第39話 褐色の少女
「実は魔王さんに、街を作れって頼まれておりまして」
「……魔王? もしかしておとぎ話みたいな大昔の伝説のアレか?」
カデュウの突飛な説明に、ゾンダは興味深そうに聞き返す。
1000年前に降臨した魔王の伝説は、おとぎ話同然となってはいるが、今も人々の中に残っていた。
魔王を倒した偉大なる英雄達、その物語は大陸中の人々が知る所だ。
「ええ。実は封印されているだけで、まだ生きてるんです。でもずっと同じところから出られなくて、暇だから街を作れなどと……」
「なんじゃそりゃ、ははは! 変なオチがついてるとは逆に真実味があるな、嘘なら嘘でぶっ殺しゃ済む話だ」
嘘だったら死亡確定だったらしい。やっぱり正直なのが一番である。
「いや、気に入った。俺らもよ、もうすぐこの街を出て行かにゃならんのだが、行先は特に決まってなかったし、暇だし、別に契約してる街もない。拠点が出来るのはありがたい事だ。生活費も馬鹿にならん」
「ま、実際に見るだけ見てもいいじゃろうな。王をぶちころがしちまった時点で、この辺じゃもう仕事はないじゃろ」
傭兵の事はよくわからないが、少なくとも雇い主を殺すような傭兵など危な過ぎて雇う気にならなそうな事だけは理解出来た。
「だが、最近の雇い主が、どいつもこいつもクソみてえなクソ共でなぁ。繊細な俺様のハートは、ギッタギタなのよ」
「雇い主の王をぶち殺して、腕を血まみれにしたまま、大した距離ではないとはいえ、堂々と街を練り歩いて帰ってくるような奴の、どこが繊細なんじゃ?」
「うるせえジジイ」
ゾンダと横の老人が掛け合いのような会話をしていた。
つまり繊細なハートのおかげでお仕事が無くなったらしい。
繊細なボディのお方も命が亡くなったらしいが。
「そこでだ。俺達を雇える器かどうか、覚悟を見せてもらおうか。人間、危機に陥った時にこそ本性が出るものだ」
「おい、私の仲間を殺すなよー。滅多にいないレアモノなんだぞー」
レアモノ呼ばわりされているが、ソトからありがたい援護が入った。
この人達の基準だと、普通に命に関わりそうだし。
「ウチの一番下っ端の奴と戦ってもらう、殺しゃしねえから安心しろ。勝てとも言わん。俺が認めたら、それで良い。どうだ、やるか?」
やりたくない。
最強傭兵団の正規メンバーとなんか戦いたくなんかない。
――しかし。
もうすでに引き返せないぐらいに発言をしてしまっている。
この傭兵団が欲しいと、言葉を並べてたててしまっている。
ここで怖気づいて断ったら、逆に不誠実な輩として処分されかねない。
どちらがよりマシなのかと考えれば、答えは決まっていた。
「ユディ、お前やれ」
「了解、父さん」
その声は背後から聞こえた。
振り向けば、そこには同い年ぐらいの少女が、ひっそりと立っている。
……気付かなかった。
気配を感じないとは、かなりの手練れだ。
「俺の娘のユディだ。この団の一番下っ端、こいつが相手だ」
「この子をいたぶればいいんでしょ?」
無表情なまま、ユディと呼ばれた少女はそう答えた。
褐色の肌は父親よりは薄目で、銀髪のショートヘアーが良く映える。
「そうだぞ、ユディ。遊んであげなさい」
いたぶる事を遊ぶと認識しないで欲しい。
「カデュウ、私が代わります? 斬り合ってみたいです」
「僕もそうしたいのはやまやまだけど、……試されてるのは僕だからね」
ユディと呼ばれた子がカデュウの前にやってくる。アイスがその気になるわけだ。
――強い。
しなやかな身体から見て、スピードのある相手だ。
「武器はそこの練習用のやつ、好きに使え」
ゾンダが顎で指し示した場所に、色々刃のない武器が置いてあった。
自身の手持ちに近いサイズの剣を2つ、その中から借りる。
ユディという少女は、すでに持っているようだ。
ナイフを左手に持ち、右手は手ぶらである。
「じゃ、はじめろー。決着は俺がやめろって言ったらだ」
ゾンダの声を合図に戦いが始まった。




