第35話 【設定回】地理歴史・マーニャ地方南部
「では次に、マーニャ地方南部の話をしようか」
「マーニャ地方南部には、ゼップガルド、ノイエンガルド、ミロステルン、ベルマイヤー、ルクセンシュタッツの5つの王国がある。これらが南部同盟と言われる国々だ」
ソトの言葉は続く。
ぶつけた後頭部をさすりながら普通に歩いている。
師匠は学習できる子だったのだ。
「ゼップガルドは以前やったので、今回は他の4国を教えていこう。まずはノイエンガルド王国。この国はフィーネ帝国よりもずっと古く大陸歴700年代頃には存在していた」
フィーネ帝国設立が106年前なので大陸歴890年、つまり約2~300年前から続く、歴史の長い国といえる。
「この国が他と違ってフィーネ帝国の脅威を退けられた理由が、その王都が難攻不落と言われる名城だという事だ。ノイエンガルド城、山に作られたこの頑丈な城には“鉄の剛将”と言われる防衛戦の名手オルガルド・ブッフェルトが守っていて、フィーネ帝国の精鋭軍でも落とす事が出来なかった」
ソトからも軍事的な評価の高い山地の城塞都市ノイエンガルドは、包囲されたとしても自給自足が可能になっていて長期の籠城が可能らしい。
山の恵みを用いた食材が多く、水も良質で白ワインの名産地でもある。ドワーフとの繋がりも深く独特の食文化が形成されていると聞く。
都市地下にはヤギのチーズ、ワインやビールが沢山保存されているらしい。
カデュウにとって、有名な城も含めて行ってみたい都市であった。
「次がミロステルン王国。ゼップガルド南南西に位置するこの国は、簡単にいえばノイエンガルド城のおかげで生き延びた国だな。とはいえ防衛戦には援軍を出しているし、戦い抜いたからこそ残っているのだが」
「なかなか辛辣な評価ですね」
「北のノイエンガルドと南のミロステルンが入れ替わってたら滅んでただろうしな……。とりあえず次だ」
実に雑だが、直近の歴史的には語る内容があまりないのかもしれない。
食べ物でいえばミロステルンの街の方は小麦の産地であり、白ビール――ヴァイツェンの生産地として知られている。
こちらも水の質が良く、治安も良いのでゼップガルドの街よりも繁栄していたはずだ。しかし、今の王になってから締め付けが厳しくなり景気が落ち込んでいるらしい。
平地であり、土壌も豊かなこの地は美食家が愛する地の1つである。
「ゼップガルドから見て南西に位置するのがベルマイヤー王国。こちらも同系統、ノイエンガルドのおかげで助かった国だ。歴史的にはノイエンガルドに次いで古く、フィーネ帝国とほぼ同時期に建国されている」
「こっちも残念な評価なんですね……」
「周囲の環境のおかげで助かる国もあるというわけだ、運が良いというのは大事だな。無論こちらも頑張って戦ってはいるんだが」
「100年前で古いって事は、この辺りの国々ってそんなに古くはないんですね」
この辺りはあまり発展しておらず、魔物達も多い地域だ。
魔物退治を好む冒険者としては稼ぎやすい場所かもしれない。
さほど目立った特産品もなく、あまり注目されていない辺境だ。
地形としては山と平原が混ざり、深い森がある。
「大昔に、ドワーフの鉄槌王マルディンが建国したヴェルグ王国という、当時の大陸最強だった国がマーニャ地方全域を支配していた。だが、鉄槌王の死後分裂してな。その後はその系譜である西ヴェルグが、マーニャ地方中部~南部を治めていた」
「しかしその国は徐々に小さくなっていき、200年後ぐらいに反乱で滅びた。その時も小さな国々が生まれたらしい。大国が滅びた後は、小国が生まれやすいのだろう」
「今の国々はフィーネ帝国が誕生してから滅びるまでの100年のドサクサで領土を獲って王国を名乗っている国ばかり、ってことだな」
ソトの語る鉄槌王は大陸歴300年代前後の人物だ。この王はバルド・ヴェルグという白兵戦闘術の創始者としても知られており、カデュウはそちらの方面から先生に教わっていた。
このバルド・ヴェルグはドワーフが用いる戦闘術なのだが、後にフィーネ帝国の時代に人に最適化されたものがバルド・フィーネと呼ばれ残っているらしい。
「そしてルクセンシュタッツ王国。ゼップガルド南に位置するこの国は、フィーネ帝国の脅威が露わになってきたときに、南ミルディアス地方クレメンス連合が手を回して扇動し、独立させた属国だ」
「初代ルクセンシュタッツ王の頃はクレメンス連合の言いなりだったらしいが、民の声もあって現在の王ルメーゲに代替わりした時にクレメンス連合の鎖を断ち切って、戦争を起こし独立を勝ち取った。尚、その際にもゼップガルドや他の南部王国と手を組んでいる」
山と森の国であり、ミロステルンと共に南ミルディアス地方のすぐ北にある国ルクセンシュタッツは、文化的にも両者に影響されている。
この国もワインが有名なのだが、大きく違うのはルクセンシュタッツワインは高級志向という点だ。
王家の紋章が目印のこのワインは、宮廷醸造所にて王家が質の良いものだけを作らせていて生産数が少なく希少なのだ。
父の取引先のワイナリーでもあり、カデュウの教育の為という名目で良く飲みに行っていた。
教育と言いながらほったらかしだったので、父の友人の子であるクロスと遊んでいるだけだったのだが。
「まあ、小国にも小国の歴史があるという事だな。えっへん」
意外に物知りなソト師匠の講義は終わったようだ。
ドヤ顔を向けてアピールしてくるのが実に微笑ましかった。
次の野営の食事は少し豪華にしてあげよう。
2連続の設定回で本当にすみません……。
以後の展開を考えるとこのタイミングが丁度良いかなと。
もちろん食文化の箇所などは読み飛ばしていただければw
次回からまた普通に話は進んでいきます。




