、さらに上下からも。

 そしてすでに、ユディは別のナイフを構えている。

 いくつ隠し持っているのか、目に見える数は当てに出来なかった。


 投げられたナイフと共に、ユディも正面から細かく跳ねながら飛んできた。

 もの凄い速さ。

 カデュウは飛んでくるナイフの隙間を潜って、斜め右下へと飛びのくが……。

 ユディの軌道が追従するようにぴたりと変わった。

 斜めに回転をして先程投げられ、その付近にあった宙のナイフを掴み――。


 ――その足で握られたナイフがカデュウの胴を薙ぎ払った。


「ごほ……」


 完全なる想定外。

 さらに追撃が来る。その別のナイフでの攻撃はかろうじて防げた。

 そこからさらに連撃、両手に持つユディのナイフが、縦横無尽に襲い掛かる。

 まるで宙に置くように投げられたナイフを、掴んではカデュウに叩きつける。

 ユディの身体は変幻自在に動き回っていた。


「ぐはっ……!」


 数発まともに食らいカデュウは吹き飛ばされた。


 異常な動きだ。

 意表を突くという意味では戦い方はカデュウに近いが、より動的。

 身体能力と技術に優れた戦い方。

 言うなれば、才あるものの戦い方。


「どうしたぁ。もうおねんねか? 負けたっつうんなら俺も止めの合図を出すが、どうする?」


 勝負は、合図があるまで。ゾンダのその言葉を聞き、まだ終わりではない事を思い出した。

 そうだった。

 実戦でならすでに切り刻まれているだろうが、この戦いでは決定打ではない。

 心が折れた時が、真の敗北なのだ。


「……まだ、やります」


 もっと集中しなければならない。

 完全に格上の相手だ。

 この強さはカデュウの中の記憶、かつての修行でクロスと戦っていた頃を思い出す。


「じゃ、次はそっちからどうぞ」


 ありがたい。今の速度で攻撃され続けたら手が出せなかったかもしれない。

 少し時間をかけられるのは本当に、ありがたい。


「――【幽かなる幻視幻覚(ファンタズマ・デュオ)】」


 魔術語(トゥルーキィ)を発動し、そのまま剣を振りかぶった。

 真上から振り下ろされる剣をユディはなんなく避け――、直後に大きく後ろに飛んだ。


 気取られた。

 カデュウの真上の攻撃は振り下ろされておらず見えない逆手の剣での横薙ぎが本当の攻撃だった事を。

 他にも小細工をしていたが、大きくその場を動かれて無駄に終わった。


「(幻覚の魔術……? 視覚は当てにならないね)」


 ユディが警戒の色を強めた。今の初撃で当てられなかったとなると難しくなる。

 まだ動いては来ない、手番は譲ってくれるという事だろう。

 ならば、と一気に跳躍してユディへと飛び掛かった。


 幻影で見えるカデュウを左から、気配だけを右から切りかからせる。

 優れた戦士なら視覚だけでなく気配を察知し防げるものだが、気配までずらされたらどうか。

 これが、【幽かなる幻視幻覚(ファンタズマ・デュオ)】の効果だ。

 何も感じないはずの一撃を避けられるかどうか。


 ――しかし、それでも。カデュウの一撃は防がれた。

 幻影で身体の位置を錯覚させたはずだが、何も見えていないはずの剣がいとも簡単にナイフで弾かれる。

 そのまま切れないナイフを叩きこまれ、カデュウは再び吹き飛ばされた。


「ふーん、面白い魔術。殺気も誤魔化すんだね。直感で防がなければ当たってた」


 さすがに直感までは欺けない……。

 気配は他者から発するもの、幻術でごまかしようもある。

 だが、直感は本人の力。


 この魔術は攻撃の視覚情報と、殺意などと言われる攻撃の気配を錯覚させるもの。

 あくまで、術者から発するものに依存しており、他人の勘に干渉は出来ないのだ。


 先生によると、他にも音や空気の振動など別の方法でもこの術の影響を受けず察知出来るらしいが、人によって察し方も色々のようだ。

 小手先の児戯だと言っていたから、このレベルの相手には通じにくいのだろう。


「面白かった。じゃ、行くよ」


 その言葉からわずかに遅れユディが消えた。その間に準備をしろ、という意味だ。

 一直線に飛ぶ、先程のカデュウに意趣返しするように、まっすぐ。

 早い、しかし防御は出来――

 ――なかった。


 至近距離でさらに加速しタイミングをずらされ、両手のナイフで叩かれた。

 直後、首が両脚で絡められ、そのまま反転跳躍。

 ――カデュウの背中に衝撃が走る。回転して叩きつけられたのだ。


「これでおしまい、かな?」


 堅い石畳の床に投げられ、とても喋れなかった。

 胸元に伸し掛かられたまま、ナイフを突きつけられている。

 その、美しい褐色の顔を下から眺めながら。

 

「……ん? あなた、まさか男の――」


 直に身体に触れる事になったユディは、その違和感に気付いた。


 予想外だからこそ生じた、一瞬の隙。

 それに乗じて、カデュウの策が実行される。


「……っ!?」


 唇の感触に驚くユディ。戦闘中に起こるはずのない、好意を示す行為。

 唇と唇が触れ合う形の口づけ。

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