第33話 ついにねんがんのパスタをてにいれたぞ!
ひとまず中央広場付近でカデュウ達は近くの壁に寄りかかった。
「うーん、まずは村の食料問題の解決をしないといけないんだけど」
「やっぱり農家の人達に聞いてみるのがいいんじゃないですかね?」
アイスの提案はもっともであった。
食料供給が得意なのは、やはり食料関係の専門家だろう。
「転移陣のとこにある村の人達に、開拓しないかって聞いてみたらどうです?」
「うーん。すでに土地持ってる人たちが来るかなあ……。とりあえず聞くだけ聞いてみようか。でも農業だとすぐには収穫出来ないから、何か即効性のある別の分野が必要だね」
「……あそこのばーさんにも聞いてみたら」
イスマが指を差した先には、ゴブリン退治を頼まれたカールス村のお婆さんが大きな背負い袋を抱えてひょこひょこと歩いていた。
大量の草がパンパンに詰まり、上からはみ出ている。
「お婆さん。こんにちは。この前はお世話になりました」
「あんだべ? おやおや。あのめんこい子らでねえか。元気にしとったか」
「はい、おかげさまで」
「お婆さん。実は僕達、誰もいない新しい土地で開拓をしようとしているんですが、どなたかそういう事に興味のある人ってご存知ですか?」
興味深そうな顔でカデュウを見つめるお婆さん。
「土地はあるんじゃな、野山や森はあるかえ」
「エルフの森の裏側らしいですから、見渡す限り全部森ですね。山になってる部分もありましたよ」
「ほおー。そらええのう。儂も新しい場所に行ってみたかったんじゃね。爺さん連れて開拓しながらくたばるのもええじゃろ」
「え、お婆さんが来るんですか? 何がいるかわからない土地ですよ?」
「だからじゃよ、儂らのような年寄りじゃから丁度良いんじゃ。いつ死んでもおかしくないじゃろ。ひゃひゃひゃ!」
「ありがとうございます! 山菜採りのお婆さんが来てくれるととても助かりますよ」
「嬉しい事言うでねえか。どれ、村のもんに伝えて、爺さん連れてまたここに来るだで。いつ頃来たらええかね?」
「そうですね、僕らも一度街を離れるので、余裕を見て12日後ぐらいにゼップガルドのベルスの宿、という所に来て頂けますか。何日か前後するかもしれませんが……」
「ええよええよ。こりゃあ、楽しみが出来たのう」
こんな簡単に新たな住人が増えるとは。しかも最も必要としていた食料担当者だ。
山菜採りのお婆さんは、大きな荷物を抱え交易ギルドの方に歩いていく。
多分山菜を卸しに行くのだろう。
カデュウ達もそろそろ昼食の時間だ。
「ソト師匠、おすすめの店はどこでしょう?」
「良い質問だ。よーし、ついてこい」
いや、おすすめを聞いているのだが。
「そんな顔をするな。どうせ大した店はないんだ、この街は。選択の余地が無い」
「なるほど。さすがに詳しいですね、師匠」
「ふはは。何しろ、食べ歩くぐらいしかやる事なかったからな!」
「ああ……。ぼっちだったから長い事滞在してたんですね……」
「長い事じゃない、ほんのちょっとだ! ほんの2週間ぐらい!」
長いかどうかはともかく、ほんのちょっとではない気がする期間であった。
2週間もあんな事して絡んでいたのか……。
ギルド内であんなにはれ物扱いだった理由がなんとなくわかってしまう。
「さ、ここだ。南ミルディアス出身の料理人が出す、産地の物を使ったパスタ屋だ」
「師匠! 素晴らしい選択です!」
「おお? なんだ、そんなにパスタが好きなのか?」
「人として当然です」
「……そ、そうか。まあ、ここの店はこの辺りじゃ唯一美味いと言って良い」
そんな期待の店に入り早速注文をする。
「それでは、ソーセージときのこのアーリオ・オーリオで」
「早いな、カデュウ。では私はブルーチーズのショートパスタにするか」
「……よくわからない、カデュウに任せる。うまいのよろよろ」
「私もお任せですよー」
「俺も何がなんだかわからん、任せた」
パスタが無い国の人々は仕方がない。
無難な選択として牛肉を煮込んだラグーソースパスタを注文しておいた。
「食料供給は最低限は確保出来たから、後は建築の労働力とか防衛力かな」
あの魔王城を飛んでた謎のドラゴンは、どうやら魔王の関係者らしいので襲ってこないのかもしれないが、確実ではないし他の魔物などもいるだろう。
森に住んでいそうな狼や熊などでも十分危険なのだ。
「住むところは必要ですよね、一時的にはボロ城でもいいですけどー」
「防衛。つまり戦力か。それなら私に心当たりがあるな」
「おお。それは助かります、ソト師匠」
「傭兵団なんだが、まだ街との拠点契約をしてなくてな。フリーなんだ」
拠点契約とは、傭兵に住居を提供し、色々な面で便宜を図る代わりに街の防衛をしてもらうという契約だ。
契約内容によって、色々変わるのだろうが基本的には賃金か食料供給で支払われるらしい。
いざという時に来るかどうかも当てにならない国の軍隊と違って、街で自前の戦力が確保出来るというわけだ。
傭兵団の側としても、拠点がないというのは辛いものなのだ。
どうしたって生活費がかさむのは避けられない現実である。
「人柄が問題なければ、戦力的には頼りになりそうですね。……でもまだ何もない土地に来てくれるのでしょうか?」
「さてな。そこは交渉次第だろ、将来発展する見込みがあって自分達の利に繋がるなら、と考えるかもしれないし」
「うーん、すでに発展している街がいくらでもあるのに、そこは難しいのでは……」
「あいつら変わり者だからな、何が琴線に触れるかわからん。紹介してやるから、聞くだけ聞いてみるか?」
「そうですね。聞いたって殺されるわけじゃないですからね」
「ははは。多分な」
え? 多分?
「よし。それじゃ、あいつらのとこに行ってみるか。確か今はミロステルンにいるはずだ」
「今、多分って」
「お、パスタが来たぞ。じゃー、食べたら出発しようか」
「食べましょう」
「このニンニクとオリーブオイルに地元のソーセージが合いますね。んー、美味しい! この店は当たりですよ」
「カデュウ。この食べ物美味しいですね! 故郷にも似たようなのはありましたが、全然味付けが異なります」
「……うま、うま」
アイスやイスマの方も満足されたようだ。
美味しいパスタが評価されるというのは嬉しいものなのだ。
それは、パスタ好きのカデュウにとって大切な事であった。
「ははは。そうだろう。伊達に2週間食べ歩きはしていなかったぞ」
「ソト師匠ありがとうございます。師匠と出会えて良かったです!」
「いやー、えへへ。照れるにゃぁ……。いやまて? パスタの事しか褒められてなくない? なくなくない?」
こうして楽しい昼食を終えて、急遽ミロステルンを目指し出発する事になった。
今回はルクセンシュタッツで馬車職人に会わなくてはならないし、12日後には山菜採りのお婆さんを魔王城に案内しなくてはならない。
余裕をもって、冒険者ギルドの依頼は受けずに行く事にした。




