第37話 のんびりした傭兵団
ミロステルン王国の兵士達は妙に落ち着きがなかった。
何か大変な事でも起きたのだろうか。
それにしては、駆け回っている様子は見られない。
しかし国家の話などカデュウ達には関係ないのだ。
問題なく街の中に入る事が出来たので、それだけで十分であった。
飲食店が多く立ち並ぶこの街は、農作物の産地であり、食文化を担う街でもある。
それだけに旅人の数も多く、街も活発な様子であった。
「ソト師匠、この街にお知り合いの傭兵団がいるんですよね?」
小さな金髪の師匠の後ろを歩くカデュウが、あちこちを眺めながら尋ねた。
「多分な。他の仕事が入って移動した可能性もあるが」
傭兵団なので仕事を頼まれればそちらに移動するのは当然であろう。
その場合は無駄足になるが仕方のない話だ。
目的のルクセンシュタッツまでやや寄り道になるが、慌てるような旅でもないので、ついでに傭兵団の所へ寄ってみようという計画だ。
「さてさて。あいつらどこにいるんかな」
……行先もわからず先導していたらしい。
何という案内人だろうか。さすがソトだ。
「どこかで話を聞いてみますか?」
「イスマの不思議パワーではわからないです?」
アイスはそういうとイスマの頭を撫でだした。
「……そんな細かいとこまでは無理。……あと、アイス邪魔」
ぺいっ、と撫でていた手が引きはがされた。
「やはり酒場で聞いてみるかな……。ん? ……あいつは」
ソトが見つめた先にいたのは、地味な風貌の、まるで駆け出しの冒険者のような男であった。
両手に荷物を沢山抱えて、どこかに運んでいるようだ。
その男にソトが近づき、声をかけた。
「やあ、地味ヒューマン。良い所で会った」
「おいおい、いきなりケンカ売ってんのか……、ってソトか」
「こんな可愛らしい声の可憐な美少女が、他の誰に見えるんだ。耳と目が腐り落ちたのか、フルト」
フルト、と呼ばれた男はソトのその言葉に対して露骨に嫌そうな顔をしてみせた。
「俺には悪魔や邪神にしか見えないが……。しかしソトがいるとはな」
「まったく無礼な奴だ。まあ、お前がいるという事は団もまだいるんだな」
「ああ。そろそろ出るからこうして準備してるけどな」
「じゃ、案内してくれたまえ」
「おう、いいよ。……後ろの奴らも来るのか?」
「もちろんだとも。私の仲間だぞ?」
「どうも、仲間です。カデュウと申します」
なんとなく流れで挨拶をしたカデュウを、じろじろと見つめるフルト。
「まじかよ、アンタ仲間とか出来たのかよ。しかも超可愛い子を含む女の子パーティだと……。でも、どうせ次会った時にはまた一人なんだろ」
「今度こそ大丈夫だ! 私を理解してくれた最高のパーティだぞ! 私は信じている! なあ、カデュウ!」
ソトにとっては確かに最高のパーティなのだろう。捨てられないし。
その最高のパーティ側にとっては寄生されているようなものとも言えるが。
「アンタ、そんな純真な子供達を騙してまで……。そこまで落ちぶれたか」
「うるさい黙れ。さっさと案内しろ、地味フルト」
「わかったわかった。ついてこい」
案内役につれてこられた先はミロステルンの街、北東の王城がある区画の端っこにやってきた。
軍事施設のようなものが立ち並ぶ北東門の近くにあるその傭兵の拠点は、傭兵が街で暴れ出さないように兵の近くに、という配慮の位置なのかもしれない。
ここまでの道のりで、やけに慌てている偉そうな身分の人々の姿が見えた。
やはり何か事件があったのだろう。
「ほら、ここだ。俺は準備で忙しいから、じゃあな」
そう言い残してフルトは建物脇の角へと消えていった。
傭兵という割には、親しみやすそうな良い人に見える。
「いくぞー、ついてこい」
遠慮なくソトが正面の扉から侵入する。案内の人も無しに勝手に入って大丈夫なのだろうか?
などと考えている間にソトは進んでいく。
「よーし、ここかー。ばーん!」
掛け声とともに扉を開けた部屋の中には、ティーカップを持ってくつろいでいた男がいた。
耳が長く美形揃いで名高いエルフ。ただし、肌は小麦色であった。
ダークエルフ。かつて神話の戦いにおいて邪神側についたとされる種族であるが、この時代においては、そんな古い時代の事を持ち出して差別する輩は少ない。
見た目の良さも手伝って、比較的共存が出来ているようだ。
「おや、ソトさんじゃないですか。どうされました?」
「なんだ、リーブルか。団長はどこかな?」
リーブルと呼ばれたダークエルフは、指を差して答えた。
まぶしい笑顔と共に。
「団長なら逆側ですよ」
「ありがとよー。ほれ、こっちだ」
「みんな、親切さんですね!」
わけもわからず、とりあえず教えてくれたダークエルフの人にお辞儀で礼だけして、ソトの後を追った。
アイスの言う通り、良い人が多い傭兵団だ。傭兵は荒くれ者ばかりと聞いていたから、その辺りは懸念していたのだが、これなら大丈夫かもしれない。
「今度こそ、どばーん!」
その開け放たれた扉の中には、――怪物がいた。




